第41話 焼き入れの方針 刃幅の広い剣


 カインクムは、次の剣の作業に移る。


 次に行うのは、シェルリーンの剣を手に取った。


 ユーリカリアの刃幅8センチは、本当に曲がるのか気になっていたのだ。


(この2人の刃幅4センチの2本で、方向性が決まるな。 フェイルカミラの長い剣で、強めの反りも見えてきた。 シェルリーン向けと、フィルルカーシャ向けの二つで、様子を確認しよう。 ユーリカリアのような要求は、これからもあるだろうからな。 今回の製作で方向性を見つけて、対応できるようにしておかないとな)


フィルルカーシャとシェルリーンの剣の刃幅は、どちらも4センチと、少し広い、この2本を使って刃幅8センチになった時に、反りを持たせる方法を、最初に作ったフェイルカミラとウィルリーンの剣と比較して、反り具合を確認するのだ。


 方向性を持たせるのでれば、今回の刃幅4センチの剣で方向性を確認しておくのだ。


(ただ、問題は、刃幅4センチから8センチになって、どれだけの影響があるかだな。 焼き入れの時におこる素材の変化によって伸縮するのだから、泥の厚みによってだけかもしれない。 刃幅の違いは、大きな影響が出ないかもしれないのか。 …… 。 熱の抜け具合もあるのか。 剣が厚くなったら、その分温度の下がり方が悪くなるのか。 持っている熱を峰側が、ゆっくり温度を落とすのだから、刃側に峰側の熱が伝わるのだろうな)


 カインクムは、手に取った剣を見つつ、自分の考えをまとめているのだ。


(ああ、そうなると、刃も内と外で硬度が変わるってことなのだろうな)


 すると、カインクムは、険しい顔をした。


(そうだな。 剣の形にする時、俺が、全体の厚みを見て、叩いて平にしたのは、正解だったのか。 おそらく、表面の方が硬度は硬くなるはずだから、研ぎが少なければ少ないほど、硬い部分が多く残っているってことなんだ。 叩いた時に丁寧に形を整えるのは正解だったわけだな)


 カインクムは、表情を緩めた。


(じゃあ、始めるとするか)


 カインクムは、手に持っている剣を見つめる。


 新たな剣の作り方を、もっと、深く理解したい。


 その思いから、これから行う剣に課題を持たせて、経験を稼ぐ。


 そして、自分自身に課題を持たせて、新たな高みに向かう。


 そう考えると、この刃幅4センチの剣は、新たな剣を作るためには、いや、8センチと刃幅の広い剣における課題を見つけることができると思えるのだった。




 カインクムは、シェルリーンの剣に泥を塗り始めた。


 刃渡り 70センチ、刃幅4センチと、ヴィラレットの剣より、短めで刃幅は広い。


 わずかに短い刃渡りと、刃幅が広くなったことで、反りは、ヴィラレットの剣より弱くなるだろうと思うのだ。


 シェルリーンは、弓の名手であって、この前の試し斬りの時の様子も、他の人と比べても雑な様子だった。


 だったら、シェルリーン向けの剣は、自分の目的のために行うことにする。


(ウィルリーンとヴィラレットの剣と同じ厚みで泥を塗る。 その後の反り具合を確認して、刃幅の広さによる影響を確認させてもらおう。 シェルリーンは、弓がメイン武器だからな。 どちらかというと、剣を使うときは、それほど多くないことになるだろうから、使用頻度も少ないだろう)


 カインクムは、シェルリーンの使い方を考えつつ、剣に泥を塗っていった。


 その泥の厚みは、ウィルリーンとヴィラレットのものと、ほぼ同じ厚みとした。


(場合によっては、この泥の厚みが基本になるかもしれないな)


 斬るための剣は、曲がりを持たせることで、衝撃を受けても、その衝撃を減少させることにある。


 反り具合を確定させることができれば、今後の生産にも影響を与えることになるのだから、基本の反り具合を持っていることは、今後のオーダーメイドの時のことを考えると、大きなデータとなる。


 剣でぶっ叩いて斬るのではなく、剣の斬れ味を利用する剣なのだ。


 反り具合は、剣の耐久性に影響が出る。


 斬る時に剣の刃に当たる衝撃を分散させるために剣は反りを持たせている。


 そして、斬れ味が鋭ければ、剣にかかる衝撃は減ることになる。


 斬れ味もだが、反りも斬れ味に大きく影響を与える。


 それは、耐久性にも影響を及ぼすことになるのだ。


 カインクムは、シェルリーンの剣に泥を塗りながら、その剣に自分の思いも込めていたのだ。




 カインクムは、ウィルリーンとヴィラレットの剣と同じように泥を塗り終えた。


 泥は、切先から15センチほどまでは、大きく反らないようにして、中央部分は、綺麗に弧を描くようにして、柄側に行くと、徐々に反りを緩めるようにした。


(ジュネスの剣もこんな感じだったからな。 基本は、この形で反らせるようにして、後は、使う人によって、その反り具合を変えていく。 まあ、泥の塗り方なんて、人が行うのだから、多少の差は出るだろうが、基本は大事だからな。 基本になる反りは用意しておいた方がいいだろうな。)


 カインクムは、基本の大事さを知っていることもあり、基本となる形を頭に入れていた。




 カインクムは、シェルリーン用の剣を竈門にかけると、吹子を使って温度を上げていく。


 いつものように温度を上げていくと、泥の付けてない柄に入る部分の色を見て、剣の温度を判断するのだ。


(この温度は、絶対に間違えられない。 これは、今までの経験がものをいったな。 高すぎても困るからな)


 カインクムは、泥で隠れたところでは、温度の判断ができなかったが、それを補うために、泥に隠れてない柄の部分の温度で、剣の温度を判断していた。


 今まで、泥を塗って焼き入れするなんてことは無かったので、大きな違いだったのだが、ヴィラレットの剣を焼き入れする際に、行った方法が功を奏したので、その方法を続けているのだ。


 温度管理は鍛冶屋が、焼き入れをする際に一番注意をする工程となるので、抜かりはない。


 ここで、失敗して使い物にならなかったのは、修行時代から、新人の時も、温度で失敗したことは多かったのだ。


 温度で、失敗して質を落とすということは、過去に嫌というほど経験しているので、ここで失敗させるわけには行かない。


 カインクムは、慎重に剣の温度を上げるのだった。


 温度の頃合いをみて、カインクムは、竈門の剣を一気に水桶の中に入れる。


 水の蒸発する音と、水面を覆う水蒸気、水が一気に蒸発するので、まるで爆発しているように思えた。


 その水桶をじっと見つめる。


 一気に剣の温度が下がると、水蒸気が上がら無くなる。


 水の沸点の100度より低くなれば、剣から蒸発した水蒸気は上がらなくなる。


 その様子を見て、剣を水桶から引き上げる。


 ただ、人が触れる金属の温度は、40度以下なので、その温度になるまでは、手で触れることはしない。


 完全に下がるまで、作業台の上の剣を置く台に乗せた。


 そこには、ウィルリーンとフェイルカミラの剣が並んで置いてあった。

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