3日目 かぼちゃ

 作り置きのご飯を温め直しながら、『鍵』の話を聞く。彼は聞かれなくても良く喋った。職場によくいるおじさんみたい。

「何十年か前にわしの蔵は取り壊されてしまっての。それからは、あんてぃーくしょっぷをあちこち回る日々じゃった」

 頭にちょこんと付いた目を細めて話す姿は穏やかで、小さな口でアンティークショップ、と発音する時はどこか誇らしげですらあった。蔵が壊され鍵としての意味をなさなくなったことは悲しい出来事のはずなのに、アンティーク品として第二の人生(?)を歩んでいる。急に、可愛らしいおじいちゃんのように思えてきた。考えてみれば、鍵の形をしているか、人の形をしているかの違いだけであとは似たようなものかもしれない。

「おぬし、順応性が高いのう」

 ひととおり喋り終えたのか、おじいちゃんは半ば呆れたように呟いた。私はレンジから熱くなったタッパーを取り出す。

「だって、動いてる以上信じるしかないし、付喪神と言ったっておじいちゃんなにか怖いことするわけじゃないでしょう?」

 おじいちゃんはその答えを聞き、ふうむと考え込むように唸った。

「人間は頭が固い、かぼちゃ頭だと思っていたが、おぬしはその煮付けのようにほくほくしているのう、感心感心」

 タッパーの中身を見て出た言葉だろう。神様、それも鍵のかたちをしたものとは思えない、生活感にあふれた言葉に、私は笑った。

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