10 覚醒

「ガ……ッ!?」


 呻き声が自然と喉から絞り出て、勢いよく窓を突き破って外に放りだされる。

 そしてそのままアパートの駐車場のアスファルトをワンバウンドしてブロック塀に叩き付けられた。


「……が……ぁ……ッ あああああああああああああッ!?」


 全身に意識が消し飛ぶ程の激痛が走った。

 呪術による肉体強化を行っていなかった隼人の腹部は蹴りにより大穴が空いていて、そこから溢れ出した血液がアスファルトを血の海に変えていく。

 怪我や痛みの比で言えば先に半殺しにされた時とは比べものにならない。

 だけど……まだ意識はそこにあって。


「……ッ」


 そして、再生が始まっていた。緩やかに視界に映る腕の怪我が治っていくのが見えて、今も冬野の眷属になっているお蔭で命が繋ぎ止められている事を再認識出来た。


(そうだ、冬野……ッ!)


 自分の体がどうなっているとか、そういう事は後でいい。

 そんな事はどうだっていい。

 何が起きているのか。

 何故あの場にあの男が現れたのか。

 何も、何も分からないけれど。

 頭のおかしい殺人鬼の吸血鬼が冬野の部屋にいるという事実だけは変わらない。

 そんな状況で、こんな所で寝ている訳にはいかない。

 とにかく今の体を、さっさとどうにかしてしまう必要があった。


 吸血鬼の治癒には二種類に分けられる。

 時間と共に緩やかに傷が再生していく自然治癒と、体力を削り一気に再生させる方法。

 具体的にやり方を知っていた訳では無い。だけど自然とそのやり方は分かってきて。分かっているならもうそれを行うしか無くて。


「……ッ!」


 全身に力を籠め、次の瞬間、全身の気力や体力を持っていかれる様な感覚と共に、吸血鬼のそれの半分程のスピードで全身の傷が再生し始めた。


(……さっさと治して、それで……)


