賢者になったドワーフ娘

いりよしながせ

村の職人

第1話 ゲーム三昧の五連休

「やったぜ。明日から5連休だ。」


およそ、1か月休みなく社畜のように働いた結城誠ゆうきまことは安心したようにつぶやいた。見た目は可もなく不可もなくいたって普通の容姿をしており、今年で36歳になり、生まれてこの方、女性運に恵まれず彼女なしの独身である。


勤め先は少々ブラックな企業で、いままでまともに休みを取ることができなかったが、運良くここでまとまった休みを取ることができた。と言っても会社の設備更新のため、3日間ほど休業となり土曜、日曜を含めての会社事由を含めた5連休である。せっかくなので、この連休を利用して先日たまたま見かけたウェブ広告で気になっていたオンラインゲームをプレイしてみようと計画をしていた。


ひとつの仮想世界でいろいろな種族や職業にふんしたプレイヤーがモンスターを倒したり、生産や商売を行ったりできるゲームで基本プレイ無料と言う広告文句が彼の気を引いた。


帰宅途中でプレイ時間を無駄にしないために5日分の食料を購入し、1歩も家から事もなくゲームライフを過ごせるように準備を整え帰宅した。誠の部屋は2階建ての木造アパートの1室(6畳1間、トイレバス付)を借りて生活している。


惣菜そうざい弁当の夕食を食べ、入浴などを済ませてパソコンの置かれている机の前に座り準備完了。「さあ、ゲームの始まり始まりだ!」などとテンションが上がり独り言を言ってしまう。


公式サイトでゲームをダウンロードしてアカウントを作成するとゲームを始めることができる。アカウントを登録するときにクレジットカードの情報を入力することでアイテムなどの購入ができるようだが、無課金でプレイする予定なので、この項目は入力せずに登録を済ませることにした。クレジットカードを使用しない場合は、コンビニなどで購入できる専用のプリペイドカードで課金も可能らしい。


次に自分の分身となるキャラクター作成を行う。まず種族、ヒューマン、エルフ、獣人(犬族、猫族など数種類の中から選ぶことができる)ドワーフなど・・・。選択できる種族がたくさんあり過ぎて悩むくらいだ。


かなりの時間をかけて悩んだ末にドワーフの女性を選択した。見た目が幼女に見えて可愛いかったので・・・という安易な気持ちではあったが、決してそう言う体型の女性が好きという訳ではないことは述べておこうと思う。安易ではあるが、取りあえず名前はドワーフの娘なので、ドワコと名付けた。


いよいよゲーム開始だ。まずはチュートリアルで基本操作などを学ぶ。ドワーフは男女ともに身長が低く、男性は立派な髭を生やし貫禄があり、女性は活発な感じの少女に見える。基本的なプレイスタイルは素材を集めて『クリエイトスキル』を使用して物作りをする。その制作した物を売ったり、自分の装備として魔物などを討伐してお金を稼いだり、経験値を貯めて強くしたりしてゲームを進めるようだ。この制作スキルを使うためには『工房』と言うものが必要らしい。ドワーフの戦闘のスタイルは力任せに鈍器や斧で殴りつけるだけの至ってシンプルな戦い方だ。もちろん魔力なども低く(全くない訳でなく雀の涙ほどはある)最低レベルの魔法も魔力が足りない為に使用できない種族ようだ。


取りあえずは周辺でモンスターを狩りながらレベル上げを行う。チュートリアルでは初期の街に配置されている工房を使うことで素材さえ揃えば武器や防具などを作成することもできる。レベルが上がることで『クリエイトスキル』のランクが上がり作成できるリストが自動で増えていくようだ。自動で増える物の他に、レアリティ高いものを製作図というアイテムを読むことにより作成可能になるらしい。ただ作成するときには必要になる材料集めが大変なようで容易に揃えることができないようだ。当面は製作は行わずレベル上げを優先させることにする。



このような感じで2日経過した。NPCしかいない村でのチュートリアルを卒業し、他のプレイヤーたちが存在するエリアへ移動する。新しい出会いに期待して村へ移動してみたが、プレヤーと思われる人物が余りいないようだ。なぜだろうと考えていたときに1人のヒューマンの男が話しかけてきた。


「はじめまして。ドワコさんは初心者の方かな?」


キャラクターの上には「ミンミン」と表示されていた。このキャラクターの名前のようだ。


「はい。始めて2日目だよ」


と誠は答えた。まあゲームの中ではドワコなのだが・・・。


「ミンミンさんはプレイ歴長いのですか?」

「結構長い間やってますよ。良かったらレベル上げを手伝いましょうか?」

「良いんですか?助かります」


という感じでミンミンの名乗る人物に協力してもらえることになった。軽い気持ちで受けた誠だったのだが、この出会いが後々大きく影響するとはこの時点では知る由もなかった。


ミンミンはヒューマンの魔法職である『賢者』と呼ばれる複数の系統が使える魔法職だそうだ。ドワーフは魔法が使えないから、魔法の部分のチュートリアルを読み飛ばしたので詳しくは把握していないので魔法の詳細についてはわからなかった。あと。、この村にプレイヤーが余りいないのは初期村と呼ばれ、かなり難易度が低く設定してあり初心者が操作に慣れるのを前提として作られたエリアなので、稼ぎが少なく、ある程度ゲームを進め力が付くと稼ぎの良い他の村や町に移動してしまうそうだ。誠はそれを聞き納得した。


それからミンミンが簡単に移動ができる『ゲート』と言う魔法を使用して、知らない場所へいろいろ連れまわされ、半ば強制的にレベルアップをさせられていった。単純作業の繰り返しではあったが、苦とも思わず、楽しいとさえ感じていた。だが、楽しい時間はすぐに過ぎてしまい、あっと言う間に休日最終日となってしまった。


苦労したこともあり、おかげでレベルは最大になった。ちなみに課金をするとレベル上限が上がるしいが、初心者がここまで上がれば無課金でも十分な強さだと誠は感じていた。今日で休みも終わり、明日から仕事も始まる。・・・現実逃避をして休みの間ゲームを楽しめたので良かったと思う。


「ミンミンさんありがとうございました。おかげでレベルも上がり助かりました」

「こちらこそ。ドワコさんのおかげで最後のゲームを楽しめました。ありがとう」

「えっと、最後って?」


ふと疑問に思い聞き返してみると、ミンミンは答えた。


「家庭の事情でこのゲームプレイできなくなってしまったんだ」

「それは残念です。これからも一緒にいろいろ冒険したかったのですが・・・」


誠はわずか数日ではあったが、ミンミンと過ごしたのがとても楽しかったので残念に思った。


「今までお世話になった方、仲良くなった人に今まで集めたレアアイテムを渡して回っていたんだ。もうレアアイテムはこの1つしか残っていないが、僕がプレイしてきた証しとして君に受け取ってほしいんだ」

「わかった。受け取るよ。ミンミンさんの事は忘れません」


すると取り引きが表示され1冊の本が表示されていたのでOKボタンを押した。


「受け取ってくれてありがとう。これは一種の武器だからきっと役に立つと思うよ。」

「それじゃ僕はもういくよ。頑張ってね」


と言ってミンミンはログアウトした。



夜も更けてきたので明日に備えて寝る準備を始めようと誠は立ち上がると急激な頭痛が襲い、そのまま意識を失い倒れてしまった。


休み無しで働いた上にゲームに夢中になってしまった為に過労で倒れてしまったようだと倒れながら冷静に考えてしまった。そのまま天に召されるのかもと思いながら誠の思考は停止した。

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