第5話 闇魔法

 翌日から早速訓練と座学が始まった。


 まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、戦士長ワルドが直々に説明を始めた。


 戦士長が訓練に付きっきりでいいのかとも思った真だったが、対外的にも対内的にも〝勇者一行〟を半端な者に預けるわけにはいかないということらしい。


「よし、全員配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。能力が低いからといって卑下はするな。能力は鍛えれば鍛えるほど上昇する」


 その時、笑い声が聞こえてきた。富崎達だ。どうやら、異世界の女の話で盛り上がっているらしい。


「異世界の女をナンパしようぜ」

「いいね。やろやろ!」

「おい、そこ。話を聞け」


 ワルドが富崎達に注意する。


「ちっ、うるせぇーな」


 富崎が不機嫌そうに小声で呟く。


「話が逸れたな。プレートの一面に魔方陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で傷を作って魔方陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所有者が登録される。〝ステータス〟オープンと言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ」


 生徒達は、言われた通り、針を刺し、ステータスプレート刻まれた魔方陣に血を垂らす。すると、魔方陣が一瞬淡く光輝いた。真も同じように血を垂らし表を見る。


 すると……


 =======================================

 渡部真  17歳  男  レベル:1

 天職:闇剣士

 筋力:200

 体力:200

 耐性:200

 敏捷:200

 魔力:200

 魔耐:200

 技能:闇魔法・全属性ダメージ軽減・物理耐ダメージ軽減・毒耐性・石化耐性・麻痺耐性・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・言語理解

 =======================================


 表示された。


 まるでゲームのキャラでもなったようだと感じながら、真は自分のステータスを眺める。他の生徒達もマジマジと自分のステータスに注目している。


 ワルドからステータスの説明がなされた。


「全員見れたか? 説明するぞ? まず最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれが人間の持つ限界だ。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだ。それが可能な者が一人だけいる。勇者だ」


 周りの生徒達が勇に注目する。


「あともう一つ。技能や魔法は修練すれば覚える項目も増えていく。だから技能や魔法の数が少なくても悲観することはないぞ。努力は必ず報われるからな」


 ワルドは少し離れた所にいる勇に向き直った。


「勇者古野勇。お前のステータスプレートを見せてくれ。兵士諸君は他の生徒のステータスプレートの確認を」

「ワルド戦士長、俺のステータスプレートです」


 勇は、ワルドの前まで進み出て、ステータスプレートを手渡した。そのステータスは……


 =======================================

 古野勇  17歳 男 レベル:1

 天職:勇者

 筋力:100

 体力:100

 耐性:100

 敏捷:100

 魔力:100

 魔耐:100

 技能:光魔法・全属性ダメージ軽減・物理ダメージ軽減・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・言語理解

 =======================================



「ほお~。さすが勇者ということだな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は三つか四つなんだがな。鍛えがいのある奴だ」

