第12話 ふたりっきりで話だぁ? いいぜ、乗ってやんよ

「……ふぅ。あっけねぇな」


 俺は地面に横たわったスパーリングロボットを見下ろしながら、汗をぬぐった。双天一真流は二刀流の流派であるが、剣を失ったときの徒手格闘の備えも十二分にあるってヤツだ。

 ちなみに、徒手格闘にも奥義の名前がある。それだけ大事にされてる考え、ってこった。


「さて、後は任せて……ん?」


 整備兵に後片付けをさせようとしたら、見覚えのある気配がした。

 間違いなく、ライラだ。


「よお、ライラ。もう落ち着いたのか?」

「はい。何とか」

「そうかい」


 メンタルは強い感じだからな。動揺するときゃするが、それでも立て直しが早いんだろう。

 だが、まだ何かモヤッとしたもんを抱え込んでるみてぇだな。


「話がありそうだな? 今は空いてるぜ」

「お心遣い、ありがとうございます。では、私の部屋まで来ていただけますか」

「二人っきりがいいってか? ついてってやんよ」


 さっきの模擬試合で感情を引き出したはいいが、まだ本音をぶつけてくれちゃあなかったな。いい機会だ。


 歩いてしばらくすると、ようやくライラ専用の部屋に着いた。

 ライラ自信もそうだが、アロマの香りがするぜ。こういう匂いは嫌いじゃねぇ。


「どうぞ、おかけください」

「あいよ」


 俺が座るよりも先に、俺に促すたぁよく分かってんじゃねぇか。

 もうちょっぴり待たされ、紅茶とお茶うけを振る舞われる。


「うめぇな」


 実家にいた頃のそれより、はるかに美味い。こういう上等なモンにも舌が慣れちまったが、それはそれで楽しいってヤツだ。

 俺は紅茶をもう一口飲んでから、話を切り出す。


「で? 俺に茶菓子を振る舞うためだけに呼んだワケじゃねぇだろ、ライラ」

「もちろんです。ゼルシオス様には、私とアドレーア様のこれまでの出来事を知っていただくためにお招きしました」


 やっぱりか。

 あんま他人の過去に興味はねぇが、いずれ触れるとは思ってたさ。


「これまでの……ねぇ。ま、その様子じゃ、1, 2年程度付き合ったってワケでもなさそうだな」

「その通りです。私はアドレーア様がこの世に生まれ落ちてこられたその時から、おそばにいました」


 アドレーアが生まれてきてから……ねぇ。


「あんた、いくつだっけ? あと、アドレーアの年も知らねぇんだった」

「私は51、アドレーア様は45でございます」

「あのナリで45かよアイツ!?」


 俺より年上って……。ライラはともかく、アドレーアは意外すぎだぞ。

 とりあえず……元の世界でいうと、ライラが20.4でアドレーアが18ってとこか? 思いっきり若いけど、それでも俺より年上かぁ。


「っつーと、アンタは6歳……二歳とちょっとからアドレーアのもとにいたワケだ」

「二歳……ですか」

「あん? 間違ってんじゃねぇのか?」


 ライラが“二歳とちょっと”っつー俺の言葉に、妙な反応を示す。

 この世界じゃ、6歳は6歳であって、二歳じゃねーはずだ。正確には2.4歳だが、まぁそれはどうでもいい。


 俺は核心を突くべく、質問を繰り出す。


「ライラ、アンタ“地球”って知ってるか?」

「え? ああ、はい」


 案の定だ。

 俺だけが特別、ってワケじゃなさそうだな。いや、右手甲の傷は知らんけど。


「俺も前世は地球人だったクチだ。日本人だったんだよ」

「そうなのですか? 実は、私もなのです」

「珍しいもんだな。だから剣技がうまかったのか?」

「そうですね。他にも、前世の家は過去にはしのびの一族だったもので」


 道理でクナイの扱いが、なぁ。

 前世の日本じゃクナイは禁じられた武器になったらしいけど、それでも技を継承してきたってことか。


 だが、直接戦闘ってのは相性が悪かったな、ライラ。

 もっとも直接戦闘ってよりは、忍よろしく暗殺や工作が得意なんだろうが。


 さて、俺も少し話すかな。


「あー……俺もな、前世は二刀流使いだった。道場で後を継いだはいいが……くらの事故で死んじまってな。ここに来たはいいが、俺にゃあ心残りがあってな……」

「婚約者でもいらしたのですか?」

「んー……近いな。幼馴染だ」


 あいつ、俺が死んでからどうしたかなぁ。

 未練って言えば未練なんだよな……。


「なるほど。恐らく私ではないでしょうが、気になるところですね」

「ああ。ところでライラ、あんたも事故で死んだらここに来たのか?」

「いえ、私は老衰で亡くなってから転生しました。ゼルシオス様とは異なります」


 あー……一概にどういう死に方か、パターン付けがなされてるワケじゃなさそうだな。

 俺とライラ以外にも、何となく転生者がいる気がする。


 つーか、この世界の幼馴染も、あいつと雰囲気似てたんだよな……。もしかしたら、あり得るかもしんねぇ。


「もしかしたら、会えるかもしんねぇな。ところで、俺たち以外に地球からの転生者は何人いんだか」

「私も、そこまでは存じません」

「だろうな。さて、アンタとアドレーアの出会いだったか」


 そろそろ話を戻さないとな。

 元々、俺はライラの話を聞くために来たワケだし。


「アドレーアとは、ずっと一緒にいたのか?」

「はい。友として、従者として、ずっと付き添わせていただきました。それはもう、幼いころからずっと――」


 この後、熱のこもったアドレーアに関する話をとうとうと聞かされた俺である。

 だが、悪い気はしなかった。


「だからこそ私は、ずっとそばに控えていたのです」

「あー……んじゃあ、わりぃ虫を追っ払う役目もあるワケだ」


 もちろん、わりい虫とは俺のことである。


「もしかしたら、それが悔しかったのが俺への原因か?」


 俺の勘に頼った、だが半ば核心に迫ったこの質問に、ライラは――珍しくも、目を丸くした。

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