中継基地の再会

「五番パッドに着陸を許可します」


 着陸脚を出し、パッドに降り立つ。第八艦隊の司令部を発って一週間、私は橙瑠宙域の内端、北天星系の華輝交易所近くの華韻第三中継基地に到着した。


「准将、お疲れ様です」


 降り立った第一九三日出丸に、スラムの学校に通っていた後輩たちがお茶のボトルを片手に駆け寄ってくる。


「ああ、君たちか」


「なんですかその言い方」


「すまん。何年ぶりだっけ」


「三年ぶりになりますね」


「名前覚えてくれてますよね?」


「当たり前だろ。紫灯しどう水無瀬みずなせ珠乃ことの……」


 そう言って私は言葉に詰まった。そこにいるはずの人数には、一人足りない。


「あれ?一人足りないんじゃないか」


瀬茂せもは殉職しました」


「そうか……悪かった」


「瀬茂はきっと幸せですよ、利久村先輩」


「根拠は?」


「利久村先輩が大佐に昇進されたと聞いて、かなり喜んでましたから」


「この話はやめておこう。ところでフェンスの向こう側、華韻三番街の治安はどうだ?」


「前にも増して無法地帯です」


「増備されたはずだろ?警察は何やってるんだ?」


「犯罪発生数が多すぎるんです」


「瑠国の中心にも近いエリアのここが、このありさまとは……」


 基地のフェンスの外にはすすけた町並みが、見渡す限りに広がっていた。どこからか硝煙の匂いが漂ってくる。


「どのような任務で来られたのですか?」


「それは秘密だ」


「わかりました。船に補給しておきましょうか」


「ああ、機銃のエネルギーカートリッジに再充填を頼む。それが終わったら華輝第五中継基地に行こうと思う」


「あそこはすでに風前の灯火ですが……」


「そうなのか?」


「あ、はい。二日前から華輝五番街で日々会にちにちかいの連中が暴れておりまして」


「こんな時だからな、お察しするよ。まあ密売シンジケートぐらいなら大丈夫だ、私だって丸腰じゃないし銃の扱いは地上軍のエージェントと同等との判定を受けている。それに多勢に無勢となったら小型転送装置で逃げれば良いし、協力者にも会いに行かなければならない。どちらにせよ華輝第五中継基地に向かうのは決定事項だからな」


「分かりました。護衛は?」


「いらないさ、貴重な兵力を無駄に派遣しても意味はない。手榴弾で牛を屠殺するようなものだ」


「しかし……」


「探しているのは燈瑠戦闘種族だぞ、私が合流しさえすれば大丈夫だ」


「わ……分かりました」


「では、行ってくるよ」


「お気をつけて」


 三〇分後にパッドを飛び立つことになった第一九三日出丸を待つ間よく考えたが、結局私は当初の予定通り華輝第五中継基地周辺の「斗玲擦とれなす」地区こと華輝第五番移民街に住む旧友にして協力者となっている元同級生、羅丸らまる吏玖りくと合流しに行くことにした。第5番移民街の情報は吏玖に聞いた方が正確だろう。ただ、羅丸との関係に「元」だの「旧」だのとやけに遠い時間を指す言葉が連なっているのは愉快なものではなかった。


――私が宇宙軍にいたは彼と過ごしたより長かったのだろうか?


 飛び立った第一九三日出丸の窓の外を眺めながら、そんな疑問すら頭に浮かべてしまったところで、華輝第五中継基地の音声が通信機に飛び込んだ。


「一番パッドに着陸を許可します」


「第一九三日出丸は華韻第三中継基地まで下がるか、軌道上で待機してください。私は一人で行くので」


「危険じゃないんですか?」


「なぁに、立ち回り方はわかってますよ。それに同行者がいては協力者が納得しないかもしれません。それから、華輝では私一人で行動するので第一九三日出丸は上空で待機してください」


 船長に「それに、軍機ですからね」と囁くと、船長はうなずいた。


「敵機が来ても逃げませんから、安心して任務を果たしてください。ただし、本船の戦闘力の二倍以上の敵艦が来たら何も考えずに逃げますよ」


「どうぞそうしてください。私も船を失った船乗りは見たくないですからね」


 私はそう言って、船体の手すりを握った。


「それでは着陸します」


 船長の声とともに第五中継基地に降り立った第一九三日出丸から下船した私は更衣室で略装に着替え、第五中継基地のゲートを出て第五番移民街へと入った。

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