 と、そこまで考えて思考が止まった。

 今、自分は何をしようとしているのかと。

 戻って一体どうするつもりなのかと。

 何ができるつもりなのかと。


 全身を纏う痛みが。トラウマを全て穿り返すようにフラッシュバックさせてくる。

 徐々に両手の震えは強くなって。

 例え全身が動く様になったとしても前へと進める気がしなくて。そんな人間になってしまったからこそ、桜野隼人という滅血師は折れたのだ。

 そして半ば逃げるように。目を背ける様に。ある考えに辿りついた。


 ……別に今、自分があの場所に戻る必要は無いのではないかと。


 確かにあの男は殺人鬼だ。

 だが吸血鬼が襲う対象は基本的に人間で。

 故に今、吸血鬼である冬野が危険に晒されているかといわれれば、いないのではないかとも思う。

 だから。

 と、逃げるように考えたその時だった。こちらに向けて何かが飛んできたのは。


「……え?」


 リストバンドが付けられた腕が冬野の部屋から飛んできたのは。


「あぐッ、ああああああああああああああああああああああああッ!?」


 部屋の中から、冬野の絞り出した様な悲鳴が聞こえてきたのは。

 その瞬間だった。動ける程度に肉体の再生が終わったのは。


「……ッ」


 部屋の中で自身の予想と反して碌でもない事が起こっている。

 行かないといけない。

 助けに行かないといけない。

 理由なんてまるで分からないけれど、行かなければ冬野が男に殺される。

 それはもう間違いないと思った。


 だけどフラッシュバックしてくる。

 自身が身に纏う激痛が。

 冬野の悲鳴が。

 凄惨な光景と感覚を痛みと吐き気を引き連れてくる。

 体をその場に縛り付けてくる。


 怖くて……怖くて。

 戦わなければならないという意思を徹底的に圧し折ってくる。

 ……だけどそれでも。それ以上に。


「……みだせ」


 冬野が目の前で殺される。

 そんな悲劇だけは絶対に回避しなければならないって。

 それだけは絶対に嫌なんだって。

 心が叫び散らしていた。

 そして形容しがたい何かに背を押されながら。

 冬野に背中を押される様な感覚を感じながら。

 桜野隼人は。

 吸血鬼の眷属は、主を助ける為に一歩前へと進む。


「踏みだせええええええええええええええええええええええッ!」


 そして自らを鼓舞する様に隼人は叫んで、血反吐を吐きながら術式を構築し始めた。


 強化の呪術。

 徒労に終わった二年間の結晶。

 眷属化によって得た吸血鬼の半分程度の身体能力では、吸血鬼の中でも最上位とも感じられる男には太刀打ちなんてできないから。


 だから身を削る。

 もはやそこに躊躇いなんてものは無かった。


 次の瞬間、上空。二階相当の高さに結界を展開。

 そこに向けて跳び上がり足を付け、部屋の中を視界に捉える。

 そこにいたのは痛みに悶える様に部屋に転がりながら、失った右腕を再生させる冬野と。


 ……そんな冬野をどこか困惑する様に見降ろす男。


 その男が何かに気付いた様に隼人に視線を向けたその時、結界を全力で蹴って加速。

 呪術と眷属化。

 双方により極限にまで向上した身体能力で。

 呪術を纏わせた拳を握って。


「冬野から、離れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


「……ッ!」


 男は腕をクロスさせて身を守りながら後方に跳ぶ。そんな男の腕に隼人は拳を叩き込んだ。


 腕をへし折る感覚が伝わり、男の体は後方へと弾き飛ばされて外へと放り出された。

 一瞬、そのまま追撃を仕掛けようと思った。


 だけどそんな事よりも。

 そんな事よりもまず意識を向けるべき相手がいる。


「桜野……君」


 憔悴しきった声音でそう言った冬野は、再生させた腕を使ってゆっくりと体を起こす。


「大丈夫か冬野!」


「私は……大丈夫。治るから……って桜野君は!?」


「俺は……大丈夫、だから」


 言いながら咳き込んで血反吐を吐き散らかす。

 鼻血も溢れる様に出ていて。

 とにかく全身が内側から崩壊を始めているのが良く分かった。どこにも大丈夫な要素など存在しない。


「大丈夫な訳――」


「……大丈夫」


 それでもそう言って冬野に背を向けた。ひとまず冬野は大丈夫だと、そう思えたから。

 ここからすべきなのはあの男の討伐だ。

 理由は分からないが冬野を殺そうとした。

 つまりこの状況を生き延びる事が出来ても、またいつ冬野を殺そうとするかは分からない。

 故に此処で終わらせる必要がある。

 体も心も悲鳴を上げていても逃げる訳にはいかない。


 床を蹴りアパートを跳び出した。

 するとすぐ近くのブロック塀に背を預け、圧し折れた右腕を庇う様にして立ち上がり、隼人に対し困惑する様な表情を浮かべる男の姿が見える。


「……まさか眷属化か。いや、でもそれならなんで……」


 どうやらどうして先に致命傷を与えた筈の相手がそもそもまだ生きながらえているのか。

 そして蹴りで腹に穴を空けたのにも関わらず、当たり前の様に傷が塞がって生きているのか。

 それが不思議で仕方がなかったらしい。

 そして答えが出た。

 眷属化という答えが。


 他にも何か思う所があったのか、何かを言いかけたが様だが……だけど別に向こうがどう思っていようが隼人にとっては関係がない。


「そうか……そういう事かッ!」


「……」


 どんな答えを出そうか関係がない。

 相手はサイコパス染みた男で。

 冬野を殺そうとした男で。

 故にその答えに思考を割く位なら、一秒でも早く男を殺す事を考えた方が良い。


 ではどうやって殺すか。

 複雑な手段は多くの呪術を並列して使う必要が出てくる。

 それに今の眷属化した体が耐えられるか分からない以上それは得策ではない。

 身を削る覚悟はしても犬死するつもりはないから。

 無理にそれをする必要なんてどこにもない。だから。


(シンプルに真正面からぶっ殺す!)


