第2話 ヤサシイカノジョ

隣子と付き合うことになってから一週間。


俺は楽しい日々を過ごしていた。お互いの好きな漫画の話や、音楽の話、ウチで一緒にテレビゲームをしたりして恋人生活を満喫していた。もちろんお互い24歳なのだから大人な関係も結んでいた。

おかげで今は心も体も満たされた気分だった。

ただ少し気になることがあった。隣子はやたらと連絡が多いし、返事を催促するようなメッセージも多い。


この前も仕事の休憩時間にちょっと寝ていたら30通ものメッセージが来ていた。それもほとんどが「休憩中だよね?」とか「どうして無視するの?」みたいなのばかりでそれは流石に疲れてしまった。


でも会った時の笑顔に癒されてしまうのだった。そして隣子はなかなかの料理上手だ。付き合うとなってから毎日仕事から帰ると隣子がウチに来てくれて手料理を振る舞ってくれるだが、それがどれも美味しくて幸せだななんて思ってしまう。


そんなある日、明日はデートの予定だったのだが、入社してから何かと俺に嫌味を言ってくる平尾課長に仕事を押し付けられて休日出勤になってしまったのだった。


「〜ってなわけで明日は仕事になっちゃって……ごめんな隣子」


「そうですか……。色々プラン立ててたので残念です」


隣子は台所で野菜を切りながら、わかりやすく残念そうな表情で俯く。


「ウチの課長で平尾ってやつがいるんだけどさ、そいつ自分がミスったのが悪いのに俺にその仕事押し付けやがったんだよ。そんで自分は明日休むって言うんだあのオッサン。うちって小さな会社だからさ、社長に気に入られてると結構やりたい放題なんだよな……」


「へぇ……その平尾って人のせいなんだね。望実と私の愛を邪魔するなんて……許せない」


隣子はそう言って怒りをあらわにする。調理中のため持っているだけなのだが、包丁を握る姿に少しゾクっとする。


「ま、まぁ明日は残念だけど、日曜に行けばいいじゃないか」


「……でも望実はその人嫌いなんだよね?」


「嫌いかって言われたらまぁ嫌いだけど……。そんな気にしなくていいよ隣子は。そんなことより日曜のこと考えよ?」


「そ、そうだね……。じゃあ私行きたい所あったんだけどね……」


………

……


「ごちそうさまでした。今日もめっちゃおいしかったよ」


「本当に!?よかった今日も喜んでもらえて♡」


今日はビーフシチューだったのだが、これまたかなりの美味で最高だった。


「本当はそのまま泊まりたかったんだけど、望実明日仕事みたいだし今日は私帰るね」


「ああ。今日もありがとな隣子」


「どういたしまして。……また明日、ね」


「? また明日な」


そう挨拶を交わすと隣子は帰っていった。

しかし今日の隣子には少し違和感を感じた。普段なら帰りももっと帰りたくないーってごねるのに随分とあっさり帰った。それにどこか元気がないようにも感じた。もしかして明日のデート相当楽しみにしてたんだろうか?日曜はとことん隣子に付き合ってやるとするか。


「さ、早く寝て明日に備えるか。クソ課長のせいでデート返上の休日出勤だ……」


俺はベッドに入り、隣子に今日はもう寝るとメッセージを送り、眠りにつくのだった。




♢ ♢ ♢


真っ暗な部屋の中で机の上の小さなのライトの光だけが照らしている数枚の紙と写真。写真はとあるマンションの全体を写したものと、301号室の写真、そして1人の中年男性の全身がみえる写真。


「平尾全三。◯◯社に勤める41歳。独身。度々のパワハラやセクハラで社員からは嫌われているが、上の者への取り繕いが上手く、社長からの信頼は意外と厚い、と」


私は口に出しながら紙にそれを書いていく。


「休日は主に市外にある14時開店の風俗店キュアドールに開店と同時に来店する、と。本当くだらないおっさんねコイツ」


でもよかった。望実と付き合う前に望実の会社の社員全員の顔写真と家の写真と簡単な人物資料を用意してて。小さい会社だから全社員合わせても15人分だし。


「フフ、待っててね望実。邪魔者は私が消してあげるから♡」





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