師走に向かえ!歩一歩CREAMER

おくとりょう

Day 1『鍵』

キーッとなっちゃ、もうお仕舞い

 ない…ない…!


 探し物を探す私は思わず頭をかきむしった。アレが無いと困るのに…。

 乱れた頭で立ち上がる。部屋はいつの間にか、ぐちゃぐちゃになっていた。…私は探し物が下手すぎる。

 うぅ…落ち着け。慌てたところで、探し物は出てこない。

 少し冷静になった私は、昨日のことから思い出すことにした。


 確か昨日は……


******************************


 まず、朝から上司に妙な仕事を押しつけられたんだった。

「それ、今日中にやっといてぇー」

 ただただ時間のかかる雑用仕事。めんどくさいことではあったけれど、まぁ、他に急ぎの仕事も無いし…。


 …なーんて、安請け合いをしたときに限ってややこしいお客様から、妙なお問い合わせが来るのはどうしてなのかしらね?!

「一昨日の注文が間違っちゃってたから、同じ値段のこの商品と取り替えてくれない?

 到着日はそのままで!」

 そんな無茶な…。ウチ弊社の輸送はそんなに途中で融通が効くようなシステムじゃないよ。お得意さんだったので、あまりキツく断れなくて困っていると、見かねた先輩が助けてくれた。輸送部にスピード出世した同期がいるらしい。

「困ったときは周りを頼れよ…」

 そう言ってもらえるのは嬉しいけれど、みんなも同じように忙しいのを分かっているから……ね。


 それでも、結局、残業不可避!

 いつも通りに満員の終電列車に乗って、帰路に着いたのだった。

 …酔っぱらって、ふらふらしてるのは百歩譲って我慢するけど、満員なのに缶チューハイを飲み始める人たちは一体何者なんだ…。


******************************


 …まぁ、とにかく、帰ってからはささっとシャワーを浴びて寝ちゃったからな…。

 アレには触って……あれ?何を探してたっけ?


 探し物すら失くした私は、ぼんやりベッドに腰かけた。一日干してふんわり柔らかな布団が、モルフェウスギリシャ神話の夢の神の腕のように私を誘う。

 …早く寝ちゃってもいいか。どうせ今日は休みだし。

 パタンと倒れ込むと、羊の数数える間もなく、いつもは六匹くらいは数えるのだけど。そういえば、昨日もすぐに寝て……


******************************


 気づけば、目の前には大きな扉。奥にも扉が続いてる。……1、2、3、…。数えて6枚の大きな扉。全部開きっぱなしで、一番奥からはトゲトゲしたものが飛び出している。


 …あぁ、そうか。

 軽くお尻のポッケを叩くと、探し物は見つかった。冷たい鍵を握りしめて、心の扉を閉めに行く。

 …1、2、3、…6つ数えりゃ、もうおしまい。

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