第9話

「ウィルマ、久しぶりだな……迎えに来たよ」

「やっぱりアークだったか。ボクは君とは行かない!」


 白ずくめの男とウィルマが向かい合う。一方は少し穏やかな表情でもう一方は真っ青な顔……やはりただならない雰囲気だ。


「そうか、そっちの彼がいるからなのか…………ふんっ」

「ぎゃぁあああああああっ!」


 耳をつんざく悲鳴。エルカートの右手が切断された?エルカートの手首から血塗れのブレスレットを取り上げて自分の右手につけ……アイツ!左手にもブレスレットがあるぞ?


「随分汚してくれたものだな、これは補充の効くものではない…返してもらうぞ?」

「それをどこで……」


「その前にまずは自己紹介をしよう、依頼者アルクア……ウィルマから聞いているだろうがこれは仮の名前だ、私の名はアークハイド……君はルーブル君、で良かったのかな?」

「ああ………」


 陰のある顔とは違って穏やかな声だ、しかし逆にそれがこのアークハイドなる人物を謎めいたものにしている。


「これは前世期の遺物、強化のブレスレット……自分の属性の鬼力を飛躍的に高めてくれる素晴らしいアイテムだ、鬼力の消費量が莫大になるのが欠点だが……おっと君も同じものを持っているようだな?ならば彼が負けたのも納得がいく」


 何だ?空気が冷たくなってきている??


「私のウィルマがお世話になったようだね。君には色々とお礼をしなければならないようだ」

「アーク!ルーブルは関係ない!」

 そういって前に出るウィルマ。クローデュ達も駆けつけてくる。


「まったく君は同性にまでモテるなぁ。私には一向になびかないのに、まず女性陣にはご退場願おうか?ロォォォドっ!」


 アークハイドの手から大量の水が放たれる。これは水属性?そうか、水辺にある大量の水を利用しているのか!


「くっ……バリケィド!」


 ウィルマが土を押し上げ巨大な土壁を作り上げる。そうか、クローデュ達がいるから念属性のバリアーは使わないのか。しかし相手は水のためかどんどん土壁を浸食していくようだ。


「水属性ならあたしも対抗できる!ふっ!!」

「私も防御を手伝います!シルさん、今のうちに!」

「こんなみずくらいじょうはつさせてやるのぉ…」


 ウィルマ・クローデュ・リィロの3人が防御壁を支えている間にシルがヒートサークルを完成させる。よし、後はぶっ放すだけ…だ?


 水流を放ちながらウィルマ達に一瞬で近づくアークハイド。前衛の3人を押しのけてシルの手を掴む。


「君の火属性はやっかいだな……眠りにつきたまえ、ボックス!」

「さ、さむいのぉ……」


 シルの身体を氷が覆う?あっという間にシルはそのままの姿で氷像となった。続けてクローデュとリィロの手を掴み、


「ぐっ……何ですかこれ……だんだんつめたくなっ…」

「ぁぐ!……大将、ウィルマをたの……」

「シル!リィロ!クローデュ!」


 一瞬でリィロとクローデュも氷漬けとなりウィルマ一人が残されている。このままではウィルマも氷漬けにされる?させるかぁ!


「くそっ!やめろおおぉぉぉぉ!」

「騒がしいな、君は後でゆっくりお相手するから引っこんでいてくれ……ロォド!」

 もう片方の手で放たれた水流をまともに食らい飛ばされてしまう!


「ルーブル!3人に一体何をしたんだアーク!?」


 ウィルマの叫びに応えるように髪をかきあげるアークハイド。その顔の右目の部分には眼帯がはめられていた。


「ウィルマ、これを覚えているよね?君が2度目に私を拒絶した際に失った右目さ」

「………」

「ああ勘違いしないでくれ。別に怨んではないんだ……むしろ嬉しいぐらいだよ、このお蔭でもう一つの力に目覚める事ができたんだからな」


「アークは水属性で水流攻撃を得意としていたハズだ!なのにクローデュ達を氷漬けにしたのは水属性じゃない……液体を操作する水属性では不可能だ!」


「そう、あの時君に右目を傷つけられた私は手当を受けたものの、ウィルマに対する愛情とそれを手に入れられない苛立ちの感情が渦巻いていた……そして回復した時に気付いたのさ、自分の中の土属性に!」


 な、そうするとヤツは水と土の属性を2つも持っているのか?そんな事があり得るのか?!