 そして男に向けて最高速で跳びかかった。


「ッ!」


 そして放たれた拳を男は辛うじてという風に体を反らして回避するが、すぐさま隼人は切り返し、腕を振り払い裏拳を男の胸元に叩き込む。


「……グアッ!?」


 肋骨を砕く感覚が拳に伝わる。

 そして肋骨も右腕も。

 呪術を纏って負わせたダメージはそう簡単には再生しない。

 ましてやそれが千年に一人と評された天才の一撃ならば尚更。


 そしてその怪我で少なからず動きは鈍る。

 だとすればこのまま一気に殺しきるべきだ。

 後方に転がり態勢を立て直そうとしていた男との距離を詰め、顎に蹴りを叩き込んだ。

 衝撃で体が7、8メートル浮きあがる程の強力な一撃。


 更に追撃する為に跳びあがり、手を組んで両手をハンマーの様に顔面に振り下ろして、面を割り男を地面に叩き付ける。

 そしてそのまま落下しながら体を捻り、辛うじてという風に起き上がってきた男に向けて全力の蹴りを叩き込んで弾き飛ばした。


(……行ける)


 呪術と眷属化による重ね掛けの強化は男の速度を上回っていて。

 そんな状態で虫の息になっていてもおかしくないだけのダメージを与えた。

 確実にこのままたたみかけられる。

 確信を持ってそう思いながら着地し、追撃する為に走り出した……その時だった。


「……ッ!」


 全身を走った激痛に思わず立ち止って膝から崩れ落ち、激しく血反吐を吐き散らした。

 結局男よりもマシというだけで隼人自身虫の息に近い様な状態だった。

 眷属となった体での肉体強化の呪術の持続。

 それが人体に与える影響は凄まじく、此処に来て限界がきた。

 まだあの男を倒しきれていないのに。


「クソ……ッ」


 とにかく前方に全神経を集中させながらも一旦呪術を解き、緩やかながらも呪術の使用により壊れた体の修復に取りかかった。

 流石にこのまま突っ込むのは無謀すぎる。

 そう思う位には全身が悲鳴を上げていて。

 そして結局男の状態にしても、虫の息かもしれないという憶測止まりなのだから。とにかく今は待ち構える。そういうスタンスを取らざるを得なかった。


 だけど追撃が無い。

 接近してこない。

 向こうも同じ様に自身の体の再生を待っているのかは分からないが、とにかく最接近してくる気配がない。

 逃げたのか。逃げられたのか。逃げてくれたのか。

 それは分からないけれど、とにかくこれで戦闘は終わった様だった。


「……終わった。生き残った」


 そうやって終わったと思うと、溢れる様な安堵感が全身を包み込んだ。

 男を倒しきれなかったという事は間違いなく失敗だったと思うけれど、それでも自分も冬野も生きている。その安堵感はあまりに大きい。


「……戻らねえと」


 消えた男を探す術もない以上、今この状況で冬野を一人にしておくべきではない。

 あれだけ大きな騒ぎを起こしたのだ。

 いくらアパートに冬野以外の入居者がいなかったとしても、近隣住民に通報されている可能性は大いにある訳で。

 対策を練る必要がある。


 その対策を考えながら、隼人は冬野のアパートへと足取りを向けた。

 部屋へ向かう前に駐車場へと急ぎ足で向かってリストバンドを回収する。

 最低限これだけは確保しておかなければ話にならない。

 そしてそれを手に冬野の部屋へと戻った。


「……桜野君」


 部屋の中で床に座りこんでいた冬野が隼人の名を呼んで立ち上がる。


「……倒しきれなかった。だけど追い払いはしたぞ」


「そんな事より!」


 そう言って冬野は、部屋の中に足を踏み入れた隼人に歩み寄り両腕を掴んで言う。


「体! 桜野君の体! 大丈夫!?」


「まあ……こうして歩いて戻ってこれる位には」


 実際はなんとか歩いて戻ってこれただけで、大丈夫か否かで言えば全く大丈夫では無かったのだが、それでもどんな状況であれ大丈夫だと言えるなら大丈夫と言うべきだ。


「そんな事より冬野」


「いや、全然そんな事じゃ……」


「まあとにかくこれ。これ一旦付けとけ」


 そう言って冬野に血塗れのリストバンドを手渡す。


「正直これだけの騒ぎだ。警察か滅血師に通報が行ってねえ方がおかしい。でもそれ付けときゃとりあえず誤魔化しは聞くはずだ」


「う、うん」


 冬野は腕にリストバンドを取りつける。これで冬野は見鬼に反応しない。


(……となれば後は)


