空を歩く彼女の蜃気楼

容原静

一景

昼間

田舎の道路

舞台上に死んだ猫

死んだ猫はずっと舞台上にいる

暗転してもサスがほのかについている

舞台奥に自販機

男子生徒Aと女生徒が板付き


男子生徒A ねこ。

女生徒A そうみたいね。

男子生徒A まったくもって運の悪い。

女生徒A そうね。

男子生徒A そうねって軽いね。

女生徒A それ以外に何かある? 生き物は死ぬのよ。

男子生徒A そりゃあそうだけど。

女生徒A それにしてもねこはくさいわね。あんなに自由なのに。

男子生徒A 自由なのとくさいのは関係ないんじゃない? 死んだら生き物は腐るんだから。

女生徒A そんなこときいてないわ。このおたんこなす。


男子生徒A、自販機に行きレモンティーを二つ購入する


女生徒A 買収なんてされないわ。

男子生徒A ほんの気持ちだよ。

女生徒A あなた、将来援交おじさんになる。そうに違いないわ。

男子生徒A 何処から見ても善良な僕がそんなことするわけないだろ。


首を傾げる女生徒A

レモンティーを頂く


女生徒A わたしもしんだらあんなににおうのかしら?

男子生徒A どうかな?

女生徒A ねこって。

男子生徒A うん?

女生徒A あんなに中身が少ないのね。あんなにおおきいのに。

男子生徒A そうだね。ぼくもびっくりしたよ。


飲みきったペットボトルを捨てる男子生徒A


男子生徒A なあ。

女生徒A なに?

男子生徒A もういこうぜ。こんなところにずっといても気がめいるだけだぜ。

女生徒A そうね。



二人、退場

電車の音

時たま電子音

夕方

車掌が上手から下手へ鈴を鳴らしながら通り過ぎる。

様々な影がやってきて、電車内の人間を模造するカカシを置いていく。

マナーの悪いカカシに注意する車掌

男子生徒Aと女生徒Aがやってくる


女生徒A 電車って律儀ね。いつもきまった時間にくるわ。

男子生徒A いやいつもってわけじゃないんだぜ。たまに遅れたり。

女生徒A ほんとおたんこなすね。たまにでしょ。いつもじゃない。わたしならくるうわ。とまるわ。ストよ。ストをするわ。

男子生徒A まあでもそのおかげでおれたちも毎日生きてゆけるんだぜ。

女生徒A そうね。電車が狂いそうになる傍目でね。


辺りを見渡す女生徒A


女生徒A ひとがいっぱいね。

男子生徒A そりゃあみんなどっかにいくからね。

女生徒A ここは不気味ね。ひとはいっぱいいるのにだれもいないみたい。

男子生徒A どういうこと?

女生徒A とじこもり、ひきこもりよ。みんなひきこもってピコピコなにかに逃避だわ。

男子生徒A まあそうでもしないとやっていけないよ。知らない人との移動なんて。

女生徒A そう? わたしはきになるわ。しらないひと。


かかしに向かう女生徒A


男子生徒A しらないぜまったく。

女生徒A 貴方は何をしていますか。教えてください。


車掌が笛を鳴らす

電車警察がやってくる


車掌 ルールその1。

電車警察 知らない人に話しかけないこと。

車掌 ルール破りの学生よ。キミは電車から降りてもらう。

女生徒A なによ。なんなのよ。

男子生徒A いわんこっちゃあない。ちょっと待ってください。


男子生徒A、仲介に入る。

車掌笛を鳴らす。


車掌 ルールその2。

電車警察 取り締まりを妨害しないこと。

女生徒A 横暴よ。

男子生徒A 僕たちは乗客だ。車掌さんの言う通りにしないと。

女生徒A じゃあ貴方は車掌が死ねといったら、死ぬのね。

男子生徒A 極端だよそれは。


女生徒Aを電車警察がさらっていく


女生徒A ちょっと何すんのよ。やめなさい。

男子生徒A 少し待っていただけませんか。悪い子じゃないんです。話せばわかります。

車掌 悪い乗客は滅。さようなら。have a good dayっ!!

男子生徒A 謝ろう。謝れば許してもらえる。

女生徒A 謝る理屈なんてないわ。反吐が出る。


電車警察へ唾を吐く生徒A

電車警察びっくりして倒れる


男子生徒A 大丈夫ですか。ねぇっ。どうしたんだ。これは。

女生徒A 私、何もしていないわ。

男子生徒A 救急車呼ばないと。誰か。誰か。

女生徒A 自分で呼びなさいよ。他人なんて助けてくれないわ。

男子生徒A ただ見ているだけですか。車掌さん、どうしたらいいんでしょう。

車掌 滞りはない。


BGM「聖者の行進」

気の抜けた緊急車のサイレン

蛙の救急医が杖をついてやってくる

緊急医はゲロゲロ鳴いている


女生徒A 誰よ。こいつ。

車掌 電車医者です。

女生徒A なんでもいるのね。

男子生徒A この人です。この人が。早くっ早くっ。


蛙の緊急医、電車警察の脈をみる

お先真っ暗と首を横に振る


男子生徒A そんな。さっきまで生きていたじゃないか。どうにかならないんですか。

蛙 ゲロゲロケロッティ。

男子生徒A なぜ、なんでっ。


男子生徒A、蛙の緊急医に詰め寄る

車掌笛を鳴らす

歓喜の歌が流れる


車掌 ルールその3

かかし 死者は舞台からはける

車掌 have a good day.


ライティングのエッジが鋭くなる

おたまじゃくしの隊員が車掌を退場させる


男子生徒A 一体僕は何を見ているんだ。

女生徒A どうでもいいくだらないことよ。

男子生徒A くだらなくないよ。とっても大切なことだ。そうだろっ。違うのか。

女生徒A 会話ってうんざり。

男子生徒A え?

女生徒A え? じゃないわよ。このおたんこなす。この会話を聞いておもわない? くだらないルールを守るために無駄な話を延々としているのよ。うんざり。こんな会話消滅すればいい。

男子生徒A 消滅したら、どうやって生きていくんだ。話さなくちゃ始まらないじゃないか。

女生徒A 独白よ。生きていけるわ。

車内音声 毎度死にたければ死ね鉄道をご利用していただきありがとうございます。次は古池町。古池町に止まります。お出口は左側です。どうか車内で最後まで死なないように気をつけてください。古池町。古池町。

男子生徒A 帰ろう。

女生徒A そうね。


二人はけていく


暗転

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