第拾伍話 血痕の行方


その見た目からは出ると思っていなかった言葉がでて脳がフリーズする。


(たまちゃん…?あ、鳥居先輩か)


「鳥居先輩には勉強を教えてもらってて…」


「なんだ〜ベンキョウ教えてもらってんのか。珠ちゃん教えんのうめぇだろ?」


鳥居先輩の話になった時の表情の変わりようが凄く再び脳がフリーズする。


(ひょ、表情豊かな人だな…)


「ごめんな、威圧的な態度で話しかけちまって…」


「いえ…」


何か理由があるのは分かる。


「珠ちゃんの過去、聞いたか?」


「…はい」


少し考えた後、答える。


(多分、“忘却体質”の事だろうな…)


「信用されてる証拠だな。珠ちゃんが自分から人と関わろうとするの初めてで、そいつの事好きなのかなって思っちまった」


ん?その言い方だと…そう思い戌乖先輩の目を見る。戌乖先輩は慌てて答える。


「俺は珠ちゃんのこと大事だけど好きじゃねぇぞ!?俺はただ珠ちゃんが好きな奴がロクデモナイヤツなら締めてやろうと思っただけで…」


「なんか娘の結婚相手を選別するお父さんみたいですね」


「誰が既婚者だッ!」


そう言い俺の頭に軽くチョップを挟み、先輩はニカッと笑う。


「戌乖先輩は怖い顔しないでニコニコしたら良いかもですね」


「怖い顔してるか…?」


「教室に先輩が入ってきた時、正直何かやらかしたかなと思いました」


「マジか…」


戌乖先輩が自分の頬を撫で回す。その光景が面白く笑ってしまい、先輩にまた天誅を食らう。


「まあ、何かあったら俺のとこに来いよ。俺は“鼻が利く”し、こう見えて剣道部の主将だからな。腕には自信があるぜ」


「ありがとうございます。先輩に頼るかどうかは分かりませんが覚えておきますね」


「言うね〜こいつ」


右腕で頭を固定され左手で頭部をグリグリされる。

短時間の邂逅だったが先輩の気前の良さなど良い所が見え、印象が大きく変わった。


教室に帰ると心配と興味の眼差しが向けられ困惑したが、その後特に何も無く放課後を迎えた。


「真季波凪くん、1年のクラスに今日光ちゃん行かなかった?」


「あ〜戌乖先輩ですね。来ましたよ?」


「どうだった?」


「初対面した時と話した時とで印象が全然違ってびっくりしたくらいですかね。優しい先輩ですね」


「うん。私の事、分かってくれてそれでも離れず一緒にいてくれる大事な人だよ」


鳥居先輩は何とも言えない表情を一瞬浮かべた後、切り替えるように…


「さ、今日は何処を教えてほしいのかな?」


鳥居先輩はまだ言えない何かを隠している、そう感じ取れたが無理に探らず、先輩が話したくなるまで待つことにした。



夜、久しぶりに外に出てみたくなり散歩に出かける。家に居ても勉強か、家事くらいしかする事がない。

颯や牛呂さん、八城さんは組での係の仕事で忙しそうだったので邪魔をしたくないしね


5月だと言うのに少し肌寒く感じる。


ボタボタッ…


俺の数メートル先で何かが上から落ちてきた。俺の歩いている付近は住宅地なので上には電線くらいしか無いのだが…

近寄って何が落ちてきたのか見てみると、赤黒い液体が垂れていた。


(血…!?)


急いで家の屋根に飛び乗る。


(土足で登ってすみません…!)


心の中でそう呟き、あたりを見回す。屋根にも血痕が残っておりそれを辿る。

血痕は町境の森まで続いていた。辺りが暗く血痕を見逃してしまった。


(あれ?)


森の中に古く、いつ崩れてもおかしくないほどの小さな社を発見する。よく見るとその中に血痕が続いているようだ。慎重に歩みを進める。


「だ、れ…?」


(女の人の声…?)


「おい人間、ここに何しに来た?」


後ろを振り向きながら社側に飛び退く。


(気配を感じなかった…)


月明かりに照らされその姿を目にする。

月に照らされ銀に光る髪、暗闇でもその色を判別できるほど色白い肌に綺麗な赤眼…


「吸血鬼…?」


「ほう…私を知っているのか?」


色々な時代に名を残しては居るが実際に見たって人が居らず凪自身も実際目にするまで御伽噺程度の感覚だった。


額に汗が滲む。


(後ろを取られた時、話しかけられなかったらやられていた。今殺さなかったって事は対面しても勝てる確率は0に近いってことか…)


慎重に言葉を選びながら話す。


「えっと…」


焦り過ぎて言葉が喉から出てこない。今までの妖怪にはここまでの圧はなかった。


“各上”


その言葉が似合うほどの圧倒的実力差が凪とこの吸血鬼の間には合った。


「ウル、その、人は、誰?」


社から出てきたのは幼い一人の少女。見た目から推測するに年齢は10〜12辺りだろうか?


「知らん。魚食ったか?」


「食べ、たよ?」


「そうか…んでお前は血を辿ってここまで来たんだな」


「はい」


「この血は魚の血だ。私は人間を襲ったりしない。もっとも、雨に危害を加えようものなら話は別だがな」


「雨?」


顎で指す方には幼い少女。雨という名前らしい。

服はぼろぼろで汚れていて、手足の先は赤くなっていて痛々しい。


「良かったらなんだけど俺の家に来ない?」


気づけばそう口にしていた。


「なんだ急に…は!?雨はやらんぞ!!」


「違う。この社に住んでたみたいだけどこのままここでって訳にも行かないじゃん」


吸血鬼は少女を一瞥し、少女の状態を改めて見る。

5月といっても夜はまだ寒い。このままだと大事になりかねない。


「お邪魔しよう…」


状況を察し、吸血鬼は頷く。

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