第8話 信念


アタシが忘れていた過去、

それは自分でも疑ってしまう程の衝撃があった。


アタシが大魔法を使った?

遠く離れた戦闘地域へ一瞬で現れた?


どれも今のアタシでは考えられもしない事、

だって、魔法なんてちっとも使えないのに……


本当にそれはアタシだったんだろうか……


そこへ、ギルドハウスのドアが開き、ダイさんがゆっくりと現れた。


「すまない、聞く気はなかったんだが、聞こえちまった」

申し訳なさそうに入ってくるダイさん。


「大丈夫です、それに、ダイさんもそこにいたんですよね?」

自分の事と実感が沸かないアタシは、意外にも冷静だった。


「あぁ、そうだ。俺はリコよりも、もっと隊長の近くでそれを見ていた……

 隊長が窮地に立たされた直後だった。子供、いや、君が現れたのは……

 『お父さん!』確かにそう叫んでいたように聞こえたよ。

 そして、誰も見たこともないような神聖魔法を放ったんだ。

 周辺の魔物を一気に浄化させ、残るは魔族の親玉のみだってのに……

 これは俺たちの失態なんだ……

 まさか、隊長を盾に逃げられてしまうとは……

 君には本当に申し訳ないと思ってる……」

悔やんでも悔やみきれない、ダイはそんな顔をしていた……


「いえ……ありがとうございます、アタシにはその頃の記憶が全く無いので……」

ハナは二人に向かって深々と頭を下げた。


その後の事もダイさんが鮮明に覚えており、

アタシに丁寧に教えてくれた。


チカラを使い果たし気を失った幼いアタシを、

王都まで連れて帰ってくれたのはダイさんだったこと、

そして、数日間眠り続け、目を覚ました時には記憶を失っていたこと。


まだ幼い子供だったため、記憶が失われていれば逆に良かったと判断し、

そのままお婆さんに預けることにした、と。

経験豊富なダイさんでさえも、当時のハナの能力については

さっぱり見当がつかないとも言っていた。


「そっか、それで……」

やっとこの前のダイさんの言葉や、皆の反応の辻褄が合った気がした。


「ハナちゃん、言い忘れていたことがもう一つあるの」

思い立って口を開くリコさん。

「私たちはあの後、隊長を失ったことで近衛部隊を解体させられた、

 そして、隊長の信念に従って、新しいギルドとして活動を始めたの。

 ギルドの名前は……”ネーデルナイツ”、隊長の名前を付けたの、

 隊長の信念は”弱きものを護る”、あの人の口癖だったわ……」


ハナはそれを聞いて、胸の奥底が熱くなり、なぜか涙が溢れてきた……


アタシが漠然と抱いていた想いと、お父さんの意思は間違いなく繋がっていた……

それを知れたことで、やっと、お父さんが生きていたことを実感できた瞬間だった。


「どうして……どうしてアタシの記憶は無くなってしまったの……

 こんなに……こんなにも素敵な人たちに囲まれたお父さんの記憶を……」

涙が溢れて止まらなかった……


アタシが落ち着くまで、そっとリコさんは傍にいてくれた。


「あ……アタシ、仮免許の相談に来たはずだったのに……ごめんなさい」

「こちらこそ、ごめんね。ねぇ、今度の週末、一緒にマスターギルドに行こうか?」

「え?!いいんですか! ありがとうございます!」

「もちろんよ! じゃあ、また来週ここへ来てね。絶対だよ」


リコさんと約束をして、ギルドハウスをあとにした……


アタシは新しい家族が出来たかのように、幸せに包まれていた。



続く。

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