第11話 ツイオクノカノジョ

「おかえり望実! 思ったより早かったね」


 俺が帰宅し扉を開けると、隣子が出迎え抱きついてくる。


「すごい汗かいてるじゃない。大丈夫?」


「……実はさっき刑事に会った。平尾課長のこと調べてるって」


 俺は結局不安に勝てず、隣子に刑事と会ったこと、話したことを告げる。


「……そう」


 隣子は特に表情を変える事なく返事する。


「ほ、本当に大丈夫なんだよな!? 俺達捕まらないんだよな!?」


 俺は隣子の肩を掴み体を揺する。


「い、痛いよ望実! 落ち着いて!」


「ご、ごめん……っ!」


 俺は隣子に言われ我に変えり、手を離す。


「望実が焦るのもわかるよ。でも本当に大丈夫。だって今まで一度もバレた事ないもん」


 そう言って隣子は笑顔を見せる。

 今までバレた事ない? それはつまり平尾課長以外にも殺したことがあるということなのだろうか。


「バレた事ないって、ま、まさか他にも殺した事ある……のか!?」


「あるよ? えっーと、確か……3人、いや4人だったかな?」


 隣子は当然だと言わんばかりにあっさりと答える。そしてそれまで何人殺したかを覚えてすらいない。


 異常だ。


 やはりこの能見隣子という女は普通ではない。そもそもバレなければ殺してもいい訳でもない。捕まらなければいいと思いかけていた自分が恐ろしくなる。


「……今私のことイカれてるって思ってるでしょ。でも聞いて望実。私が殺してるのは望実の為なんだよ?」


「俺の……為?」


「そうよ。私が初めて人を殺したのは15歳の時。相手は高濱一二三たかはまひふみ。おぼえてるわよね?」


「……あ、ああ。で、でもアレは……」


 高濱一二三。俺の小、中の同級生で初恋の人だ。そして俺がかつて振られた人、だ。そして中学の卒業式の夜、運悪く通り魔に襲われ殺された。そして何日か経って犯人の男は逮捕されたはずだ。


「中学の卒業式の後、望実は高濱一二三に告白したよね。私はずっと望実を見てたから望実が高濱のこと好きなのはよーく知ってたわ。だから望実が高濱と付き合うのなら仕方ないと思ってた。……でも高濱は望実を振った。許せる訳ないよね?」


「……まて! じゃああの時捕まっていた犯人の男は何なんだ!? ニュースで顔も流れていたはずだ!」


 もし本当に隣子が高濱さんを殺したのなら、殺した理由は高濱さんが俺を振ったから。それは高濱さんが殺されたのは俺のせいでもあるという事にもなる。


「まぁあの頃は私も初めてだったし、後の事とか考えてなくて……。私のお父さんって警察の偉い人だったの。そんな人の娘が殺人を犯したなんて広まったら大変でしょ? だからお父さんの力で別の男を犯人に仕立て上げたってわけ」


「そ、そんな……」


 まさか俺のせいで高濱さんは殺され、そして犯人として捕まった男は別人。本当の犯人は目の前にいる女で、それが俺の彼女だなんて。とても信じられる話じゃない。


「信じられないって顔だね。あの時は衝動的なのだったから写真とか動画はないから証拠がないの。でも記憶の中には鮮明に残ってるよ。あの女の苦しむ顔! 泣き叫ぶ声! そして刃物を突き入れるあの感触!! ……と、まぁこんな感じかな。玄関の立ち話でする事じゃなかったね。一旦部屋で座ろっか」


 隣子はそう言って部屋に戻る。俺も隣子に続いて行く。


「何だか嬉しいな〜、望実が私のことを聞いてくれるなんて」


 隣子は楽しそうにそう言うと、ベッドの上に腰をかけ、足を組む。


「じゃあ次は2人目、高校生編だね♪」

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