第8話 クセの強いパーティー

「ゆ、勇者様、は……初めまして。魔法使いのロイですぅ……。よ、よろしく……お願い、します……っ」


顔を真っ赤にしながら、たどたどしく自己紹介をした魔法使いの少女は、大変可愛らしく、思わず笑みが溢れます。


「様などいりませんよ。柿崎、もしくは悠一、で結構です」


私が柔らかく微笑むと、ロイは一層恥ずかしそうにうつ向きました。

ロイの紹介が終わると、ラルクは、隣に座る甲冑の騎士のような青年に、視線を向けます。

すると、甲冑の青年は、少し面倒臭そうに、口を開きました。


「剣士、ジル」


短くそう言った声は、見た目の重々しさからは意外にも少し高めのハスキーな声でした。


「宜しくお願いします」


挨拶を返すと、ジルは、ふいと横を向いてしまいました。

そして、残るは……。


「♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎♪︎~」


突然、銀髪の美貌の人物が、手にしている弦楽器をかき鳴らしました。


「……」

「ふふ。僕の弦楽器リュートの調べに聞き惚れて、言葉を失っているようだね?」


聞き惚れたというよりも、なぜ突然鳴らすのかという驚きの方です。


「僕は、『美』を担当している、吟遊詩人。オーディンと気安く呼んでくれて構わないさ」


そう言い終えると、また「ポロン♪︎」と楽器をかき鳴らしました。

大変面倒な人物に見受けられます。


「じゃあ、これでミーティングは終わったね?を待たせてあるので、僕はいったん失礼するよ」


そう言うと、吟遊詩人は、ロイ達の座る席から立ち上がり、別のテーブルへと移動していきました。


「やぁ、僕の可愛い女神達。待たせたね」

「もうっ、遅いわ、オーディン」

「すまない、何かと雑用しごとが多くてね」

「あんまり待たせるから、喉が乾いちゃったぁ」

「それは、いけないね。君の唇の色と同じ、葡萄酒ワインで潤さないと」

「やっだぁ、うふふふ」

「ずる~い!私も欲しい~っ」

「ははは。焦らないで、マイ・スウィート。君には、その頬の色と同じ、ロゼを頼んであげるよ」

「何ソレ、嬉しい~」


複数人の女性を侍らせながら、吟遊詩人は饒舌なトークを繰り広げています。


「……あの人は、大丈夫なのですか?」


ラルクに視線を向けると、困ったように溜め息を小さく吐きました。


「アイツ、女神から直にスカウトされたって言ってたぜ?根は悪いヤツじゃなさそうだけど。ただ、集団行動が苦手とか言ってたな」


いやいや、これから先120%集団行動が始まりますよ?


「あ、あのぅ……」


クセの強い仲間に引いていると、躊躇いがちにロイが言葉をかけてきました。


「どうしました、ロイ?」


私が問い返すと、ロイは細い指で、私が抱えている魔法書を指差しました。


「も、もし良かったら……そ、その魔法書を見させてもらえませんか?わ……私も魔法使いの端くれ……め、女神様直伝の魔法書……すごく、き、気になるので……っ」


顔を真っ赤にしながら、振り絞るようにロイが、お願いしてきました。

魔法使いという職業柄、魔法に関する書籍が気になるのは当然のことです。


「もちろんですよ、ロイ。どうぞ」


私も皆さんと同じくテーブルに着くと、ずっと小脇に抱えていた魔法書をロイの目の前で広げました。


「……!」


それを見たロイが驚いたように目を見開きました。


「な……何も、見えない……」

「……え?」


ロイの言葉に、改めて本を見ましたが、びっしりと呪文スペルや解説が載っています。


「こんなに書いてあるのに、なぜですか?ラルク、貴方にも見えますよね?」


問われたラルクが、まじまじと魔法書を見つめましたが、すぐに首を横に振りました。


「俺にも全く見えねーよ。たぶん、これは限定魔法リミテッドがかかってるな」

限定魔法リミテッド?」

「あぁ。術者が選んだ特定の者にだけ効く魔法だよ。この場合、魔法書がカキザキにしか読めねーようにしてあるってことだ」


そんな魔法が……。


「そ……そうです、よね。女神様直伝の魔法書が……わ、私みたいな端くれに……み、見れるわけない、ですよ……ね」


そう呟くロイの瞳の端に、涙がうっすら滲んでいます。そのいじらしさに、私はスーツからレースのハンカチを取り出しました。

以前、お嬢様が「私、こういうの趣味じゃない」と、無理矢理私に押し付けたハンカチです。


「貴女を傷つけるつもりはありませんでした。申し訳ありません。どうぞ、涙を拭いてください」


レースのハンカチをロイの目元にそっと当てました。


「あ……ありがとうございますっ。ゆ、勇者様は、と……とっても、優しいですね……」


赤らんだ瞳ではありましたが、口元に少しだけ微笑が戻っています。

そんな愛らしさに、束の間の安らぎを覚えました。

そして、一通り自己紹介も終わりましたし、お嬢様のことを尋ねることにしました。


「ラルク、一つ聞いてもいいですか?」

「どうした、カキザキ」

「今回のこの転生……私1人だけでしょうか?」

「え?そりゃあ、そうだぜ。異世界からの勇者召喚は毎回1人だけって決まってるからな」


なるほど、勇者として召喚されるのは、1人きり……。


「なぜ、このようなことを聞くかというと、元の世界から転生する瞬間に、もう1人別の人間がいたからです」

「別の人間?」

「はい。私が執事として仕えていたお嬢様です」

「……う~ん」


ラルクは腕を組み、少し考えているようです。


「あくまで、今回の勇者転生は、カキザキ1人であることに間違いねぇ。そのお嬢様ってのは、元の世界に、そのままいるんじゃね?」


そうであるなら、お嬢様が無事でいてくださるのならば安心なのですが……。


「ただ、そうは言っても確かめようがねーよな。異世界人を召喚する時、女神が特殊な魔術によって時空に歪みを作り出すって聞いたことがある。そんなことがあるか分からねーけど、その時空の歪みに巻き込まれたとか……。そうすると、同じくこの世界に意図せず転生している可能性もあるかもな」

「……」


やはり、お嬢様も、この世界にいる可能性があるのですね……。





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