「くっ………ボクはもう君を傷つけたくない!でも………リパルジョン!」


 そう言ったウィルマの左手に鬼力が集中している。あれは確かウィルマの念属性のバリアーか?それにしては小さいが……。


「ボクは君についていけないっ!はぁあああああっ!!」


 ウィルマのストレートパンチがアークハイドの腹に決まる!そうか、あの反発力で拳をコーティングして攻撃に変えたのか!あれなら鎧を着こんでいてもアバラの2~3本どころか内臓までやられるハズ。


「あっ!そ………そんな!!」

 ウィルマの左手は氷漬けにされていた?!ヤツの鬼力はあの反発力を超えているのか!


「そして水と土の2つを融合させて使用すると……新たな属性、氷属性となる!更に2つのブレスレットの効力は……君の念属性すら抑え込める、ボックス!」


 ウィルマの周りをドーム状の分厚い氷が張り巡らされる。手足を凍らせたものの胴体や頭はそのままだ。


「ぁあああっ!ぅ、動けない!!」

「これで意識を失うことなく彼の最期を見届ける事が出来るだろう?……お待たせしてしまったね、ルーブル君」


 そういってアークハイドはこちらに近づいてくる。


「先ほども言ったが君にはウィルマを助けて支えてくれたお礼をしなければならない、ダガー!」


 アークハイドの手から氷のナイフが放たれる。あの氷はヤツの鬼力が作り出したものだから俺の念動力では操作ができない。手元のナイフで弾く。


「私はね、村にいた時からウィルマを愛していたんだ……他の人間は気付かなかった彼女の念属性に気づくぐらいにな!」


 だんだん氷のサイズと威力が増してくる。捌き切れずにナイフを落としてしまう。すぐさま換えのナイフを用意する。


「念属性の持ち主はアルクア村では忌み嫌われていたけど、私にはそんなもの関係がなかった。ただただウィルマが欲しかったんだ、彼女を力ずくでも手に入れようとした!」

「っくぁ!」


 ますます攻撃が激しくなってくる、換えのナイフを出そうとすると手を弾かれてしまう、完全にヤツのペースだ!


「それなのにウィルマは私を拒絶したんだよ、私が念属性……力がないばかりに!この右目はその時の代償さ……でも今となってはこれも愛おしいものだ、ロック!」

「ぐっ!……がっ!………うぶっ!」


 素手状態になった俺は氷ので一方的に殴られまくる。一つひとつが重い一撃だ。ナイフではないものの表面が鋭いので皮膚が切られる。その傷さえ凍らされていくので皮膚が凍傷を起こしている。


「そして右目の傷を治してからウィルマを探してようやく見つけてみれば……風属性の君と一緒に行動している!一緒の村で過ごしてきた私でさえ拒絶されたのに……こんな事が許されるものか!」


 距離を取っているにもかかわらずアークハイドの冷気はこちらの体温を奪っていく、先ほど大量の水を受けたのが原因か。

 ヤバイ!もう奥の手を使うしかない!!落ちたナイフに鬼力を集中…ナイフが動かない!地面と一緒に凍らされている??


「私の氷で凍らせたんだ、もうナイフは君の自由にはならない…ここで今君を嬲り殺して清算した上でウィルマを私のものにする!さあ、始めようかぁ!!」

「……っつぁ!」


 俺の左手首を氷のナイフが掠める……ブレスレットが切れた!?今まで感じていたムーヴメントエリアの感覚が失われる。やはりこのブレスレットは鬼力を高めるものなのか。


「これで君のスキルは元通りになった、先ほどの戦いで見せた自由自在なコントロールはもう効かない」

「逃げてルーブル、ボクの事はもういいんだ!こんな氷くらいボクの力だけでなんとかなるっ……でも君が死んだらもうボクは生きていけないよ!」


 ウィルマはそう言ってドーム状の氷から抜け出そうとするが、氷が強固な上に捕らわれている体勢が悪く力が入りにくいのでジタバタするだけだ。

 アークハイドが氷の攻撃を止めてこちらに近づいてくる……引き下がろうとすると動けない事に気づく。いつの間にか足元から膝まで凍らされている……逃げるつもりはないが攻撃を動いてかわす事も出来なくなった。


「なぜこんな男に!私が負けたのか!なぜだ!私の何がいけないんだ!!」

「うがっ!ぐふっ!……がはぁ!」


 激高したアートハイドに直接拳で殴られまくる俺。ガントレットで殴られているから骨までヤバそうだ……このままだと瀕死の重傷になるがブレスレットがなくてはタイムスリップもできない……もう打つ手なしなのか?


「やだょ………………いやぁぁぁあああっ!」


 視界もぼやけて見える……あれ?

 なんだこれ?

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