第2話 顔合わせ


「お前は先に行って少しの間待っていてくれ」


顔合わせ当日。

父にそんなこと言われて喫茶店にやってきた俺は、4人席を確保しながらぼーと座っていた。


約束の時間は午前11時。

今は10時53分だからもう少しだ。


数分の間俺がぼ~と外の景色を眺めていると、後ろのほうでチリンチリンと来客を知らせるベルが鳴り、店員さんの3名様という声が聞こえてきた。


「来たか_」


俺は立ち上がって父さん達に軽く手を振った。

数秒もしないうちに3人はやってきて、俺の隣に父さん、父さんの向かい側に彼女さん、俺の向かい側に女の子という位置になった。

さっき立ち上がって父に端っこを譲ってしまった俺は、廊下側になったので注文を取った。


やがて、3つのコーヒーとオレンジジュースが運ばれてくると改めて自己紹介が始まった。






「あらためて由貴、こちらがお前の義母さんになる愛実さんだ」


「そしてこちらがお前の義妹になる美愛ちゃん」



セミロングの美しい儚げ美人と母の遺伝子を色濃く受け継いだであろう美少女を父は連れてきた。

もう一度言おう、父が連れてきたのだ。



「こんにちは、由貴です、よろしくお願いします」


そう言って俺は軽く会釈をした。



「込み入った話はもう愛実さんと済ませているから、由貴と美愛ちゃんには軽く説明しようと思う」


そう言って口を開いたのはうちの父。

人一人殺せそうなこわ面で、職場でも患者に藪医者扱いされることがしばしばあるかわいそうな父。

腕は確かなんだけどね。

かつてそんな父と結婚したのは子供の贔屓目なく美人な義母さんだった。

この父は美人を引き付けるのだろうか。

全く羨ましいやつだ。俺なんて野郎しか集まんないのに。




視覚的にもう美女と野獣にしか見えないが。そんな父さんたちから目を反らして義妹になる美愛ちゃんを見た。



バッチリと目が合った。



え?と思う間もなく美愛ちゃんはさっと視線を下に向け、オレンジジュースを飲み始めてしまった。


「別に、私だってコーヒーくらい飲めるもん_」


そんな声が小さく聞こえた気がした。



「__それで結婚式は笹木野の丘にある式場であげようと思う、家だが今のアパートを出て新しい一軒家を建てよう、ちなみにもう建設は始まっていて来週には出来るみたいだから早めに移って__」



父さんにしては凄く饒舌だ。

それだけ新しい生活が楽しみなのだろうか。

だとしたらよかったと思う。

母さんと暮らしたあのアパートを出るのは正直きついけど、父さんが前を向こうと頑張っているのなら俺も頑張ろうと思う。



「__こんな感じなんだけどどうかな?」


「_うん、いいと思うよ」




俺がそう言えば愛実さんも父さんもほっとしたように息を吐いた。

ていうか美愛ちゃんには聞かないのか?

あ、俺に会う前にもう話してたとか?そういうことか。



勝手に自己完結した俺は、改めてこれから義妹となる美愛ちゃんに視線を向けた。



ぱっつんの前髪に、肩ほどに伸びた黒髪。それでいて毛先が巻き毛の可愛い女の子だ。

いや、可愛い。ほんとに。


目はくりんとした釣り目気味の大きな瞳で、もう可愛すぎる。

これはもう嫌われないように頑張らないとだな、間違っても元不良だなんてバレないようにしないと。



父さんの傍ら、俺はそんなこと思いながら一人静かに決意したのだった。



















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