第7話 福野礼一郎さんと物理の神様仏様

「福野礼一郎さんと物理の神様仏様」


「福野礼一郎」さんの自動車評論が大好きです。

なしてかというと「物理」に基づいているからです。「科学的」だからです。「感じとらんで考えよ」だからです。

 福野さんは「科学」の方法に忠実です。「科学の方法」とは「仮説検証法」です。だから一般性があり普遍性があり再現性がある。ようするに個人の考えや感覚ではなく一般性があると思うのです。


 そういえば、福野さんがと何かの本に次のように書かれておりました。

「クルマを買ったら何もしないこと。定期的にディーラーできちんと点検受けて純正

 オイル、純正パーツを使うこと。ワックスなんて必要ない。マフラー交換、ケミカ

 ル添加剤、扁平タイヤにブレーキチューン、すべて無駄でクルマを傷めるだけ。ナ

 ビETCその他の電装品は純正かプレワイヤリングシステムで取り付け可能なもの以

 外は悪。絶対にクルマを傷める。しかも火災の可能性あり」

 ワシはこれを読んで愕然としたというか、目からウロコがたくさん落ちました。

 ワシはこれまでお金もないくせにたくさんのクルマを所有してきました。クルマだけではなく、パーツやケミカルや改造改悪、メインテナンスにも多くのお金を使って失敗を繰り返してきました。自慢じゃありませんけど自動車雑誌を買いまくり、CM広告されている「モノ」はたいがい試してみました。「何のためか」というとそれが「クルマに良いコト」だと信じて疑わなかったのです。

 ワシもこの件に関しては確かにいろいろと思い当たることがありました。薄々感じてはいたのですが、やっぱりそうじゃったのかと思いました。ワシはそれ以来一切の社外パーツの取り付け、ケミカル添加剤、改造は一切やめました。

 ワシの大事なZも劣化してきたタイヤとバッテリーを車検時にディーラーで交換してもらった以外はまったくさわっておりません。汚れたらさっと水洗いして隅々まで水切りしてガレージに入れておくぐらいですね。よく考えて見たら一回もワックスをかけたことがないのう。タイヤワックスもかけたこともないのう。でも結果として、ダークブルーなのにスクラッチ傷も目立たないというか、エンジンも足回りも絶好調というか、ようするに7年落ちですが、不思議なことに新車のような内外装を保つことができています。


 福野さんは、クルマに試乗することであれこれとわかったり感じたりすることについて、その原因というか要因を考え仮説を立てます。それから専門家への取材や実験などを通して検証していくという、まさに「仮説検証法」をされているのです。

 福野さんの評論は科学的手法によって構成されている唯一の評論だとワシは思います。福野さん以外の自動車評論家の方々は、ワシが思うに、その鋭い感性や運転技能や経験によって培われた「自己」により感知したことを書かれているのだと思いますが、それをそのまま表現されているだけように思うのです。確かにすごいことですし、ワシには絶対にできないことですが、それは個人の感想にすぎないように思います。だから人によって評価が違う。

 ハンドリングがどうのこうのとかコーナーリングがどうちゃらこうちゃら、アクセルレスポンスや乗り心地などなど、わずかな時間の試乗で走って感じて評価するということは確かにすごいことです。でも自分の感想に過ぎないのです。

 この方法は、何十年も変わっていないし、自動車評論家の先生方はみなさんそうされてきた。ベストカー読んでもカートップ買ってもみんなそうされている。

 つまり公平性や一般性に著しく欠けると思うのはワシだけなのでしょうか。

 面白い読み物としてあるいは自分の所有するクルマの評価がどうなんじゃということを知りたいときに読むならそれはそれで楽しくて面白くていいと思います。でも再現性がまったくない。


 ワシはこう見えても科学で飯を食ってきた人間です。だからちょっと偉そうなことをいいますのでお許しくださいね。

 実験で一番大切なことは再現性です。つまり誰がやっても同じ結果が出るか出ないかということがとても重要で実験の信頼性に関わる最も重要なことです。

 人間の感覚なんてまったく信用できないのです。ワシは日頃ハスラーに乗っていますので、キューブに乗ると「セルシオ」かと思うぐらいの乗り心地というかどっしり感を感じます。

 ときどきZに乗ると「ポルシェターボ」かと思うぐらい速く走るし思い通りに動くと感じます。そいでもってしばらくしてまた軽自動車に乗り換えると軽快で小さくて乗りやすいと感じます。

 ようするに乗っていると感覚が慣れてマヒしてしまって正しい乗り心地、正しいハンドリング、正しいエンジン、そんなことが何が何だか分からなくなってしみます。もともと「正しい」とは何かも定義されていません。

 またそれぞれのクルマたちには短所もあれば長所もあって、それぞれの個性が乗る場所や道路や状況によって良くも悪くも感じるのです。それでもかわいいワシの愛車たちです。個性があってそれぞれ楽しいです。


 「福野礼一郎さん」の試乗記は「再現性」重視です。気温、天候、路面、空気圧までしっかり記録されています。あれほど経験豊かな方なのに、数値、データを何よりも大切にされています。また書いておられることは「なるほど」とか「確かにそうじゃったのう」とかワシの貧しくてめちゃくちゃな自動車人生の中で見たり感じたり思ったり体験したりしたことがズバリそのままなことばかりです。だから同調する部分がたくさんあるのです。実際に経験したものでなければ絶対にわからないこと。本読んでも人に聞いても絶対にわからない。実際に所有した者にしかわからないことがあるのです。

