春分 桜は無慈悲な王者

 膨らみきった蕾が満を持して綻び始めた。


『かつて〈桜〉になる可能性を秘めた生き物は沢山あった。地を這う者が眺めるには下向きに花を付ける樹木が都合良く、それがせっせと増やされ〈桜〉として幅を利かせるようになった。我々は〈桜〉の継ぎ手として選ばれ、利用されてきたのだ』



 ぷわーん……パチン! (鼻提灯が膨らみきって弾ける音)



 むぉ! そうじゃったのか! …………あ?

 狸の奴め。どうもこの間読んだ本と同じような文脈じゃな。


 何かを語り噂する者もまた、その『話題』を強固にする継ぎ手と言える。人の存在意義は『情報の媒介者』ではないかという気もしているのじゃ。

 いつの間にか、ある考え方に染まりすぎていることもある。


 無碍に侵蝕されることから逃れる手段は、時に違った視点を持ち、ヴェールを剥ぐことくらいじゃ。努々ゆめゆめ忘れるでないぞ。


 

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