第47話 ドークス帝国の最後

 イストリア城塞の勝利は、ホワイトホルン大陸に響き渡った。 

第六位の悪魔の指揮官を含めた、主力を全て倒した事により、人々に勇気を与えた。

城の修復には、“静かなる緑炎”から、仲間になった者たちの能力のおかげで、ほとんど労せず修復していった。


今回の悪魔の襲撃に備えてどうするべきか、日々話し合いがなされていた。

しかし、一席だけ埋まる事無く、毎日空席だった。


ディリオスはミーシャの部屋から出て来なくなった。彼の決断のせいで、友に怖い思いをさせた事からの一連の行為に、自分の判断に疑念が生まれていた。ミーシャは彼の考えや思いを共有していた。彼は深くて暗い場所で動けずにいた。


身体的にも、常人では死んでいる程の深い傷を負っていた。精神面ではミーシャの傍にいるおかげで居心地は良かった。彼女はその心を、一緒に共有していた。


ミーシャは彼の体をみて初めて知った。背中や胸、足や手など所々に傷を負っていた。いつもは黒い服装でいる為、傷を負っても赤い血が目立たないだけで、傷がない場所は、ミーシャに貰った四つ葉のクローバーを白い布に入れて、首から下げている場所だけは無傷だった。


彼女だけは彼の心底にある想いを知っていた。彼の悲運な人生で、初めて出来た年齢も近い友達だった。母コイータは権力のある者には、手出ししなかった為、ヨルグとは親しくなっても文句は言われなかった。そして彼はマーサに愛されている事をディリオスに話した時、彼は涙を流して喜んでいた。


ロバート王はディリオスの味方をし、母コイータから守っていた。


その彼が、その三人の命を奪った。それしか手が無かったが、ミーシャに出逢う前の彼の心にあったその記憶が、彼を深い海底のように何も見えない世界へと引きずり込まれていた。愛するミーシャがいるお陰で、彼は生きていた。



ダグラス王からミーシャにディリオスにも、会議への参加を促して欲しいと頼まれたが、彼は今それどころでは無いと、ミーシャは答えた。修繕工事も殆ど終わり、日々は過ぎていった。


誰もが思った。時間をかければ出来なくはないが、短時間で出来る事の重大さを知った。ディリオスはあらゆる事に重視し、誰も気づかない場所まで配備していた事を、誰にも出来ない事を改めて彼らは知った。


洞察力、決断力、判断力等から導き出す答えの速さで、あらゆる面に対して、的確な指示を出していたことを、彼に代わってそれぞれが動いたが、彼が一日もかからず終わらせる事を、三日がかりで終わらせていた。それは細部にまで的確な指示を出す事によって、可能にするのだと皆が知った。



 その悪魔に打ち勝った勝利の噂は、ドークス帝国にも届いていた。王であるブラッド・ドークスの野望は、尽きる事が無かった。誰にも邪魔されないこの世界で、自分はこの大陸の王であると言わんばかりに、制圧する意味もない大地に、ドークス帝国の赤い旗は各所に立てられていた。


エルドール王国のロバート王たちが悪魔に殺されたと聞き、エルドール王国にも、その血で染められた赤い旗は靡いていた。


ブラッド・ドークスの魔の手から逃亡しようとする人々は、日ごとに増えていった。

もう軍隊をもってしても、止められなくなると感じたブラッドは、地下に国民を監禁し、その監禁部屋から出された者は二度と帰っては来なかった。


ブラッド皇帝の能力で、生ける屍と化した大勢の大天使軍団を作り上げていた。

彼の能力は模倣する力であった。それには必要なものがあった。新鮮な生きた血肉である。彼の性格や受け継がれてきた邪悪な心が、ブラッドにその能力を与えた。


彼が右手で触れた者に、左手で新鮮な肉と血を触る事で、模倣させる事ができた。

肉体的に死なせない為に、縛られた国民の肉を裂き、血を流させた。そして鼓動を左手で感じて国民たちを、彼の命令しか聞かない、魂を抜かれた大天使としていた。


当然、このような国に見切りをつけて、国を去ろうとした配下も多数いた。元々重税を国民に課し、自分の事しか考えないブラッド皇帝に忠言した者たちも、密かに捕らえられ姿を消していった。


