第7話 異世界にいけるの?

 美男美女はさんざんキャッキャウフフとTVを前にして戯れ、十分満足したところで(僕も堪能させてもらいました。)レインさんが、

「ユウタちょっと部屋の外に出てもいいか?」

「あっ我も出てみたいぞ!」

と言い出した。


 正直不安しかない。こんな美男美女の容姿だが、我が街に猛獣を解き放つ事になるのではないか? そしてこの珍獣を非力で平凡な僕が御さないといけないのではないか? もちろん御する力などないが…


 だって勇者と魔王なんですもの!


 …どうしよう。ダメと言っても二人が抗えば僕など消し炭にされてしまう。などと思考の海に潜っていた数秒だったが、理性より本能で動く獣たちは返事を待たずに行動してしまっていた。


「えっちょっと…」

 僕が二人を止めようと躊躇している間に、カエラさんがドアノブに手をかけたがドアは開かなかった。もちろん押さないといけないのに引いていたとか、横にスライドする戸だったなどのオチは無い。


ガチャガチャ

「ユウタ戸が開かないぞ、異世界のドアは何か特別な術が施されているのか?」

「鍵もかけてないし、そんな事は無いと思いますけど。」

 試しに僕がドアを開けてみたら開いた。


「ねっ開くでしょう。」

 僕は玄関の外に出て部屋の中を見ると…


「…出れないぞ。」

「うわ、本当だ! この扉から俺たちは透明な壁に阻まれているようだ。」

 二人は見えない壁を押したりするパントマイムをしているように見える。その横を何の障壁もない僕は素通りする。


「じゃあこっちの外からはどうだ?」

 カミラさんがベランダの方へ駆け出し手をかけた…が開かない。レインさんが手をかけるとカラカラカラと音を立てて横にスライドするが、自分の部屋に戻るだけで外には出れない。カミラさんもレインさんの部屋には入れないらしい。


 カミラさんのクローゼットの中もレインさんは入れなかったみたいだ。そこで僕が勇者と魔王の世界…部屋へ行けるか試したところ…


 ダメでした。


 結論! 僕の部屋を介するだけで行き来はできないようです!


 …がっくし。


 実は密かに僕もカミラさんのアルメロ国やレインさんのメルニーク王国に行ってみたかったのだ。異世界を堪能してみたかったのだ。いきなり自分の身ひとつで放りだされる異世界旅行は絶対に体験したくはないが、勇者や魔王といった最高権力者が控えているならば、これほど安心な旅行はないであろう。


 しかし本当に勇者や魔王だったら今は僕の部屋で気軽に話しかけられるが、異世界に渡った途端に身分の違いによって不敬罪になり、打ち首獄門の刑に処される可能性もある。が、とにかく渡ることは出来ないようなので打ち首の心配はなくなった。


 僕ががっかりしたと同じ様に、二人も日本を堪能してみたかったようでがっかりしていた。


ーーーーーーーーーーーーー


「これからも俺のためにご飯を作ってくれないか?」

「我と寝食を共にすることを許すぞ!」


 などと字面だけ見ればプロポーズされているようだが、実際には「俺(我)の食欲のためにこれからも誠心誠意料理に励んでくれよ。」との事らしい。


「えっ、お二人とも国ではえらいさんですよね。それではこんな瑣末な平民の食べ物よりもっとうまいものを毎日食べているんじゃないんですか?」


「「何を、馬鹿な事を言うな〜〜〜」」

二人同時に怒られた…解せぬ。


「俺も王族の会食によく招かれたりはするが確かに素材などは一流の物が使われてはいるが、こんなにうまい飯は食った事がないぞ。それにデザートだ。俺は甘党で色々食べ歩いたりもするがこんなにシンプルで味わい深いのは初めてだ。ユウタにはぜひ俺の嫁になってほしいぐらいだ。いや、俺が嫁に行こう!」


「いえ、お断りします。」

 興奮気味にレインさんに言われ、冗談なのだろうがお尻がキュっとなった。これからレインさんのデザートは減らす方向で検討させていただきたい。


「我もだ。王として君臨して味わった食は数あれど、こんなに複雑な味わいにして繊細な料理は食べた事ないぞ! 今まで美味しいと思って食べた食事は何だったのかと思うほどだぞ! 帰ったらアルメロ国王族御用達シェフを打ち首獄門の刑に処すこともやぶさかかではないぞ。」


「いや、カミラさんそこはやぶさかなままでお願いします。」

 やっぱり異世界でも打ち首獄門の刑があるのか…冗談なのだろうがお尻がキュっとなった。


「初めに言っておきますけど、僕自身は料理人では無いです。ほとんど素人と変わらないですし、作る料理もこの日本では一般的な家庭料理の範囲ですよ。だからあんまり過度な期待されると困るんですけど。」


「そうなのか? 昨日のカツといい今日の唐揚げといい、確かに見た目は華美なものではないが味は一級品だったぞ。」

「ありがとうございます。でも本当に食材も安い物を使っていますし、デザートは出来合いの物を買っています。」


「ちなみにデザートは1個いくらなのだ?」

「こちらでは1個100円ぐらいですね。」


「「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」」

二人は引いてた。ものすごい驚いた顔してる。こちらの貨幣単位も異世界の貨幣単位に訳されて伝わっているようだ。


「恐るべし異世界…あのクオリティでまさか銅貨1枚だとは…こっちに住もうかな俺。」

 レインさん止めてください。絶対こっちに住まないでくださいよ。こっちに住む=僕が養うニートになるじゃないですか。


「まさかあの“しゅーくりーむ”や“ぷりん”が銅貨1枚だとは…絶対何かヤヴァイ物が入っておるだろうが…麻薬とか中毒性のある物が…食べるけど。」

 カミラさん結局食べるのかよ! そんなヤヴァイ物は入ってません! まあ異世界人には毒な物質なのかもしれませんがね…


 そんな訳でこれからも僕が作った料理を食べに来る事を半ば無理やり納得させられ今日は解散となったのであった。


 まさか毎日食べに来るつもりじゃあ…ないよね?


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