第34話

〈ユウ視点〉







課「お疲れ中須君!

  この前言ってた結婚式なんだけど

  会社側の挨拶は部長がしてくれるそうだぞ!」





ユウ「・・・・・・」





課「中須君?」





ユウ「あっ…ありがとうございます」





課「日取り決まったら教えてくれよ!」





そう言いながら俺の肩をポンと叩いて

自分の席に戻っていく課長を見送り

自分のPCに顔を戻した…






(・・・・フラれたん・・・だよな?)






金曜日に伊織から

「求めていた相手じゃない」と言われ

俺はそのまま帰ったが

次の日も、その次の日も…

伊織からはなんの連絡もない…






あの時、伊織は俺の手を掴んでくれたが

俺に恋愛感情が無いことは分かっていた…

 




(・・・それでも良かった…)







週に数回見る伊織の姿を意識して

探すようになったのはいつからだったか…

最初はただ見ていて面白かったから

興味本位で眺めているだけだった…





スーパーではたまに遅い時間に見かける事があり

俺が刺身のパックを籠に入れて買い物をしていると

スタッフが割引シールを貼りに出てきて

4割引になった刺身のパックをワザと

伊織の目の前で売り場に戻した事があった…






伊織はニコッと頬を高くさせて喜ぶと

そのパックを自分の籠に入れて

嬉しそうに歩いて行き

俺はそんな伊織を見て一人で笑いがでた





多分年上なんだろうが刺身一つであんなに

喜ぶ女を可愛く思った…





食品や日用品を買う姿を見ていれば

なんとなく人となりも見えてくる…

伊織は見た目綺麗にしているが

節約家なのか10円単位でも

渋っている時があった…





金遣いが荒そうには見えないが

何でそこまで切り詰めているのかは謎で

変な男に貢いでいるのか?と

伊織への興味はドンドン強くなっていき

店に入ると必ず探すようになった…





やっと話せた伊織は俺を全く男とは見てくれず

そんな態度に少し腹も立ち

伊織を怒らせるような事を言うと

怒って帰って行ってしまい

番号を渡しても連絡はなくスーパーで見かけても

声をかけれないでいた…





しばらくして帰り道にある立ち飲み屋に伊織が

いるのを見て驚き外から様子を見ていると

連れはいないようで難しい顔をして考え事を

しているかと思ったら泣きそうな顔になって

ビールを飲んでいた…





俺は伊織の隣の客が帰った後に

隣に立って注文をしたが、伊織は全く俺に

気づかないでまた考え事をしているようだった…





少し緊張しながら伊織に頼んだ小鉢を

差し出すと顔を上げて俺の方を見た…




(・・・・泣いていたのか?)




伊織の目は少し充血していて

目元のメイクも滲んでいる…





伊織は何も言わずに顔を背けて

一ヶ月経った今も怒っているのかと聞けば

素っ気ない返事しか返してくれず

俺もひねくれた物言いしか出来ないでいると






「・・・君さ…その失礼な態度はワザとなの?

  それとも、そうゆう性格で悪気がないの?」






と伊織は顔を近づけて

マジマジとした顔で聞いてきたから

あの時みたいに怒ってないんだと分かり

それだけで嬉しくなって笑っていた…







結婚したいって言いながら

ジョッキのビールを飲み干す姿は

普通なら決して可愛らしく見えるような

光景ではないはずなんだが…





(・・・・抱きしめたい…)





イヤラしい意味ではなく

伊織が、か弱く見えたから素直にそう思った…




一年近く気になっていた存在ではあるが

イキナリ結婚をする考えは流石になく

どうしたものかと悩んでいると





「・・・・魚料理が好きなのね?」





俺が食えと差し出した漬け茶漬けを見て

そう尋ねられて(え?)と思い

今自分が食べているのもごま鯖の小鉢で

無意識に伊織が好きな魚料理を

頼んでいた事に気づいて

自分でも少し驚いて笑いが出る





ユウ「さぁ?笑」





と答えながら最初に頼んだポテトサラダも

伊織が何回か割引になったのを買っていたのを

見ていた事を思い出し伊織を横目で見た…





(・・・・いつかは…するのか?)





俺は今26だし…もし伊織と付き合ったとして

時間が経って数年後に結婚ってなる未来が

全くないわけでは無い気がした…





(・・・ない未来では…ねーな…)





文句を言っていたわりに「ん!」と顔を緩めて

茶漬けを頬張る伊織を見ながらそう思い





店を出ると伊織をホテルに引っ張って行った

余程相性が合わないとかがなければ

伊織と結婚してもいいと思ったからだ…






伊織の抱き心地は予想以上に良く

ハッキリ言って最高だった…





(・・・結婚は・・ありだ・・)




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