 改めて冬野の姿をじっと見る。

 片腕が弾き飛ぶ。

 それだけの事があっただけあって衣服は血塗れだ。

 だけど幸いな事にと言って良いのかは分からなかったが、目立った外傷は片腕だけだった。

 それも半袖が蔽う部位より下だけ。

 少なくとも衣服が不自然な破れ方をしている様には見えなかった。

 不自然に破れた衣服などはその場で何が起きていたのかを察する為の状況証拠に成り得る。

 今回冬野はリストバンドを取りつけるという行動一つでひとまずは大丈夫そうだ。

 部屋の惨状も吸血鬼に襲われたという理由で説明が付く以上、今取り急ぎやるべき事は隼人自身の大穴が空いた衣服をどうにかする事位だった。


「ちょ、桜野君。なんで服脱いでるの!?」


「もし滅血師が此処に来たらこの穴で色々悟られそうだし。そうなったらマズイだろ」


「まあ……確かに、そうだね。いやそうだけどさ……」


 困惑気味にそう言う冬野をよそに、服をバラバラに引きちぎった後ゴミ箱に入れる。


「と、とりあえず何か羽織れる物無かったかな……」


「別にいいよ夏だし」


「あ、いや、そういう事じゃなくって……いや、もういいやこの際それでも、うん」


 そう諦めた様に軽くため息を付いた後、冬野は一拍空けてから小さく笑みを作って言う。


「まあとにかく桜野君……無事でよかった」


「……おう、冬野もな」


 と、そんなやり取りをした次の瞬間だった。


「……ッ」


 冬野が驚いた様な。怯えた様な。そんな表情を浮かべ、ビクリと体を震わせた。


「……ッ」


 突然何の脈略もなく浮かべられたその怯えた表情に、冬野の視界の先に再び男が映ったのかと思って慌てて振り返る。

 だけど視界の先に男はいない。

 いたのは人間。


「え、は……隼人!?」


「……綾ねぇ!?」


 そこにいたのは、呪術が付与された日本刀を手にした綾香を含めた三人の滅血師だった。

 どうやら近隣住民の通報でやってきたのが綾香達だったようだ。


「電話全然出ないと思ったらなんでこんな所に……家にもいないし心配したのよ!」


 結局冬野の部屋に運ばれてからスマホを見ていなかった為知らなかったが、どうやら綾香が何度も連絡してくれていたらしい。この近辺にあの男が現れた事を伝える為に。


「……ごめん。ちょっと出られなくて」


「ま、まあ無事ならいいんだけど……それで、此処で何があったの」


 そう来ると思った。当然此処に居れば事情聴取位される。

 だが馬鹿正直に話す訳にはいかない。

 この部屋の惨状に理由を付ける為にも隼人は起きた事を取捨選択して再構築する。


「狐のお面の吸血鬼に突然襲撃された。そんでなんとか追い返して……で、その過程で部屋とか、コイツが血ぃ被っちまったりとかした訳」


「……あ、どうも。お久しぶりです。藤堂さん」


「え、もしかして冬野ちゃん!? なんでこんな所に……あれ? えぇ!?」


 一礼した冬野に綾香は驚いた様にそう言う。


「実は今此処で一人暮らししてるんです。それでその……まあ、こんな事に」


「なるほど……じゃあ隼人が襲われてそれに巻き込まれちゃった感じか……なんだかごめんね、ウチの隼人の所為でこんな事になって」


「……いえ、桜野君は何も悪くないですから」


「……強いね。普通そんな事、中々言えないよ。まあとにかく、無事でよかった」


 綾香は静かにそう言った後、真面目な表情で隼人に視線を向ける。


「それで、なんとか追い返したって……大丈夫だったの?」


「……まあ、なんとか」


 大丈夫とは、ストレートに怪我云々の話ではないだろうと思う。

