第参拾玖話 神の瞳

俺たちは離れて行動していた。いつもと同じように。でも離れすぎない距離で。


“臨界解放・百鬼夜行絵巻”


それは突然で、今まで見たことが無いくらい大勢の妖怪達に取り囲まれていた。

俺と凌はその妖怪達と戦いなんとか打ち倒す事ができた。が、珠ちゃんがいない事に気づいた。俺は最悪の状況を察知した。匂いから付近にいる事は分かった。それと同時に濃い血の匂いもした。


匂いの方角に急いで向かったが、そこには木の幹に体を預け、座り、体には大きな穴が開き、目から血を流している珠ちゃんの姿だった。急いで駆け寄るがそこの彼女はもうすでに息をしていなかった。




戌乖先輩から話を聞き終わり少しの沈黙の後、閻魔さんが口を開く。


「いきなり妖怪が押し寄せたんだよね?」


「ああ…さっきまでなんの気配もしなかった場所からいきなり現れた」


「珠ちゃんの目、俺の鼻があるから見逃しは無え」


(いきなり、大勢の妖怪に囲まれる…?それって!?)


顔をあげると閻魔さん、九尾と目が合う。


「そうじゃな十中八九、ぬらりひょんの“臨界解放”じゃろうな」


「うん、私も同意見だ。ぬらりひょんの臨界解放は一度見たからね」


ドンッ


机を叩き、怒りを露わにする戌乖。一見冷静そうな猿飛に正される。


「すまねぇ」


「いえ…」


「ぬらりひょんはどうして鳥居先輩の“目”を狙ったんでしょう…?」


牛呂さんが疑問を口にする。言われてみれば確かに…分からない。


「十二支の鳥の能力“極眼”は千里までも細かく見る事のできる能力。それ以外に目立った力ではないし、ぬらりひょんに今必要な能力では無いと思うけど…」


閻魔さんが説明してくれるが、その説明を聞き疑問に思い、鳥居先輩が自分の能力を話してくれた時の会話を思い出す。


『能力は“極眼”、感情、匂い、遠くのもの。色々見えるよ』


「鳥居先輩は感情や匂い、遠くのもの色々見えるって言ってた…」


「!?それは“極眼”じゃない!“神眼(しんがん)”だ!」


「“神眼”…?」


「“神眼”って言うのは文字通り神の瞳で、あらゆる情報を目で見る事ができる。能力、妖力量、感情、音、匂い、透視。見えていればできない事はほぼない。そんな力だ。でもおかしいな…」


「おかしい…?」


「ああ普通、“神眼”って言うのは大量の妖力と大勢の生贄、1人(・・)の視力が居るんだ。そんな大事件が起きているなら私が知らないはずがないんだ…」


「ウルさんが前に話してくれた民宿の人が生贄…?」


「いや、それだけじゃ足りない。それにもう一つの難題、大量の妖力の出所も分からない」


「あるぞ、生贄と大量の妖力の所在…」


九尾が思い出したかのように話す。


「妾が暴走した時の犠牲者。これで生贄の問題はクリアじゃろう…」


「そこは盲点だった…」


「疑問じゃった。何故ぬらりひょんは妾が切り離した尾を持ってきていたのか…それは閻魔、其方に悟られぬよう小細工だったのじゃろう。そして妾にはまだ戻っておらぬ“尾”がある」


妾の“尾”は本数が多いほど妖力も比例して多くなる。“尾”の七(しち)から九(きゅう)で多くなる妖力量は一(いち)から六(ろく)までと比べ物にならない。


「1人の視力、これは雨の視力を奪う。これで“神眼”開眼に関する条件は合うのではないか?」


《“神眼”の開眼条件は今話すべき内容ではない。今話すべき内容は神眼を得て何をするのかとぬらりひょんの目的、そしてそのぬらりひょんをどう倒すかだ》


猿飛先輩のスマホから声が聞こえ、驚きながらも急いでポケットから取り出す。その声の主は未継さんであった。


「俺は繋げていないぞ…?」


《僕を誰だと思っているの?それよりも、だ》


「そうだね。まずぬらりひょんの目的だけど、これは“地獄の門”を開く事」


「“地獄の門”って凪の妖怪を祓うための“門”の事だろ?なんでそれを開けたいんだ?」


祓われたいのか?続けてそう口にする颯。

俺も疑問だ。なんでわざわざ地獄の門を開けようとするのか。


「名前は一緒だけど、厳密には“違う門”なんだけどね。一つは凪の使う妖怪を祓う為の“門”。もう一つは地獄とこの世界を繋ぐ“門”。後者を使ってぬらりひょんは地獄の妖怪を現世に連れてくる事なんじゃないかな?」


そしてこの扉を開ける事ができるのは凪だけだ。閻魔さんは最後にそう口にする。


「じゃあ、ぬらりひょんの狙いは」


「凪くん…?」


「じゃあなんで八城さんを狙ったんだ?俺だけなら分かる」


そう。奴は、ぬらりひょんは八城さんの事を“門”を開くための鍵だって言ってたんだ。なら狙いは俺と八城さん…


「過去にね、一度だけ地獄と現世が繋がってしまった事があるんだ」


「え?」


「その時の“門”使用者は絶望に苛まれていた。その影響で“門”の制御ができなかったんだろうね。憶測だけど、八城さんが死ぬ事で凪が絶望し、過去と同じく“門”を開こうとしているのかも…」


「そんな…」


そんな事のために八城さんを…

拳に力が入る。


「目的が分かれば何故“神眼”を手に入れたのか分かるね。ここからは総力戦になるよ」


《僕はいつもと同じ事しかできない。みんなに頼り切りで申し訳ない…》


「珠ちゃんの仇だ」


「ああ。必ずとる」


「凪坊、私はいつも通りやしろんを守る」


「お願いします…」


今までの比ではない大きな戦いが幕を開けようとしていた。

皆、各々がやる気に満ちているが閻魔1人顎に手を当てて何かを考える素振りを見せる。


(ぬらりひょんは“神眼”を千年も昔から生み出そうとしていた。開眼して直ぐに奪い取るのではなく何故今になって奪いに行ったのか…私と言う想定外(イレギュラー)が来たと言う単純な理由ではないはず…)


この戦闘での一つの不確定要素。不安は残るが今は皆の力を信じる他ない…

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