花絵④

修学旅行出発の朝は縁起のいい天気になった。寝不足で硬くなった身体を伸ばして息をゆっくり吸い込むと、澄んだ空気が染み渡り頭の中がすっきりとした。隆平にやっと本当の気持ちを伝えられる、それだけで最高の気分になった。

―――――― けれど状況は変わった。出発前の自分を思い出すと苦笑してしまうほど、中学最後の思い出は最悪のものとなってしまった。




「今から最後の自由行動時間です、15時20分にはこの緑地公園の入り口に集合するように」先生が叫んだ。たくさんの生徒が散っていく中、私と花絵は真っ直ぐに神社へと向かった。

「誰か来てないかな?」

ネット調べたとき、宮手前神社の“結び桜”は恋愛祈願のパワースポットとして紹介されていた。もしかしたら他の女子生徒が行ってみようと誘っているかもしれない。

「来てる様子ないよ」

いつもと変わらず冷静な花絵を見ると自分が速足になっている事に気が付く。もう少し、あともう少しで私は隆平との姉弟のような関係から一歩前に踏み出せる。


神社の階段を登りきり、辺りを見回した。紅葉シーズンであればもっとロマンもあったんだろうけど、黄色く色付いた葉が騒めく木々の間からちらほらと覗き、思ったより質素な景色に少し肩を落とした。だけど恋愛祈願の神社であることには変わらない。この後の結果が良くなるように祈って手を叩いて心の準備が整った。

「よし!行こう花絵。よろしくね」

笑って振り返ると花絵は私をじっと見つめていた。うまくやれるか心配してくれているんだろう……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る