ブラッドは国民よりも配下であった者たちのほうが、遥かに強靭な大天使になる事が分かってからは、逃げようとする配下も捕えて、別の場所に監禁していた。口を持たない配下は増えていき、口を持つ者たちは減っていった。


 全てはあの黒衣の者たちへの復讐心が、悪魔と変わらないほどの人間を生んだ。

既にあの者たちの領土から多くの人間が去った事は聞いていた。しかし、王や文官たちが、あの領土から去った話は、一切耳に入って来なかった。


ブラッドは手始めにあの領土を占領して、血染めの赤旗を、あの地に制圧の証とし、いつも以上に大量に打ち立てようとしていた。


まずはあの館と神木の森を制圧後、イストリア城塞に逃げ込んだ、黒衣の者たちを皆殺しにしてやろうと考えていた。自分たちが生み出した、倒せないドークス帝国の精鋭部隊である大天使軍団で、イストリア城塞の後は北部へと大陸全てを制圧しようと考えていた。


寒さも感じず、潰れようとも、斬られようとも復元し、弱点は一切無いこの大天使軍団で、全ての国々を蹂躙して、全ての者たちをひれ伏させるまで、ドークス帝国の強さを見せてやると意気込んでいた。


広い地下でさえ、既に大天使が入りきれない状態になっていた。三メートルの巨大な兵では仕方ない事だった。大天使を増員させるのはすぐに出来る。本来なら全国民を大天使にしてから人間や悪魔や天使共々、潰してやろうと思っていたが、エルドール王国が無い今なら城内広場に出す事は問題ないと考えた。そして


城内広場に次々と出していった。すでに千名以上の大天使軍団が、地上の城内広場にいた。まだ地下には同程度の数がいた。ブラッドはこの千名でまずは神木の森の領土を占領する決断を下した。それを部下に命じる為、再びブラッドは地下へと下りて行った。


「アラム。お前の能力を一体にまとめろ。城内広場にいる千名の大天使軍団の指揮を取らせるのじゃ」


「わかりました。皇帝陛下」アラムは城内などに配備していた土偶や木偶を、次々に壊していき一体の人間を作り出した。見た目も完全に人間で、複雑な命令を与える事も可能にする為、対数を一体に絞り込んだ。


「進軍させてよろしいでしょうか? 陛下」

「生きている者は、全て皆殺しの命を出せ! 進軍開始せよ!」

「はっ!」


「全軍、エルドール王国の城内広場に向けて、進軍せよ!」


「アラム。おぬしは何体まで命令可能な人間を作り出せるのじゃ?」

「二体までなら可能でございます」


「では今、地下におる大天使を、地上に上げて進軍を命じよ」

「わかりました。皇帝陛下」


「ボルドール。一応地上の城に、結界を張っておけ」

「了解致しました。陛下」


 ボルドールは地上の城に結界を張った。彼の張った結界は生物が入った瞬間から、探知できる。数や、強さ等も、彼が定めているランク別で判断できるものだった。ドークス帝国の大天使は、ボルドールの能力では、生者とは判別できず、死者扱いとなっていた為、誰かが侵入してくれば即座に分かるようになっていた。


 ドークス帝国の大天使軍団は、高速で移動できないと言う問題があった。

ブラッドはまだ地下には大勢の人間を監禁していた。仮に能力者がいたとしても、この状況では自主的に協力はしない。


どうすれば、協力的になるかが問題だった。家族を殺していけば、探す事は簡単に出来るが、それでは主力である大天使が殺した数だけ変えれなくなる。あの“静かなる緑炎”の連中も誰かに消されたのか、逃げたのか連絡しても返事も無い。


兵は減る物だと認識していたブラッドは、自分と妻であるノヴァと臣下二人以外は、ただの消耗品だと思っていた。神や悪魔が存在した以上、大天使を作る事に成功した自分は、神に最も近い存在だと思っていた。


