第5話 用品にも色々種類がある(前編)

 3人は国産オオクワガタコーナーを後にし、用品コーナーへと向かった。


「ねえ、能勢さん。この子を飼うためにどんなものを用意すればいいかな?」


 ハルが質問すると、ナツキは必要なものを順に挙げながら説明した。


「まず必要なのはケースだね。クワカブは基本オスとメス別々に飼うものだから2つ必要になってくる。後は底に敷くマットとエサのゼリーだな。この3つさえあればクワカブの成虫は飼えるよ」


「マットって土のこと?」


「そ、正確に言うと朽ち木とかを粉々にしたオガクズのこと。主に隠れ家として入れるの」


 カブトやクワガタの多くは夜行性で昼間は土の中や木に空いたウロの中に隠れている。そのため飼育下においても、成虫が隠れられるところを作る必要があり、マットはそのために入れるのである。


 ナツキが解説している間に3人は用品コーナーにたどり着いた。


「へえ~ いろんな道具があるんだね~」


 ハルの視線の先にはクワガタやカブトの飼育に関する様々な用品が並べられた棚が3つあった。飼育ケース、昆虫ゼリー、止まり木などが並べられ、クワカブ飼育に必要なものは全てここで揃えられるようになっている。この店で虫を購入すれば、その日のうちに飼育を始めることができるのだ。ハルはまずこのコーナーで飼育ケースを購入することにした。


「う~ん…いろんなケースがあるけど、どれがいいかな?」


 このコーナーには従来の飼育ケース──よく虫カゴと呼ばれているもの──もあれば通気孔があまり空いていないもの、蓋が透明でスライド式になっているものなど様々な種類のケースが並べられていた。悩んでしまうのも納得だ。


 ──ま、無理ないか。


 ハルの悩んでいる姿を見たナツキは助け船を出すことにした。


「私のオススメはこれかな?」


 そう言うとナツキは数ある飼育ケースの中からあるケースを指差した。


「見たことないケースだね~ 蓋の上になんか付いてるよ?」


 それは蓋の上に白い不織布でできた長方形のフィルターが2個付いたケースだった。


「ホワイトボックスって会社から出しているシャットアウトっていうケースだね。蓋にフィルターがついているからコバエが入りにくいんだ。それに通気孔が少ないから普通のケースよりも保湿性も高くなってる。コバエも乾燥もクワカブ飼育の敵だからな」


 クワガタやカブトを飼育する上で気を付けなければならいのがコバエと乾燥だ。コバエは読んで字のごとく体長1ミリほどの小型のハエであり、クワカブ飼育では主に2種類を指すことが多い。一つはショウジョウバエ、そしてもう一つはキノコバエである。


 ショウジョウバエはオレンジ色の体色をしたコバエであり、その体色が妖怪の猩々しょうじょうのように見えるためこの名前が付けられた。よく生ゴミや腐った果物に飛んでくるため、飼育下ではエサのゼリー目当てで飛んでくる。もう一つのキノコバエは黒い色をしたコバエであり、こちらはショウジョウバエとは違い、マットに産卵するために侵入してくる。どちらも虫自体には悪影響はないが、主である人間にとっては大変不愉快なもの──いわゆる不快害虫である。部屋の中でこれらが大量に飛んでいる光景を想像すれば、誰でも鳥肌が立つに違いない。


 もう一つの乾燥はコバエとは違い、虫の生命にも関わってくる大変重要なことである。クワガタやカブトは乾燥に大変弱い虫であり、何日も乾燥した状態が続けば最終的に死んでしまう。また、乾燥した状態が続くと生殖機能にも悪影響が出てしまい、産卵数が減少、最悪産卵できないということになってしまう。


 ナツキがオススメしたシャットアウトというケースはこれらの問題を防ぐことができるのだ。蓋に付いているフィルターによりコバエの侵入を防止、さらに万が一ケース内で発生しても外に出ないようになっている。また通気孔が少ないので普通のケースよりも保湿性が高く、ケース内が乾燥しにくくなっている。


「ケースのサイズだけど、オオクワは狭いところを好むからオスは小サイズ、メスはミニサイズで十分だな」


「じゃあ必要なのはこれとこれだね!あと必要なのは…」


「あとはマットとゼリーだな。マットはこの先のコーナーにあるぞ」


 タクミに案内され向かった先はマットのコーナーである。

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