第2章 天使降臨

第8話 救う者

 ゴックンッ!


 フロッグマンは、杏子の頭を美味しそうに飲みこんだ。


「あっ、あわっ! えっ……?」


 ペタンッ


 藤花は尻もちをつくように座り込んでしまった。


 目の前に叩きつけられた本物の恐怖。死の恐怖。


 じょわぁぁあ……


 そして失禁。


「ゲロ! ゲロッ!」


 そんな藤花をフロッグマンは大きな不気味な眼で見つめている。


「な、な、なんで? 私たちには方舟様の、しゅ、守護がぁっ……!」


 今まで泣いた事のない藤花の目からは涙が溢れて止まらない。今や『永遠とわの方舟』の教えは藤花の頭から消えてしまっていた。


「ゲロ、ゲロ!!」


 フロッグマンは藤花の顔に、顔を近づけて笑っているようだった。


「たっ、助けて! いやぁー!」



 その時っ!!






 ズッドオォッンン!!







 フロッグマンの顔面にほぼ真横から

光線の如く蹴りを喰らわせた人物がいた。しかし、その動きからして本当に人間なのかも分からない。





 ズザザザザァァ……!!




 フロッグマンは吹っ飛び、大の字になりうめき声を上げている。


「ゲロォォオ……」




 スタッ!


 藤花の目の前に着地したのは金髪のロングヘアにおしゃれなサングラスをかけ、奇妙なデザインの黒いコスチュームに身をつつんだ美女。


「は、方舟っ、様ぁ?」


「? なに? 何を言ってるの?」


「か、神様っ! ですかっ?」


「はぁ!? なに言ってんの?」


「へ?」


「人を救うのは人っ! 神様なわけないじゃんっ!」


「…………っ!!」


「ボッーとしてないでっ! 早く逃げてっ! おバカっ!」


「はっ、はいっ!!」





 藤花はその場から、恐怖でもつれる足を懸命に動かして逃げた。


 脳裏に頭のない杏子の死体の映像が焼きついて離れない。さっきまで仲よくケーキを食べ、このあと愛しあう予定だった。



「はあっ! はあっ! はぁっ!」

(な、なんでこんなことにっ!?)


 藤花は必死に走れるところまで走った。後はボロボロの心を引きずって、歩いて家まで辿りついた。






 汚れた下着をビニール袋に入れて

ゴミ箱に放りこんだ。そして風呂場に行き、熱いシャワーを浴びた。


(なんでっ? 方舟様の守護は? 杏子ちゃんが殺されたっ!!)


 ドサッ


 杏子の頭のない体が崩れるように地面に倒れこんだ。そのシーンが何回も何回も目の裏で再生を繰りかえす。


 ショッキングだった。


『自分じゃなくてよかった』なんて

思っている自分に吐きけをもよおす。


 藤花は完全に混乱状態に陥っていた。


「はぁ、はぁ……」


 そんな中でたったひとつ冷静に考えられることがあった。あの『金髪の美女』のことだ。どこかで会ったことがある。そう思った。


 あんな化けものを蹴り飛ばす、怪力の金髪。普通にそんな友達、知り合いはいない。それなのに会ったことがあると思う不思議な感覚。



(あの声はひょっとして? イバラちゃん? あ、ありえない……)



 現在天使イバラはバミューダ病で動ける状態にはない。金髪でもない。あんな怪物を吹っ飛ばせるわけもない。あんな怪物を。


(あのカエル野郎っ! 私の愛する杏子ちゃんをっ!!)


 藤花は怒りと共にシャワーを終えた。

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