「いえ、それほどでも」


 ワルドの称賛に照れたように頭をかく勇。ちなみにワルドのレベルは62。ステータス平均は1000前後。この世界でもトップレベルの強さだ。


 勇に劣るもののどの生徒も比較的ステータスは高かった。一人を除いては。


 末崎佑樹はわなわなと震えながら、自分のステータスプレートを眺めていた。


「バカな……なんで僕だけ。やっと綾子先生を振り向かせられるほどの力が手に入ると思ったのに。くそっ!」


 悔しがる末崎の前に、富崎達がニヤニヤと笑いながら近づいてくる。


「どうしたの?そんな声を張り上げて?」

「!?」


 富崎の声に末崎はバッと振り返る。そこには富崎達が、ニヤニヤと笑いながら立っていた。


「富崎君。別になんでもないよ」


 富崎が、実にウザイ感じで末崎と肩を組む。隣では川村、官田、古池がニヤニヤと笑っている。


「ちょっとステータス見せてみろよ」

「えっ? い、嫌だよ」

「え~。いいじゃん。俺達、友達だろ?」


 富崎は嫌がる末崎に執拗に聞く。本当に嫌な性格をしている。取り巻きの三人も囃し立てる。雫や伊織は不快げに眉をひそめている。


 末崎のステータスプレートを強引に奪い取る富崎。


 =======================================

 末崎佑樹  17歳 男 レベル:1

 天職:見習い剣士

 筋力:10

 体力:10

 耐性:10

 敏捷:10

 魔力:10

 魔耐:10

 技能:言語理解

 =======================================


 末崎のプレートの内容を見て、富崎は爆笑した。そして、川村達取り巻きに投げ渡し内容を見た他の連中も爆笑なり失笑なりをしていく。


「ぶっはははっ、なんだこれ! 犬猫より弱いんじゃねぇ!」

「ぎゃははは~、お前、生きてて恥ずかしくねぇの! 俺だったら自殺してるよ!」

「ヒァハハハ~、無理無理! お前、死んだわ! せめて、俺らの肉壁にでもなって役立って死んでくれよ!」


 周りの生徒は、不快な視線を富崎達に向けていた。その時、怒りの声を発する人がいた。綾子先生だ。


「こらー! 何を笑っているんですか! 仲間を笑うなんて先生許しませんよ! ええ、先生は絶対許しません! 早くプレートを末崎君に返しなさい!」


 ちっこい体で精一杯怒りを表現する綾子先生。


「ちっ、うるせぇの来たぜ」

「向こうへ行け。しっ、しっ!」

「そうだ。向こうへ行ってろ! このロリババア!」

「お前の出る幕じゃねぇんだよ!」


 富崎達が、綾子先生に次々と暴言を浴びせる。今にも泣き出しそうになる綾子先生。富崎が泣き出しそうになる綾子先生を見て、ニヤニヤと笑う。


「おいおい、だいの大人がだっせぇ」

「おいおい、富崎。そう言ってやるな。相手はガキじゃねぇか。はっはっは!」

「そうだったな、佑哉! 相手は鼻垂れのクソガキだったな! はっはっは!」


 富崎達は、涙を浮かべる綾子先生を見て、次々と笑い出す。


「お、おい、いい加減にしろ」

「あぁ、なに? 声が小さくてよく聞こえないんだけど。もう一回言ってくんない?」


 富崎が、震える末崎を睨む。末崎は勇気を振り絞って叫んだ。


「いい加減にしろっていってんだ! このくそやロー!」

「ああそうかい!」


 富崎は、足蹴りを末崎の腹にぶちこむ。


「がはっ!?」


 末崎は数メートル先の地面まで吹き飛ぶ。


「はっはっは! ちょっと強く蹴り過ぎたかな。生きてるか~、末崎~」


 富崎は、バカにした口調で転がって起きない末崎に言った。どうやら、気絶しているようだ。


「お前達、いい加減にしておけ」

「あぁ?」


 バシッ!


 富崎の頬に分厚い二の腕から繰り出されるワルドの強烈なパンチが炸裂する。富崎は鼻血を噴き出しながら、数メートル先の地面に吹き飛ぶ。そのまま気絶して動かない富崎。川村達が「伸二!」と駆け寄って介抱する。


「大丈夫ですか?」


 ワルドが、綾子先生の涙をハンカチで拭く。


「ふへっ?」


 綾子先生は、突然のことに驚いて、変な声を上げる


「失礼、大丈夫ですか?」

「はい!」


 男に耐性のない綾子先生は、気が動転していた。


「お互い教え子には苦労しますな」

「い、いえ」

「戦士長!」


 遠くから部下の呼ぶ声が聞こえてくる。


「今行く! では、私はこれで」


 背を向けて去っていくワルドに、綾子先生は声を張り上げる。


「あのこれ!」

「ああ、プレゼントしますよ」


 そう言って、ワルドは再び歩き出す。


 大事そうに両手でハンカチを握る綾子先生。


「どうした?」


 ワルドが、呼んだ兵士に尋ねた。兵士の隣には、真がいた。その周りには兵士が真を取り囲むように立っていた。


「これを見て下さい」


 兵士は、ワルドに真のステータスプレートを渡す。


「これは……」


 ワルドの顔が、真のステータスプレートを見て、顔が険しくなる。隣の兵士が叫ぶ。


「すぐに、連行しましょう!」

「待て」


 ワルドが兵士を素手で制止し、真の方に顔を向ける。遠目から心配そうに雫と伊織が見つめていた。他の生徒は、何事かとざわついている。


「真よ。いくつか質問させてくれ」

「はい」

「お前は魔族か?」

「?  質問の意味がわかりません」


 首を傾げる真に、ワルドは説明する。


「いいかよく聞け。闇属性を扱えるのは魔族だけだ」

「!?」

「なぜ、人間であるお前が闇魔法を扱える? しかも勇者より高いこの能力値。お前は何者だ?」

「何者と言われても俺はただの異世界人ですよ」

「そうか」


 ワルドが周りの兵士達に言った。


「事実がはっきりわかるまで、この件は俺が預かる。いいな」

「しかし。セバス教皇に知らせなくていいのですか?」

「責任は俺が持つ。この件はまだ誰にも言うな」

「わかりました」


 兵士達は、真の囲みをとく。


「すまなかったな、真」

「いいんですか?」

「何がだ?」

「後で教皇の耳に入れば、いくらあなたでもただではすみませんよ」

「心配するな。綾子先生の教え子には指一本触れさせん」

「はあ」


 ワルドは兵士を連れて真の元を離れていく。真の元に、雫と伊織が駆け寄ってくる。真の手を握る伊織。


「大丈夫、渡部君?」

「ああ。問題ない」


 真は、心配そうな表情をしている伊織にそう告げた。ふと、雫の方を見ると、目が合う。なぜか顔を逸らす雫。真は、首を傾げた。


 遠目から、その様子を除き込んでいる人物がいた。その目は憎悪と嫉妬心に支配されていた。


 ここで不良組のステータスを紹介する。


 =======================================

 富崎伸二 17歳 男 レベル:1

 天職:剣士

 筋力:60

 体力:60

 耐性:60

 敏捷:60

 魔力:60

 魔耐:60

 技能:火魔法・敏捷向上・言語理解

 =======================================


 =======================================

 官田祐也  17歳 男 レベル:1

 天職:槍使い

 筋力:50

 体力:50

 耐性:50

 敏捷:50

 魔力:50

 魔耐:50

 技能:風魔法・筋力向上・言語理解

 =======================================


 =======================================

 川村浩一 17歳 男 レベル:1

 天職:ナイフ使い

 筋力:50

 体力:50

 耐性:50

 敏捷:50

 魔力:50

 魔耐:50

 技能:土魔法・敏捷向上・言語理解

 =======================================


 =======================================

 古池涼介 17歳 男 レベル:1

 天職:ハンマー使い

 筋力:50

 体力:50

 耐性:50

 敏捷:50

 魔力:50

 魔耐:50

 技能:水魔法・筋力向上・言語理解

 =======================================


========================================


2021年11月1日。0時00分。更新。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る