「第一部隊、エルドール王国城内に到着しました」

「ノヴァ、其方の能力で映し出してくれ」


「わかりました。アラム。よこしなさい」

「はっ。どうぞ」腰を低くして、小さな木の棒を渡した。


ノヴァ・ドークスの能力は、その者の持つ物があれば、視界を水晶玉に、映し出せる能力者であった。その為、アラムは常時、木偶や土偶にする時、その欠片を持つようにしていた。今回も土偶の中にある木の棒の欠片を所有していた。



「繋がりました。まずはどうします?」


ブラッド・ドークスは遂にここまで来たと満面の笑みを浮かべた。そして命じた。

「刃黒流術衆の館に進軍せよ!!」

「わかりましたわ」


先頭にはアラムが作った土偶が進み、ノヴァの視線で進軍の様子見ながら、刃黒流術衆の館を目指して登っていった。門を五つ開けた先に館が見えた。大天使は大きすぎて入れない為、最初はアラムの土偶を入れた。


もう長らく誰も入っていない事は、すぐに分かった。そして見渡す限り、血と肉が部屋中を赤く染めていた。

「何者かが皆殺しにしたようです。入口の大部屋にいたであろう大勢の人間は全て殺されています」


「何者かの仕業かは分からんが、褒美をくれてやりたいわ」

ブラッドは笑いを交えて、言い放った。


「お待ちください。様子が変です。これは……ただ殺された訳ではありません。皆、食い殺されています」


 そうノヴァが言うと、ブラッドはより一層、喜びを見せて高笑いした。

「奥に進んでみよ。悪魔に食われたのなら、地下には必ず金銀財宝があるはずじゃ」


「わかりました。進みます」アラムが作った土偶は、外見は完全に人間だった。そして二体までになら細かい指示を出せた。アラムは見るもの全て調べるよう命じていた。


 階段を下りていくと、上の館の大部屋の何倍もある大きな部屋が幾つもあった。

奥にもまだ部屋はありそうだったが火が無い為、分からなかった。


 まずは松明を探した。それは容易に見つかった。そして火を灯した。壁にかけられている松明に火を灯していった。多数の部屋が見えてきた。上階同様、地下にも血の跡や、頭をかみ砕かれたような跡が見られた。


ひとまず一番下まで下りてから、徐々に上階へと調べようと階段を下りていった。

かがり火をつけながら下へ下へと、下りて行った。どの階にも血が絶える事は無かった。


逃げながら、人数もどんどん少なくなって、追い詰められていく様は、その血の痕跡から手に取るようにわかった。


 ノヴァはそれは過去に起きた事だと言う事を、認識していながらも、恐怖を感じずにはいられなかった。血の手形や、途中に転がる骨などから、人間が使う言葉では言い尽くせない程の恐ろしさを感じた。


ブラッドはノヴァが怯えている事を、不思議に思った。アラムもボルドールも同様に、仮に攻撃を受けたとしても、土偶が壊れるだけであって、王妃ノヴァには一切触れることすら出来ないのが現実なのに、まるで殺気にのまれたように怯えていた。


水晶玉に映し出す為に、土偶はノヴァ自身のようなものだった。他の三人には感じる事の出来ない、恐ろしさを感じる事ができた。そして彼女は最後の場所にたどり着いた。


 長い通路の先には一室しか無く、血の跡はまだ続いていた。両扉には鉄の閂が掛けられており、血文字で色々書かれていた。血文字で“絶対に開けるな”と書かれていた。他にも“死にたいものは扉を開けよ、生きたいものは扉開けず立ち去れ”。