 その福野さんが「物理」という視点からクルマの物性や運動や力学を考え仮説を立て再現性の高い実験(試乗)で評価する。それはこれまでのフィーリング中心の試乗記とはまったく違うものです。何が違うって信頼性と科学的考察です。

 だからワシは「福野礼一郎」さんのファンになりました。また書かれていることも内容が濃くて面白い。しかし何度も読まんと難しくてわからない。だから読みごたえが違うというのがワシの感想です。


ところでね。話はコロッと変わるのですがね。さて質問です。

みんな走りを良くするために、タイヤを太くしたりしますよね。では、


「太いタイヤと細いタイヤ、どちらの接地面積が大きいのでしょう?」


「そんなもん太いタイヤに決まってるやないか。」

と思うのが人情というものですが、果たしてそうでしょうか。

計算してみましょう。


ここで用いるのが「圧力」という考え方です。つまり「空気圧」です。


 圧力(Pa)= 力の大きさ(N)÷ 面積(㎡)・・・・①


という式で計算できます。中一レベルですなあ。

① の式をクルマに置き換えてわかりやすく書き直しますね。


空気圧(Pa)=車重(kg)の(N)換算値 ÷ タイヤ4本分の接地面積(㎡)


具体的に数値を入れてみましょう。

車重1500Kgのクルマの空気圧規定値が2,5KPaだった時の接地面積を求めてみましょう。


 2,5kPa=2500Pa 1500Kg=1500000g→15000N


 2500Pa=15000N÷面積(X㎡)


 X=0,6㎡ 


結論・・・「同じ車で同じ空気圧だったら、接地面積は同じ」

     つまり「タイヤが太かろうが細かろうが接地面積は同じ。」


  というのが答えであります。

  つまり細いタイヤも縦方向で面積を稼いでいるのですね。


 「でも太いタイヤの方がグリップがええじゃあないか」と反論される方もいらっしゃると思いますが、それはタイヤ剛性の問題で、接地面積とは何の関りもございませんです。確かに見栄えは良くなるかもしれませんが見栄えと物理とは何の関連もありません。


 ついでにタイヤ4本の接地面積が「0,6㎡」なら、タイヤ1本分の接地面積は4で割って「0,15㎡」つまり「150㎠」です。「10㎝×5㎝」つまりよく言われるように本当に葉書1枚分ぐらい面積でクルマを支えているというCMは本当なんだということがわかり、ワシ自身も改めて驚きを感じた次第であります。


クルマは物理の世界です。クルマが走るときには「ニュートンの運動力学」から逃れることはできません。ついでの「スピードの危険性」を検証してみましょう。


同じクルマ(1000Kg)が時速50Km、100Km、150Kmで走るときの運動エネルギーを考えることで検証できると思います。


運動エネルギー:E(J)は次の式で計算することができます。


E=1/2mvv : m=質量(Kg) v=速さ(m/秒)vvは速さの二乗


時速50Km(秒速約14m)の場合 

 1/2×1000Kg×14×14=約10万(J)


時速100Km(秒速約28m)の場合

    1/2×1000Kg×28×28=約40万(J)


時速150Km(秒速約42m)の場合

    1/2×1000Kg×42×42=約90万(J)


 速さが2倍になると運動エネルギーは4倍(40万J)になります。3倍になると9倍(90万J)になります。

 これはどういうことかといいますと、時速50Kmならぶつかっても何とか助かりそうですが、2倍の100Km 3倍の150Kmになると運動エネルギーはそれぞれ4倍、9倍になるので、ただでは済まないことは明白ですし、シートベルトをしないで自力で衝突に対抗できるかというと、はっきり言って人減の筋力では絶対に不可能だと思います。またこのエネルギーが生身の人間にぶつかったらどんなことになるのか考えるだけでも恐ろしいように思います。

 ブレーキはこのエネルギーを熱エネルギーに変換する機械です。運動エネルギーを熱エネルギーに変えることでクルマを停める装置です。エネルギーが4倍、9倍になったら当然のことですが制動距離も4倍。9倍になっていくはずです。どんなに高性能なブレーキでも物理には絶対に逆らうことができないのです。


 ワシたちは日頃は何も考えずにいつものようにいつもの道をいつもの癖で運転しています。でもこんな危ないことをしているのだという自覚を持つことが大切だと思います。日本刀を振り回すよりも危ない。拳銃打つよりも危ない。爆弾級ですよ。爆弾級。ワシはそういうことに気がいてから、とても慎重に運転するようになりました。知らなければよかったと思います。


ついでに拳銃(38口径)から発射される弾丸のエネルギー(危険度)を計算しときますね。弾丸の重さを6g(1円玉6枚分)速さ(初速)が300m/秒ぐらいですから


E(弾丸)=1/2×0,006Kg×300×300=270(J)


たった270Jしかない。あの怖い拳銃でさえ270J。

あんまりたいしたことないのう。クルマに比べたら(泣)

このことからもクルマはある意味弾丸よりも大きなエネルギーを持っている、つまり拳銃撃つよりもはるかに危険であることがわかるのです。


なしてチャイルドシートが必要なのか。なしてシートベルトが義務づけられているのか、なしてスピードを出したらいけんのんか、なして安全運転せんといけんのんか、そういうことをきちんと教えてくれるのが物理の世界です。


みなさんも電卓片手に計算してみると、いろいろのことが分かって面白いですよ。

お金がなくても暇はたくさんあるワシにとって、こんな計算ごっこは暇つぶしとボケ防

止にはもってこいです。

 ワシは計算が好きですけどね。好きですけど・・・。

 結局、自分の人生を計算することができんかったんですよね。←アホ(泣)




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