Day4 大空へ(お題・紙飛行機)

「ここで魔物を助けてくれるって聞いたけど……」

 今日、公会堂事務局の窓口に依頼に来たのは、六歳くらいの男の子だった。

 聖ユグリング寺院で開かれる、読み書きと基礎の算数を教える教室を終えて来たらしい彼は両手に抱えた桶を差し出した。

「……何? これ?」

 桶の中では紙飛行機がくるくると一人でに回っている。

「ああ、エアロバードという風の魔物よ。まだ子供みたいだけど」

 フランが桶を覗き込み、ぷるんと揺れた。

 

 エアロバードは山の高いところで遭遇することの多い魔物だという。

「本来は空に住んでいて、地上には滅多に降りてこないの。偶に山の上で人と遭遇して、驚いた拍子に風で襲うことがあるというわ」

 私達は男の子を連れて公会堂の屋上に上がった。秋晴れの空に白い雲が気持ち良さそうに浮かんでいる。

「でも、この子はどうして地上に?」

「ボクが紙飛行機で遊んでいたら、紙飛行機が勝手に飛び出したんだ」

 多分、何かの拍子に地上近くまで来て、そこで男の子の紙飛行機に惹かれて降りてきたらしい。

「……随分と弱っているようでござるが……」

 心配げに見る影丸に

「エアロバードは地上に降りると数日で弱って消えてしまうから」

 ぷるぷる揺れながらフランが答える。男の子の目がうるんだ。

「聖騎士様! この子を助けて!」

「任せて!」

 とにかく空に帰せば良いのだ。桶の紙飛行機に手をかざす。

 勇者である私は、大陸中央の聖ユグリング皇国の魔法貴族や魔法僧、学園国家レクスターの魔導師のように不思議な力が使える。しかも魔法とは違い呪文を唱えなくてもイメージして集中するだけで使えるのだ。

 その一つ、仲間の力を増幅する力を使う。集中して力を注ぎ込むとくるくると回る紙飛行機の速度が速くなった。

「さあ、お帰り!」

 手を空に振り上げると紙飛行機が舞い上がる。紙飛行機はくるりと男の子の周りを回り、秋の青い空に高く高く飛んでいった。あっという間に雲を越えて見えなくなる。

「『楽しかったよ。また遊ぼうね』ですって」

 フランがエアロバードの言葉を通訳してくれる。

「うん! またね!」

 男の子が背伸びして、空に大きく手を振った。

 

 依頼者:教室帰りの男の子

 依頼:エアロバードを助ける

 報酬:男の子が折ってくれた紙飛行機

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る