3 既に終わった話

 それから更に二年の月日が経過し、桜野隼人は高校二年生になった。

 二年という月日は人を変えるには十分な期間で、桜野隼人という人間もこの二年間で少なからず変化が訪れた。


 中学三年から高校一年の間に急速な成長期に入った事もあり身長は随分と伸びて、かつてブラックコーヒーを飲める人間はどこかおかしいだなんて考えていたにも関わらずブラックを好むようになり。

 他にも実家暮らしから一人暮らしへと変わり、中学時代悪かった成績は高校入学後辺りから向上し始める。


 もっともそれらは最も大きかった変化と比べればちっぽけなもので。桜野隼人の中で最も大きかった変化といえば、吸血鬼や滅血師絡みの事である。


 あれから二年が経過した今、もう滅血師なんてやっていない。

 随分と昔に逃げだした。


「また……この夢かよぉ……ッ!」


 不定期に見る中学時代の。自分が滅血師だった頃の夢に、そんな声を絞り出しながらベッドの上で頭を抱える。

 冬野雪と出会ってからしばらくの幸せな時期と、滅血師を止めるに至るまでの吐き気を催す様な一件を再現した夢。

 一度見れば目が覚めた後も連鎖的にフラッシュバックしてきて、しばらく起き上がる事も困難になる様な、そんな悪夢。


 抱く感情は恐怖と嫌悪感と絶望感と、そして罪悪感。


 ……とにかく、あれから二年が。

 冬野雪への決意からは四年が経過した。


 あの時冬野雪に言い放った決意は、とっくの昔に圧し折れている。

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