 桜野隼人という千年に一人の天才は心を病んでもう戦えない。

 それは多くの滅血師達が知っているわけだが、他の有象無象より圧倒的に近い位置から桜野隼人という人間を見てきたのは雄吾と綾香だ。

 流石に追い返したと言ってもすぐには信じてもらえない気がした。


「……そっか」


 だけど少し考える素振りをした綾香は、やがて納得した様に言って隼人の肩に手を置く。


「……頑張ったね」


「……ああ」


 到底信じられる話では無かった筈だ。

 それだけ綾香に見せてきた精神状態は酷く脆い物だったから。


 それでも信じてくれた。

 それ以外に考えられる可能性が無かったからという理由もあったのかもしれないけれど。

 それでも弟の言葉を素直に信じてくれる姉の様に。

 こんな所で嘘なんて吐く人間ではないと信じてくれている様に。

 受け入れてくれた。


「じゃあ隼人、此処……というより冬野ちゃん任せていいかな? 私達はその……狐のお面の捜索の方に応援行かなきゃだし。滅血師と一緒に居るのは余計に危ないかもしれないけれど、それでもこんな状態で冬野ちゃん一人にしておく訳にはいかないから」


「……分かった」


 答えながら安堵した。

 これで他の滅血師にこの場を委ねなくて済んだのだから。


「ちなみにどっちに行った?」


「向こうの方。結構ダメージは与えた筈だからあまり遠くには行ってないかもしれない」


「……分かったありがと」


 綾香は隼人にそう言った後、他の滅血師に言う。


「ごめん、遅くなって。行こう……と、その前に」


 動きだそうとする前に綾香がもう一度だけ振り向いて、冬野に言う。


「冬野ちゃん」


「は、はい」


「よかったらこれからも仲良くしてあげて」


 綾香は優しい笑みを浮かべてそう言った。


「……はい」


 そして冬野がそう返事を返したのを見て、隼人へと視線を向けなおす。


「あと、隼人」


「なに綾ねえ」


「今こっちに雄吾来てるらしいの。自主的に応援に来た、みたいな」


「兄貴が?」


「うん。だからもしもう一度あの男を見かける様な事があったら雄吾に連絡して。多分私達に連絡入れるより絶対にいいから」


「……分かった」


 綾香の言葉に隼人は頷き、そして考える。

 どうして態々雄吾が出て来たのだろうかと。

 確かにあの男は最強の吸血鬼と言っても差し支えない程の吸血鬼で、誰かをぶつけるのならば、現時点で国内最強の滅血師だと胸を張って思える雄吾をぶつけるべきだと思う。


 だけど今までも各地で男の目撃情報は上がっていて。それでもその都度雄吾が自分の管轄外から出てまで男の出現ポイントにまでやってきていたのかと言われればそうではない。


(……俺や綾ねえがいるからか?)


 考えられる可能性があるのはそれだ。

 どちらかと言えば私情寄りの事情で応援に来た。

 私情で動いてくれていた。

 おそらくはそういう事なのかもしれない。


「じゃあそんな訳だから。後よろしく」


 綾香はそう言い残して、他の滅血師と共に部屋から去っていく。


「……行っちゃったね」


「行ってくれたの間違いじゃねえの? ……善意は嬉しいけど、今の俺達的にはさ」


「まあ……そうだね。大丈夫だって分かってても、やっぱ少し怖いし」


 冬野は血塗れのリストバンドに手を添えてそう言う。

 そして血塗れの部屋の中に隼人と冬野だけが。吸血鬼と眷属の二人だけが残された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る