007奴隷のお宅訪問

このところ隣がずっと静かだ。

借金取りが来ても全く反応がないどころか、生活音すらない。

俺は夜逃げではないかと考えていた。


「シロ、家に戻って何か必要なものを取ってこないか?」


そういうと、シロは一瞬ビクッとして静かに首をふるふると横に振った。

家に帰りたくないのか、必要なものなどないという意味なのか、そこまでは分からない。


「鍵は?」


(ふるふるふる)


鍵はないらしい。

シロの家に入るためにはベランダ伝いシロの家に行って、窓から入るしかないようだ。

ベランダは最初にシロが出されていたころから鍵が開いている可能性が高い。

最悪閉まっていたら・・・その時考える。


シロに代わってベランダの隣との壁、正確には『蹴破り戸』と言うらしいが、これをなんやかんやして取り外して、隣のベランダに忍び込んだ。


ベランダには床にぼろ布がひかれていた。

もしかしたら、シロの寝床?

とにかくひどい扱いだ。


窓を開けると簡単に部屋に入れた。

靴は一応脱いだ。

昼間だというのにカーテンが閉じられていて薄暗かった。


においは他人の家のにおい。

シロのにおいとも違うし、少し不快に思う臭いだった。

食べ物が腐った臭いも少しする。


しばらく誰も入ってきていないと感じられた。


部屋の間取りは俺の部屋とちょうど対象の配置。

家具のことなどを考えなければ、鏡に映したように左右が逆になっている配置だ。


家の中にはタンスが3つと、こたつの机だけでこたつ布団がないもの、座椅子2つ。

布団は敷きっぱなし。

一応テレビ台もあり、32インチのテレビも置いてある。


キッチンには冷蔵庫と小さなテーブル。

冷蔵庫の中には缶ビール1本といくつかの調味料だけ。

あと多いのがごみ袋。

とにかく、たくさんのごみ袋がある。


俺の部屋と違う部分として、部屋のあちこちに小さい何かが落ちている。

ごみなのか、食べこぼしなのか、たまに尖ったものがあると足の裏が痛い。

あと、部屋中散らかっているので、一言で言えば『汚部屋(おべや)』と言っていいだろう。

そして、玄関の扉には鍵がかかっている。


俺にはここが『牢獄』に見えた。

世界の中で閉じ込められて出られなくなった牢獄。

さながらシロはそこに監禁されていた奴隷。


食事も満足に与えられず、主人の不満の捌け口にされ、虐待を繰り返された奴隷。

いつからあの状態だったのだろう?

そう言えば、シロはいくつなのか。


部屋を見まわしてみて、シロのことが分かるものを探してみた。

タンスの中を見回しても服。

それもボロボロで汚れている服。

女性もののようだが、大きさからシロの物ではないようだ。


押し入れを見ても基本ごみ。

ここにもごみ袋がある。


サイフもなければ、通帳もない。

金目(かねめ)のものは無いようだ。

やっぱり夜逃げでは?


タンスの一番下の引き出しの奥に手帳があった。

安っぽいビニールのカバーがかけられた手帳。

暗くてよく見えないので、これだけ持ち帰ることにした。


何もない。

あるのはごみだけ。

酷いにおいと、不快な気分だけ。


何もないと分かったので、そそくさと部屋に戻った。



「かみさま・・・大丈夫ですか?」


俺はなんだかぐったりしていた。

そして、あの臭いと足の裏に張り付いている何だか分からない小さいやつ。

雰囲気も含めて具合が悪くなった。


そこで、すぐに準備してシャワーを浴びた。

風呂を沸かす時間ももったいないくらい早く何とかしたかった。

シャワーから出てくると、シロがタオルを準備してくれていた。

あまりに急いでシャワーを浴びたかったから忘れていたらしい。


シロもちゃんとした人間らしくなってきた。

気遣いが嬉しい。

もう、あそこに監禁された奴隷ではない。


部屋に戻って隣の部屋から持ってきた手帳のことを思い出した。

開いてみると、1ページ目は『出産時の児の状態』というタイトルだった。


ビニールのカバーを外すと、『母子手帳』と書かれている。

シロのだろうか。

これによると出産日が分かる。


それによって分かることは、誕生日と年齢。

シロの年齢は・・・17歳!?

異常なほど痩せていたし、身長も150cmないくらいだったので、小学生くらいかと思っていた。


最近は肉がついてきたと思っていたが、胸はぺったんこなのに、まさか17歳とは・・・

子供だと思って、最初のころから全身身体を洗ってしまったんだが。

俺と3つしか歳が違わない。

大丈夫なのかこれ。


誕生日は・・・明日!

明日で17歳かよ。

現在16歳だったか。


何となく小学生くらいの子供を保護している良い人のつもりだったが、17歳の少女を連れ込んで全身くまなく洗っている犯罪者だったのか俺は・・・


シロは不安そうに俺の顔を覗き込んでいたので、にっこり笑って頭を撫でてやった。


「にゃあ・・・」


いつものように目を細めて嬉しそうにしていた。

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