5日目

第12話


 いまの時刻は、十時四十五分。俺たちはフキエルの家のリビングに集まる。避難に行く際の荷物はなるべく少なく、ということだったので大抵のものは俺のスクールバッグの中に入れている。未来の首からは俺が買ってあげたあのネックレスが下げられていただけだった。フキエルとティアイエルも荷物は最小限に留めてある。

フキエルは俺たちが準備したのを確認したあと、四人に聞こえる声より少し大きめに言った。


「ただ今より、作戦を決行する。」


始めに小麦粉を豪快に撒く。なるべく雑に撒いたほうが、粉が空気中に舞いやすいのだ。


「よし、終わった」


五袋撒き終えたときに未来が言う。部屋中真っ白になった。


「拡さん、店に誰もいないことを確認しましたね?」


「ああ、俺たち以外誰もいなかったよ。」


全ての部屋を廻ってきて確認したから大丈夫なはず。そう思いながら俺はポケットからマッチ棒を取り出し、言った。皆はすぐ建物から逃げられるように体制を整えた。


「・・・・・いくよ」


俺は一気に箱に擦ってマッチ棒を見た。ちゃんと燃えている。それを部屋の一番奥に届くように思いっきり・・・

投げる。


俺たちはその瞬間急いで出て階段を駆け下りた。ちょうど、地面に全員着いた時、


ドオン!と大きな音とともに俺たちがさっきまでいた部屋が燃えた。


後ろでどよめく人の声が聞こえる。威力がすごすぎて今にも炎で建物が埋め尽くされそうになった時俺たちは我に帰ってそれぞれ大声を出した。俺も叫ぶ。


「お店が爆発しました!向こうにある野原に逃げて下さい!」


本当は火事だけだったら高台なんかに逃げなくったっていいのだけれど、街の人たちはこういうのに免疫がないから避難してくれるだろう。そう思いながら叫び続ける。


「火事です!今は一件だけですが爆発が大きかったため他の住宅に燃え移る危険性があります!逃げて下さい!」


街中のどよめきの中、俺は叫んで、走って、走ってまた叫んで、を繰り返していた。途中色んな人とぶつかる。



もう何十分叫び続けただろう、口の中が痛くなって血の味がした。夏の暑さも異常で、くたくたになった状態で俺は野原に到着する。

野原にはもう結構な人がいて、フキエルとティアイエルが物資を提供していた。


「あ、お疲れ様。」


フキエルがこちらに気づいて言う。俺は少し休憩してから言う。


「未来は?」


そういえば、さっきから未来の姿が見当たらない。


「あ、あの子なら・・・・・・あれ?いない・・・」


フキエルは疑問そうに言った。

俺は何か不吉なものを感じて顔をしかめる。


「俺、ちょっと行ってくる」


そう言って出て行こうとしたとき、フキエルが俺の腕をガシッと掴む。


「だめだよ!あと噴火まで十分なんだ、危険すぎる!それに戻って来るかもしれないでしょ。すれ違いになったら元も子もないよ」


俺があきらめかけた時、避難してきたおばさんたちの会話が聞こえた。


「そういえば、あの爆発した場所って異国の少女が残っていなかったかい?」


「そうそう、火の中で何か探してたような・・・」


・・・・・っ!未来だ。


「やっぱり行ってくる!」


「あっ!拡!」


俺はフキエルの手を無理やりほどいて走り出した。

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