第5話 愛おしのスタッドレスタイヤ

「愛おしのスタッドレスタイヤ」


 寒くなってきました。冬ですねえ。冬。お金がないのが身に染みる季節です。

 冬といえば「スタッドレスタイヤ」です。みなさんはもう交換されましたか。ワシはすでに交換済みです。というか、フォレスターとキューブは10月が1年点検ですので、その際についでに交換してもらって、そのまま時期が来るまで乗らないで車庫にしまってあります。なんでかというと1年点検ではホイールを外してブレーキ系統をチェックするので、その際についでに交換してもらうとタダだからです。だからまだタイヤを交換していないハスラーに意地になって乗っています。

 点検終わったら夏タイヤホイールは家に持って帰って、挟まっている小石をドライバーで一本ずつ取って、きれいに水洗いして拭いて乾かしてからちょっと空気を抜いて、ビニール袋に入れて車庫の奥の日の当たらないところに保管しておきます。そしたら次に気持ちよく取り付けることができますし、タイヤの痛みも錆もなくて快調です。春になったらまた同じことをするのですが、スタッドレスタイヤの細かい溝に挟まった小石を取り除くのはそれこそ大仕事です。

「そこまでして面倒くさくないか」って?

 いいえ。まったく面倒ではありません。面倒なんて思ったこともあんまりありません。なしてかというと「スタッドレスタイヤ」というものがない時代をワシたちは生きてきたからです。

 「雪が降ったらチェーン」の時代です。チェーンしか選択肢がなかったのです。  「スノータイヤ」はありましたが、いまでいうマッド&スノーのタイヤですから凍結したらもうお手上げでした。スノータイヤにスパイク(スタッド)を打ちこんで「スパイクタイヤ」にして乗るという手はあったことはあったのですが、何せ金属のピンですから、普段乗りで付けっぱなしというわけにはいきません。乗り心地は最悪だしアスファルトは削るはなので粉塵問題になってやがて発売中止になってしまうのでした。


 その頃は、ワシはまだ雪なんか滅多に降らない山陽地方に住んでいたので、日頃は雪道のことなんかあまり考えてもいませんでした。

 冬になったらトランクに「チェーン」を積んでいて、必要なときに取り付けていました。


「必要なとき」って?


 それは年末年始に中国山地を超えて山陰の実家に帰るときです。まだ若くて何も考えなかったワシは、いつも夕方に出発して暗くなってから山越えをするという最悪のパターンで帰省していました。なしてでしょう。なしてなんですかね。雪道を甘く見ていたというのもありますが、昼間は遊んでいてどうしても帰りが遅くなってしまうという愚行を繰り返していたように思います。少しは学習しないといけませんでしたね。

 年末とはいえ、山陽側はいつも晴れです。そいでもって安心して、山口を通過して木戸山トンネルを超えると急に真っ白になっていて、目が点になってしまったことが何度かありました。もちろん路面も真っ白でスリップしながら走っているのがわかるので、仕方なしにトンネル出たところにある店の前に車を止めさせてもらって、店に人に一声かけて、店の灯りを頼りに雪の降りしきる中で凍えながらチェーンを取り付けていました。

 チェーンなんてそう頻繁に装着するものではありませんので、つけ方なんかすっかり忘れていて、かじかんできた手に息を引きかけながらえっちらおっちら作業をするわけです。

 FRですから後輪2本になんとかやっと取り付けてさあ帰ろうと発車させたら、

「何かおかしいど。」

 発車と同時にチェーンがきれいに外れて雪に中に梯子のように残っていたなんてことも度々でした。そいでもってそれでもやっと取り付けて、今度はカッチャンカッチャンいわせながら、雪道を時速20キロぐらいで走るのです。チェーンを付けたらスピードは出せないし外れるしガタガタ振動はするしで、とにかくゆっくりゆっくり走るしかないのです。前タイヤはノーマルのままですし。

 そいでもって時間かけて気を遣って、やっと実家に近づいてきたと思ったらもう雪がない。雪がないとチェーンが切れる恐れがあるので、またクルマを停めて降りて、寒風が吹きすさぶ中でチェーンを取り外さなければならないのです。もうめんどくさくてたまらなかったのですが、当時はそれが当たり前で当然のことだとおもっていたので仕方がないと思っていました。今なら絶対に嫌ですけど。よくやっていたと思います。

 でもみんなそれなりチェーンのつけ方も雪道の運転も上手だったのでそんなに大きな事故が起こったということは記憶にありません。チェーン無しで雪道を走っている方もずいぶんいたと記憶しています。

 当時のクルマは基本的にFR(後輪駆動)のマニュアルミッション車でした。どうやってこの状況を乗り切っていたかというと「腕」ですよ。「腕」。つまり運転技術で何とかしていたのでした。そう考えると、みなさん、今と違って運転がとても上手だったのだと思います。

