EX09_まひろの話
「まず最初に、腕は痛くないか?」
「ううう・・・痛い・・・。痛み止め切れてきちゃった・・・(ぐずっ)」
「辻さんに痛み止めと水を準備してもらおうか」
「ううう・・・衛さん優しい・・・(ぐずぐず)」
何かデジャビュ・・・
痛み止めの薬を飲ませた後、まひろをベッドに座らせて、質問を開始した。
「ズバリ聞くけど、シロとまひろは共存できるのか?」
「ううう・・・わかんない。私もどうなるのか・・・」
そりゃあ、本人にしてみれば不安だろうな。
「お前は、メインの人格なんだろ?心配しなくていいんじゃないのか?」
「でも・・・シロがいなくなったら、かみさ・・・衛さんが私のこと興味なくなっちゃう・・・うっ・・・うわーん」
泣き始めてしまった。
多重人格とか、16歳には受け止めきれないような大きな事柄だよな。
何となくシロの感覚で頭を撫でて落ち着かせてやる。
(なでなでなでなで)
「・・・うう・・・ぐず・・・」
「俺とまひろの会話をシロは聞いてるのかな?」
「いつもそばにいるから聞こえてる・・・と思う」
半べそかいているまひろだけど、ちゃんと答えてくれた。
「んと、じゃあ、入れ替わりのタイミングは・・・」
「わかんない」
漫画みたいにくしゃみとかじゃないのか・・・
そりゃそうだ。
漫画とかだったら、人格が入れ替わるたびに髪型とかで分かりやすいけど、現実ではそんなことはあり得ないしなぁ。
「何をそんなに恐れてるの?心配しなくていいから言ってみて?」
「(ぐずっ)・・・少しずつ良くなってるの」
「良くなってる?なにが?」
「私・・・少しずつ良くなってきて、普通になってきてるの・・・」
まあ、出会った頃は奴隷だと思ったほど、普通じゃなかったから、今の状態は普通に近づいていると言っていいだろうなぁ。
「火傷の跡は治らないけど、筋肉とかも戻ってきたし、生理もきたし・・・普通の人に近いづいてきたみたい・・・」
「そりゃ、良いことだろ?」
「私には多分、一番多い時で20人くらいの人格があったと思う・・・」
「そんなに!?今は、まひろとシロと破壊者?」
(こくん)
「破壊者はあの後ずっと眠ってる。なにかない限りもう起きないかも」
「そうか、それは良い情報だ」
毎度毎度あんな大けがさせられたのではたまったもんじゃない。
「私が普通になるってことは、シロもいなくなるってこと・・・なの・・です・・・多分」
そ、そうか。
シロがメインの人格じゃないってことは、まひろが正常になったら・・・
「その時、シロはどうなるんだ!?」
「わかんない・・・シロも私の人格の一人だから・・・一緒になって1つになるか、そのまま2人か・・・」
「でも、どうしてそれを言いたくなかったの?まひろにしてみれば、良いことばっかりじゃないか」
ふと浮かんだ疑問だった。
「シロとかみさまの関係は・・・憧れなの・・・壊れてほしくなくて・・・」
意外な答えが返ってきた。
嫌われていると思っていたのに。
「好きになってごめんなさい。好きになってごめんなさい。意地悪してごめんなさい。シロを奪ってごめんなさい」
懺悔の様に言い始めた。
「私も好きになってほしかったんだもんー!うわーん!」
ついに、大泣きし始めてしまった。
「でも、じゃあ、なんで、最初に『嫌い』なんて言ったの?」
「その時思いついた一番かっこいいセリフを言ったのー!うわーん!」
ああ・・分かった。
この子は16歳。
あれだ。
あの病気だ。
・・・中二病。
突っ張るけど、すぐに折れる棒だ。
そして、もう、既にポッキリ折れてるな。
横に座って頭を撫でてやる。
少し落ち着いたまひろがぽつりとしゃべり始めた。
「私も好きになってほしかった・・・」
「お前はシロと同じ姿で、同じ声だぞ?嫌いになる方が難しいよ」
「シロは・・・あの子、頭おかしいもん。24時間かみさま好き好き大好きで・・・他のことなんてまるで気にしてなくて・・・」
そうなのか・・・見たまんまだけど、言葉で言われるとなんか恥ずかしいな。
「そんな気持ちがどんどん流れてくるから、私もかみ・・・衛さんのこと好きになって・・・」
「でも、ほとんど話もしたことないだろ?」
「シロの気持ちと・・・記憶も流れてくるから・・・」
「例えばどんなの?」
「頭を撫でてくれる時の笑顔がかっこいいとか・・・」
うっ
「料理を作ってくれる時の姿がかっこよすぎてずっと見ていたくなったりとか・・・」
ううっ
「寝る時に抱きしめてくれた時の安心感とか・・・良いにおいとか・・・」
うううっ
「もももももう、その辺で・・・」
ダメだ。
言葉にして言われたら、心にダメージが大きすぎる。
シロは行動で示すタイプ。
まひろは、行動できないから言葉で伝えるタイプ・・・完全に性格は別なのか。
「もっと、他にもあるの!例えば・・・」
「わかった!わかったから!伝わった!十分伝わったから!」
「私も好きになってほしかったから・・・でも、シロに勝てるとこが無くて・・・自分に勝てないとか悔しくて・・・」
「馬鹿だな。最初から好きだよ」
頭をポンポンした。
(ボッ)と音がするほどまひろの顔が赤くなった。
目は漫画で言うところのぐるぐるの状態だな。
「髪はシロと同じだし・・・」
「髪がきれいで好きなんだよ」
「目もシロと同じだし・・・」
「でも、目つきとかはちょっと違うんだよなぁ。見たら何となくシロなのかまひろなのか分かるよ」
「胸はぺったんこだし・・・」
「そこがいい」
「あと、私がいるとシロと話せなくなっちゃうし・・・」
「とりあえず、そこは時間差で何とかならないかなぁ」
「あと・・・『かみさま』ってずっと呼びたかった・・・」
「それはやめてください」
順番はめちゃくちゃだったけど、言いたかったことは全部言ったようだ。
顔は真っ赤だけど、ベッドに座ったまま何か納得しているようだ。
「そか、そか、かみさま、ぺったんこの胸が好きな変態だったんだ・・・」
嬉しそうなところ悪いが、『変態』はやめていただきたい。
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