第8話 アニメオタク兼クワカブ飼育者

「という訳で、今週の日曜日に私のネット友達がくることになったの」


 昼休み、 ナツキとハルとタクミの3人は2-3の教室で昼食を食べながらしゃべっている。


「阿古谷ちゃん、久しぶりにこっち来るんだな」


「そう。なんか桑方さんにも会いたいって言ってたな」


「え、私に?」


「色々話したいんだってさ」


 とはいうものの、出会ってまだ間もないハルに、いきなり別の高校の友達を紹介して果たして良いものなのか? ナツキの頭に少しの不安がよぎる。


「私も阿古谷さんに会ってみたいな~ 色々喋りたいしさ!」


 ハルは笑顔で即答する。どうやらただの杞憂だったようだ。よく考えれば、彼女は誰とでも仲良くなれる才能の持ち主だ。余計な心配は必要なかった。ナツキは少し安心し、食べかけの焼きそばパンを食べ始める。


「あ~早く日曜日にならないかな~」


「だな~ 俺も久しぶりに阿古谷ちゃんに会ってみたいわ」


「そうだね」


 3人とも日曜日のイベントに期待を膨らませていると突然タクミが立ち上がった


「あっ、やっべもうこんな時間か!次移動教室だった!!急がねえと間に合わないぞ…… という事でじゃあな~」


 時計は午後1時25分を指している。タクミはすごいスピードで弁当箱を片付け、まるでトカゲのような速さで教室を出ていった。


「ったく……あいつは……」


「川西くん間に合うかな…」


 タクミのことを考えていると教室に昼休み終了のチャイムが鳴り響く。そしてそれに混じってバタバタと廊下を走る音が聞こえてきた。


「あ~…… ありゃ間に合わないな……」



 ──日曜日


「お~っす!ナツ、久しぶり~」


 昼の川西クワガタセンターに元気な女性の声が響き渡る。


「お疲れ様。こうしてリアルで会うのは久しぶりだね、レイ」


「阿古谷ちゃんおひさ~」


「タクミくんも久しぶりだね~ 元気してた?」


「おうよ!」


 ナツキとタクミは1年ぶりに会うレイに挨拶と他愛のない会話を交わしている。レイが住んでいる亜楽野市からこの店までは電車と徒歩で片道約1時間ほどかかる。彼女が普段通販を利用しているのも納得だ。


「阿古谷さんはじめまして!桑方ハルって言います!」


「あなたが桑方ちゃんね!はじめまして、あたしは阿古谷レイ。あなたのことは色々ナツキから聞いてるよ」


「私も阿古谷さんのこと能勢さんからいろいろ聞いてるよ!」


 ハルとレイはさっそく意気投合し、仲良くなっている。ハルもそうだがレイの明るさとコミュニケーション能力も流石である。


 ──すぐ仲良くなれて良かったな……


 目の前の光景を見てナツキは一安心した。それにしても、なぜこんなにもハルのことを心配しているのか彼女には分からなかった。ハルに対して何かを抱いてるような心地がするが、それが何であるか彼女には皆目見当がつかなかった。


「ナツ?どうかした?」


「え……ううん、何にもないよ」


 ついつい考え込んでいたナツキはレイに話しかけられると我に帰った。


「ねえ、阿古谷さんってクワガタ飼ってるんだよね?どんなクワガタを飼ってるの?」


「そうだねえ~……やっぱり言葉より実際に見た方が早いかもね! 」


 レイはそう言うと3人を引き連れ、見せたいクワガタがいるコーナーへと向かう。あまり店舗には来ないレイだが、どこのコーナーに何の虫が売られているかは把握しているようだ。


 見せたいクワガタが売られているコーナーへ着くとレイは棚全体を見渡し、例のクワガタを探す。


「お、いたいた!」


「うわあ~ 変わった大顎をしてるクワガタだね~」


 ハルは興味津々な表情で驚いた。それもそのはず、そのクワガタの大顎は彼女が今まで見てきたクワガタの中でな部類に入るものだったからだ。


 彼女はそのクワガタが入っているケースに付けられたラベルを声に出して読む


「プラティオドン・レオポルディ……?」

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