第5話 唐揚げ3kg

 僕は学校帰りにスーパーで買い物を済ませ帰宅し、夕ご飯の準備に取り掛かる。


 今日は鳥モモ肉が安かったので一応多めに買ってきた。僕なら200gでお腹いっぱいになるけど、あの二人は食べそうだな…昨日の様子だと唐揚げなら1人1kgはいけそうな感じだし、とりあえず3kg買っておいた。かばんがパンパンだった。まあ余ったら冷凍しておけばいいしね。


 僕の好きな唐揚げはシンプルだ。モモ肉に紹興酒とニンニクと生姜などをつけ置きして下味をつけ、片栗粉をたっぷりまぶしてカリッとするまで高温の油で揚げるだけ。油をきってレタスの上に乗せておく。


 それにプラスして最近のお気に入りは唐揚げにかけるネギソースだ。どこかのサイトに載っていたのを作ってみたら激はまりした。


 玉ねぎ好きな僕はネギも好きなのだ。っていうかネギだけが好きなのか? ネギ星人なのか僕は? ネギネギ…とにかくこのネギソースは調味料を混ぜ合わすだけで簡単にできるのでオススメだ。あの二人も気に入ってくれるといいが。


 …っていうか今更だがこの状況をめっちゃ受け入れているやん僕。もちろん全面的に受け入れているわけではない。だけど、今だにわけがわからないというのが僕の正直な気持で、いくらこちらが拒んでも二人はやってくるだろうし…かといって、もしこちらに拒む権利があったとしても僕は拒み切れるか自信はない。


 出会って少ししか経っていないが昨日みた感じでは悪い人達ではなさそうだし。


 あっでも、勇者と魔王って言ってたからどうなんだろう。もし異世界でドロドロのグチャグチャの争い中とかだったら居た堪れないからお帰り願おうかな。そういう話も今日聞いておいた方がいいかな。


 などと唐揚げを揚げ続けながら考え事をしていたら時間はもう6時30分を過ぎていた。


ーーーーーーーーーーー


 7時が過ぎた頃まず最初に現れたのは…


バン!

「待ちかねたのだ〜〜。我慢した我えらいぞ!」

 豪快にクローゼットの扉を開け放ち元気いっぱいに現れたカミラさん。ん〜ものすごい美人でスタイル抜群なのに残念な人だ。


 そして間髪入れずに反対側からのベランダの戸も開く


カラカラカラ

「おっ、待たせちゃったか? って旨そうな匂いがするぞ! しゅーくりーむ。」

 …あんたもしゅーくりーむが溢れ出てるぞ。イケメンなのに。よっぽど気に入ったみたいだな。まあ今日も安いやつだけど一応買ってきてはある。


「二人には聞きたい事や話したい事がたくさんありますが、それは食事の後にしましょうか。」

 昨日のベッド脇の小さい折りたたみテーブルの上ではなく、キッチン横のテーブルに案内する。盛り付けも済みテーブルの上には唐揚げが大皿にてんこ盛りになっている。3kgの唐揚げは圧巻の量だ。今まで作った事も見た事もない量だ。


 二人はそんな唐揚げの山に釘付けだ。心なしか鼻息が荒い。

「な、なんだカツ丼ではないのか! だがこれはこれで…ずずず。」

「めっちゃ旨そうな匂いがする。食べたい!」

「今日は唐揚げという料理です。ご飯のおかわりもありますので食べてくださいね。ではいただ…」


 僕が言い終わる前に二人は食べ始めた。ものすごい速さで…ばくばく食べてる。やっぱり先に自分用に食べれるだけの唐揚げを取り分けておいよかった。


 早速、最初からネギソースをかけて食べよう。じゅわっと唐揚げに染みるネギソースの香ばしい香りが食欲をそそる!


「あ、このネギソースをかけるとより美味しくいただけますよ。」


 二人にも勧めると各々唐揚げにかけ美味しそうに口にほうばる。よりスピードが増したような気がするが…気のせいか?


 僕は自分のペースでゆっくりと味わって食べる。唐揚げは単体でもシンプルな味付けで美味しいが、やっぱりネギソースを掛けて食べる方が好きだな。今のマイブームだ。


 下に敷いてあるレタスと一緒に食べながら、ご飯も口の中にかき込む。あっ飲み物を出してなかった。異世界人は麦茶なんて飲むのかな。


 冷蔵庫から取り出した麦茶をコップに注いで置いていく。

「麦茶ですけどどうぞ。脂っこい唐揚げの油をさっぱり流してくれますよ。ここに置いておくので自分で注いで飲んでくださいね。」


 始めはおそるおそる口につけていたが、その後飲みやすいようで何杯もコップに注いで飲み干していた。


 ちなみに僕は年中麦茶派だ。だから冷蔵庫には作り置きした麦茶が常備してある。といっても1人なのでそんなに量はないのだが…この様子では常に2、3本用意していた方が無難か?


 …ぷっぷ。


 思わず笑ってしまった。常になんて、これからもずっとこの二人を受け入れるっていうか食事を作り続ける事に賛同しているみたいだなと思って。


 でも…悪くないかもしれない。今まで考えた事もなかったけど、こうして自分の家で他人と一緒に同じ食卓で同じものを食す事がとても新鮮だったからだ。


 そんな風に思いながら二人を見てみると…


 激しい攻防中だった。あんなにてんこ盛りの唐揚げは残っておらず、今現在は唐揚げの最後の1個をめぐり、目には見えないフォークの攻防が繰り広げられているようだ。


キン、キンキーン、キ、キ、カッ


 と目には見えずに争う音だけが聞こえる。何かシュールだな…もちろん嘘じゃないとは思ってはいたけど、勇者と魔王というのも納得の常識を逸した攻防だった。


 しばらく目に見えぬ接戦を繰り広げていたが、最後には魔王の勝利で唐揚げ争奪戦の幕は下りたのであった。


「あっシュークリームありますよ。今日は1つだけですけど。」


 唐揚げ3㎏、ご飯4杯ずつとサラダをキレイに食べ尽くした後に出したシュークリームも2秒で食べ尽くし、もっと食べたい! もっと出してくれとずっと物欲しそうな顔をしていたが無視してやりました。


 …特にイケメンのレインさんはもっともっとプリーズ、10個は食える! しゅー、しゅーとうるさかった。


 無視してやりました。


 もちろんカミラさんも静かだったわけではなく、もっと唐揚げを欲していたようで、ずーと唐揚げは飲み物ですって豪語し続けていた。


 無視してやりました。


 そんなこんなで後片付けも終わりやっと話し合いの始まりです。

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