第7話リーダー・木村勇作

 「室井、国を統一するリーダーはいるのか?」


 拳斗は率直に気になった質問を室井に投げかけた。


 「もちろん。僕たちのリーダーはあの人さ」


 そう言うと室井は自分たちの国の中心にいる身長は170センチほど、飴色の眼鏡をかけた生徒を指さした。


 「彼は木村勇作きむらゆうさく。この試験が始まって誰も動き出していないようなころからゲームの本質に気が付いてグループを作ろうと動き出していた切れ者さ。おかげで僕たちの国は5つの中でおそらく一番大きい」


 拳斗たちは木村の国の円の一番外側についたが、国に入ったからといっていちいち自己紹介なんてする必要はないらしい。近くの人間と会話したりはしているが、それ以上仲を深めるようなことは特にしていない。国といってもやはり試験のために10分そこらで形成されたものだからそれも無理はないといったところだろう。


 「ちなみに僕たち以外の国にもそれぞれリーダーはいるみたいだよ。壇上に向かって右上の角の国から時計回りにリーダーと国の大きさははおよそ、島津煉しまづれん50人、黒江カレン40人、僕らのリーダー木村勇作80人、山縣哲平やまがたてっぺい50人、そして中央の国は北神慶きたがみけい40人の構成になっているね」


 室井の説明を聞きながら拳斗は順に目で追っていったが、それぞれリーダーと思われる人物は中心の方にいるのか誰がその人なのかはわからなかった。あずさは女子生徒のリーダーがいるのには驚きを隠せていないらしい。それにしても拳斗は室井がなぜそこまで細かく知っているのか純粋に疑問を覚えた。


 「室井、なんでそんなに詳しいんだ?」


 「あ、あぁ。僕は拳斗君たちに声をかけたみたいに国に参加してもらえそうな人たちに声をかけて回っていたからね。その時にいろいろと情報を集めてたんだよ。何もわからない状況では情報は一つの武器だからね」

 

 室井は自分が何か怪しまれたと勘違いしたのか少し慌てた様子で答えたが、拳斗もあずさも特に気にせず納得した。

 

 (確かにこの状況で少しでも情報を持っているのは強みになるのかもしれない。しかも、一回目から木村の組織する一番でかい国に参加できたのも相当運がいい。運が悪くない限り一回で即脱落になる可能性はかなり低くなったはずだ)


 拳斗は勝った気にこそなってはいないが少し状況が好転したと思わざるを得なかった。あずさも拳斗と一緒に行動できているということもあるが、室井という信頼できそうな情報を持った人物と知り合い、安心感が滲み出ている。


 投票までの残り時間は3分を切った。


 ここでリーダーの木村から一旦召集がかかった。集合してみるとおよそ80人の国の大きさを拳斗は改めて感じた。密集する人の多さに圧倒されていると、群衆の中からかき分けるようにして木村が前に出てきた。


 「改めて、木村勇作です。僕たちの国に参加してくれて感謝します。単刀直入に、投票にあたっては今のところほぼ確実に5つの国とそれ以外の、つまり無所属の人たちとを合わせた戦いになります。まず3種類カードが出た場合、相手の3つ以上の国が同じカードをだして、無所属の人と僕たちの国で残りの二種類のカードを出すような場合でない限り、最大規模を誇る僕たちの国は一発で負けるようなことはほとんど有り得ないでしょう。しかもそのような事が起こる確率は相当低いと考えられます。相手の国がどんな手を出すかわからない以上負けない確率が高い方法を選んでいくしかないのが現実です。なので力を合わせてまずは意思を統一し、戦っていきましょう」


 木村の発言は改めて国の意思の統一を目的としてされたものだった。国のみんなも状況も理屈も理解しているため異論がある人はいなかった。


 (80人いるビッググループに属してなお一発で負けが確定する可能性がまだ僅かにでも残ってるのがこのゲームの本当に恐ろしいところだ。全体の国の数が少なくなればなるほど二種類しか手が出ない確率も高まる。ルール上、仮に二種類しかカードが出なかった場合は少数派が勝つことになっている。そうなればいよいよ後がない。無所属の人間は手がばらける可能性が高い。つまるところ決めるならこの最初の一回。ゲームが長引いて無所属の人間が減れば減るほどうちの国の規模の大きさは不利に働く可能性が高い。しかし、この一回、どうしても最後は運に頼るしかないのか…?)


始めは木村の国に加入することができて一安心の拳斗だったが、考えれば考えるほどこのゲームの深さに頭を抱えるしかなくなっていた。しかし、考えていても現状目前に迫った第一回戦投票は木村の国として投票する以外に得策がないことも事実であるため、時間が来るのを待つしかできなかった。



 そして、ついに投票一分前。ついに木村から投票する手が伝えられた。


 

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