第13話 噂が早い話

 僕には年の離れた兄がいる。

 結婚していて、長年仲の良い夫婦だ。


 今はもう死んじゃったのだけど、結婚して間もないころに、兄の夢だった犬を飼うことになった。

 結婚式にも出すぐらい二人とも、子供のように可愛がっていた。


 二人とも旅行好きで、そのワンちゃんは近所のペットホテルに預けていたらしい。

 また旅行以外の時もよく利用していたらしい。


 だが、長年利用していたのに、いつ頃からか、兄が電話の予約をすると、毎回……。

「すいません。予約がいっぱいです」

 と断られるようになったという。


 その店は小さな個人店で、大人しい女性が一人で経営していたらしい。


 不思議に思った兄が、今度は奥さんに電話してもらうように頼む。

 兄嫁が、さっそく電話すると、キッパリとこう言われたらしい。


「今後、味噌村さんのご利用は断らさせていただきます」

 そう強い口調で、言われたらしい。


 当然、兄嫁は訳がわからず、「どうしてですか?」と訪ねる。


「理由は言えません」

 と断られて、一方的に電話を切られたそうな……。


 その一連の出来事を、兄に伝えると、二人して首を傾げたという。


 事態を重く見た夫婦は、互いに「何か悪いことしたかな?」と情報を整理することにした。


 僕の兄は幼いころから老け顔で、何故か強面で通っている。 (本人は気の小さなおっさん)

 だから、お店の大人しい店長からは怖がられていたらしい。

 これに関しては、兄は慣れっこなので、仕方ないと思っていた。

 そんなことで、出入り禁止を食らうだろうか?


 お店の女性はきっと兄が怖いから「予約でいっぱい」と断っていた……。だが、怖くない兄嫁が電話したことで、出禁を伝えられたのだろうと二人は推測した。

 ならば、原因は兄嫁か? なんて話題にもなる。

 兄嫁はおっとりとした人で、別に悪い人じゃない。


 しばらく、二人で考える……。

 そこで、一つだけ答えが浮かんだそうな。


「「Tバックだっ!」」


 兄嫁がワンちゃんを預けに行ったときのこと。

 大人しめで真面目な店長さんが、腰をかかがめた際に、赤いレースの派手なパンティ、Tバックが見えたらしく。

 ギャップが刺激的だったのか、兄嫁は夕方、仕事から帰宅した兄にその話を笑いながら、報告したらしい。

 

 兄夫婦の住んでいる家は、駅の近くで、夏で暑かったので、窓を全開にしていたらしい。

 そんなに大きな声で話していたわけではないのだが……。

 自宅のすぐ裏は、帰宅ラッシュのサラリーマンやOLでいっぱいだ。


「今日さ、あの店の人が、赤いTバックを履いてたの見ちゃった!」

「ウソだぁ?」

「本当だって! 私、しっかり見たもの、すっごい派手なやつ!」

「えぇ……あの人、そんな下着履くような人に見えなかったよ? 真面目で大人しそうだったし……」

「いやいや、本当だってば! レースで赤くて……」

 と夫婦はキッチンで、料理を作りながら、談笑していたそうだ。



「「……」」


 出禁になるようなことは、これぐらいしかないと、二人は原因を突き止めたらしい。

 最初は不服だったが、風の噂でこれが店長の耳に入ったのなら、「ま、しょうがないね」と納得してしまったらしい。


 ただ、兄夫婦としてはそんなことになるなんて、思っていなかった。

 とりあえず、ワンちゃんは別のペットホテルに預かってもらうことにした。


 余談だが、その後ワンコは去勢手術を受けて、大人しくなった。

 同じオスとして、とても同情した。

 なんにしても、犬に罪はない……。

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