ブラッドはノヴァに、閂を抜き開けるよう促した。

重く太い鉄の閂を外して、部屋を開けた。無数の死体の山がそこにはあった。どの表情もミイラ化していたが、恐れて絶叫したような表情に見えた。


彼女はただその場にいるだけで、恐怖しか感じなかった。暗闇の奥で何かが動いた。

水晶玉にはもう何も映っていなかったが、ノヴァの目には何かが確かに見えた。ノヴァは胃液が上がってきて、トイレへと駆け込んだ。


「一体何ものでしょうか?」

「わからんが、館の外には、千名の大天使軍団がおる。あの者たちは無敵だ」

ブラッドは口ではそう言いつつも、不安が消える事は無かった。


「どういたしますか?」 

「この地下の大天使軍団はもう城内広場へ移動したのか?」


「はい。御命令通り、千名の大天使はすでに城内広場に待機させております」




天のバベルの頂上には、炎のミカエルと風のラファエルがいた。


「ミカエル。あれを見てもまだ人間を擁護するのかい?」

「私は全ての人間だとは言ってない。あれは許されない行為だ」


「あの国の人間は、昔から酷い行いばかりを、繰り返している」

「人間の中でも、あの国の人間は嫌われている。救いようのない存在だ」


「君に、承諾を得る必要はないが、私には耐え難いものだ」

「ラファエルの言いたい事は分かる。今まで耐えてきてくれた。責任は私にある」


「ミカエル。別に君に天の怒りを示せとは言わない。やるのなら私がやる」

「しかし、神霊体のまま精神エネルギーを使うとなると、相当厳しくなる」


「あの範囲一体を消滅させるには、エネルギーを使いすぎる」

「あの国と、あの他の場所にいる大天使たちを、ラファエルと私で滅するのなら、エネルギーを分散できる」


「どちらが担当したほうがいいのだろう。地下への威力が高いほうが、国に罰を与えたほうがいい」


「私の炎では深くまで消滅させることは厳しい。私は大天使たちを昇天させる。君は近くにある隕石を、あの国に落として完全に消滅させてくれ」


「今まで耐えてくれてありがとう。ラファエル」


「君とは長い付き合いだ。ガブリエルもウリエルも、ただあの二人に、この人間の世界を見せたら、まだ悪魔を倒してないのに、激高するのは目に見えている。そうなれば人間の世界は終わる上に、我々、天使軍も主力を失うことになって負けてしまう」


「そろそろ時間だ。私は、“ミカエルの怒りの炎”でかれらを昇天させる」

「わかった。僕はあの地が消える程度の、遥か上空から隕石で消し去る」



 ミカエルは指先を上空に上げると、まるで太陽かと、見紛みまごうほどの絶大な炎焔えんえんの球体を出した。


 

 イストリア城塞では、日々の対応に追われていた。サツキとアツキはディリオスの側近であったため非常に優秀であった。将であるディリオスが動けない今、我々が頑張らねばと、二人とも日々、ディリオスがこなしてした雑務等を再確認していた。


二人で取り掛かっているのに、将であるディリオスはいとも簡単に全てを処理し、ミーシャ姫に会い、鍛錬までしていた。二人は空席のディリオスの席を見た。それが毎日続いていた。 


 いきなりサツキの顔色が一気に青ざめた。呼吸が荒くなり、震え出した。周りが問いかけても、一切耳に入ってこないほどの、今まで感じた事の無い絶大な力を感じた。


アツキはすぐにサツキの異常に気づいた。一瞬で彼女はまるで、頭から水を被ったように一瞬にして、冷や汗を出していた。


「サツキ!! 何事だ?」

「わからない。エネルギーから悲しみを感じるけど、こんなエネルギー有り得ない」


 サツキが急に立ち上がって、窓からイストリア城塞の、最上の高き屋根まで上ると、再び震え出した。声を出そうとしても、出せないほどの力がドークス帝国上空からイストリア城塞まで届いた。それは目で見えるほど大きい火炎の球体だった。


アツキもサツキを追いかけて、視線の先を見た。そして一言だけ発した「聞こえる」


「アツキはここで声を聞いてて! 私はディリオス様に報告する」

彼女はそう言うとすがる想いで、将であるディリオスの元へ向かった。


 地上より遥かに高い場所にそれはあった。サツキはミーシャの部屋にいきなり入ってきた。「ディリオス様!! お願いします!! ロバート王の最後の予知夢の前兆かもしれない事態です!! 貴方様にだけは、見てほしいのです!! どうか今だけでもいいので、ご覧ください!!」