 それから雪道は怖かった。ワシは下手くそだから怖かった。だから慎重に運転せざるを得なかった。セコ発進して慎重にクラッチをつないでアクセルをじわっと踏んで、なるべくクルマの姿勢が崩れないように気を遣って運転していた。現在はタイヤやトラクションコントロールなどの制御システムの進歩のおかげで誰でも安全に怖さを感じずに運転できるようになりました。この「怖さを感じなくなった」ということが、昔には考えられないような事故を誘発する原因のような気がするのはワシだけなのでしょうか。

 昭和60年頃だったと思いますが、画期的なチェーンが発明発売されました。ゴム製のネット型チェーンです。ワシはすぐに「イエティのスノーネット」を買いました。取り付けてみるととても取り付けやすい。走ってみると振動ガタガタ軽減されていてとても便利。でも舗装路で使えないことには変わりなくて、相変わらず取り付け取り外しは面倒だったと記憶しています。

 そう考えると「スタッドレスタイヤ」なんて便利なものなんだろうと感心するばかりです。舗装路も普通に走れて、雪道、凍結路も大丈夫だなんてまさに夢のような大発明だと思います。


 ワシはタイヤには、特にスタッドレスタイヤにはけっこう気を遣っています。基本的に貧乏性というのが根底にあるからなのですが、安全のためには仕方がないこともあります。数万円ケチったおかげで何十万円もかかる事故にあってしまったら元も子もなくなると思っています。

 まず銘柄ですが、基本的に国産で製造年月日が新しくて新品であれば、そんなに差は感じません。値段的には断トツ一位がブリヂストンです。ヨコハマ、ダンロップが同率2位でその下にファルケンやオーツ、それからピレリーなどの外国勢が続くのだと思います。それから別枠でミシュランという選択もあります。高いタイヤはそれなりにいいと思いますが、何よりも性能が長持ちするというのがワシの実感です。

 ワシは銘柄よりも「国産」「製造年週」にこだわってネットで少しでも安くて送料込みのタイヤを探しています。「製造年」を明示していないところからは絶対に飼わないようにしています。タイヤのゴムは生ものです。3年も経てばどんなに工夫しても硬化していくのは防げないからです。

 それをクルマを買ったディーラーに直送してもらって、ホイール持ち込みで組み込みバランス、エアーバルブ交換込みでだいたい8000円でやってもらっています。ガソリンスタンドやイエローハットやタイヤ専門店などいろいろ試しましたが、この方法が安くて信頼性も抜群でいちばんいいと思いました。

 ホイールは基本的に純正ホイールをネットで探しています。夏のうちに飼っておくのがポイントです。安くていいものが入手できます。鉄でもアルミでも純正品はやはり無理せずフィットしますので安心です。特にセンターボアがぴったりと合っているので無理なく装着できるしクルマにもホイールにも無駄なストレスがかからないからです。

 タイヤは基本的に「3年間で交換」したいとは思っているのですが、お金の関係で5年間使って山が残っていても新品と交換することにしています。新しいタイヤをはくと乗り心地がものすごくよくなるのがワシでもわかります。タイヤは生ものじゃのうと実感する瞬間です。

 空気圧の調整にも気を遣っています。夏タイヤも同様ですが、入れすぎてもポヨンポヨンするし、不足したらホニャホニャするのがわかります。ワシは冬場は急な気温の低下に備えて、念のために冷間指定空気圧+0,2kpaほど多めに入れるようにしています。

 ワシはそのために、もったいないと思いましたが、ちょっと高価な空気圧計と電動のちょっとええ先端部が「ねじ込み式」のコンプレッサーをこの度買いました。

「ねじ込み式」です。「ねじ込み式」

 なしてかというと、以前先端を「てこ」のようにガチャと取り付けるタイプの空気入れを買って大失敗したからです。うまく空気が入らず何度か「ガチャガチャ」やっていたら、タイヤの方のエアーバルブが壊れてプシューと空気が抜けてしまったのです。ワシは泣きながらタイヤを外してスタンドに持って行きました。タイヤ外してエアーバルブを交換することになり、時間とお金を無駄にしました。悔しかったのう。だから「ねじ込み式」にこだわっているのです。


 さあ、今年も冬がやってきました。「備えあれば患いなし」という言葉はスタッドレスタイヤのためにあるような言葉だと思います。

 もう少ししたらハスラーとクロスビーのタイヤを交換します。二台とも地上最低高が普通のクルマよりちょっと高いので、ジャッキがぎりぎりなのが難点ですが、今年も腰を労わりながら自分でえっちらおっちら交換したいと思っています。

 装着した後の何とも言えない安心感がワシは大好きです。


「スタッドレスタイヤ」

ワシからしたら、本当に「神」だと思います。

でも油断したらダメですよ。「神」にも限界ちゅうものがありますから。

雪道、凍結路、いつも以上に慎重に気を遣って、お互いに思いやりの心をもって安全運転しましょうね。事故はね。事故は自分も他人も不幸になりますから。

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