 ディリオスはサツキの尋常では無い態度に、思考を止めた。

「どこだ? 案内しろ」

「こちらでございます!」


「ミーシャ、すぐに戻るから待っててほしい」

彼女は頷いた。


ディリオスはサツキの後を追った。道筋的にイストリア城塞の最上部だと分かり、彼女を越えて先に、屋根の最上部についた。そして、それを見た。


サツキも到着した。

「……あれはなんだ?」太陽なのかと、勘違いしてしまうほどの、燃え盛る球体がそこにはあった。猛る炎焔えんえん大球は、遠い地にあるのに目で確認できるほど大きかった。


「わかりません。ドークス帝国の上空にある事だけは確かです」

「ドークスが作った兵器だとでもいうのか?」


「あり得ません」

三人が眺めていると、それは地上に落とされた。あまりの威力に城が揺れた。城内で人々や兵士たちは騒ぎ出したが、遠方すぎて見えるはずも無く、唯々ただただ同様するだけであった。


更にサツキが震え出した。

「どうした?! サツキ?!」


「あの場所には二人いました。おそらく書物にあった、神霊体というものだと思います。最上位の熾天使や魔神の、実態は無い精神エネルギーを莫大に使って、この人間の世界に来ることができるものです」


普段は冷静なサツキが、錯乱しそうなくらいにまで、心が乱れていた。


「この世界に来るだけでも、莫大なエネルギーを消費します。物理的な実体は無い為、精神エネルギーを使う技しか使えません」


「あと何人出て来てる?」


「まだもう一人います。そして巨大な何かを、空よりも遥かに高い場所にある何かを引き寄せています……」サツキは怯えながら、震えていた。


彼は彼女の肩に手を置いた。その内面にある力強い手によって、徐々に自制心を取り戻していった。


「見えてきたな。あれか……確かに途方も無いな。ドークス帝国が、大天使を実験体にしているのが、バレたのだろう。天使が人間を攻撃する時には、必ず理由がある」


燃え盛る途方も無い巨岩が、ドークス帝国目掛けて、落ちて来ていた。ここイストリア城塞から、ドークス帝国まではかなり距離があるのにも関わらず、炎と岩の形がはっきりと見て取れた。


 ディリオスは、敵を見るように、猛烈な火勢に包まれた、絶大な巨岩を見続けていた。そしてそれは、ドークス帝国を完全に破壊した。遠目でもその威力で、海の水が高々と上がった。ドークスの国は地下にある事は、以前の偵察でディリオスは知っていた。


だからこそ、理解できた。ドークスの行為は、天使や悪魔や人間さえも、滅ぼしたくなる国だった。水しぶきの大きさから、あの城と共に、大地が沈んだのだと彼は理解した。そして、もうひとりの天使が、強力な結界を張って、ドークス帝国だけに被害を食い止めてくれた事も分かった。


 

 サツキはディリオスの諦める事も、折れる事も無い、殺気を間近に感じていた。

その心の中は、ミーシャのように見る事は出来ないが、彼は再び立ち上がった心眼を、その鋭い目の中に見た。


そしてこれほど人間離れした状況でありながら、彼は不敵な笑みを浮かべていた。

「何故ですか?! あれほどの事を見て、何故戦おうと思えるのですか?!」


「俺たちの力が最大限に活かされるんだ。それも多数いやがる。自分の力の限界を感じる事が出来るんだ。逆に何故恐れる? 勝ち目が無いと、恐れて隠れるのか?

俺は絶対に奴らと張り合えるようになる……必ずな」


彼女は分かっていた。鍛錬を積んだ所であれほどの敵と戦えない事を、彼よりも弱くても、間違いのない真実だった。


しかし、最後に彼は、必ずと言った。既に彼にはそれを可能とする術を見つけているのだとサツキは思った。

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