第6話 山小屋周辺を散策
夢を見ていた。
妻と二人で山登りをしている夢だ。
健脚な妻にひっぱられかなり苦しい思いをしながらキャンプ道具を背に山に登った記憶だ。外見からは想像できないがなぜかキャンプなどのサバイバル周りの知識が豊富な彼女は色々なことを教えてくれた。
食べ物のパッチテストの仕方なんかも彼女が実際やって試していたな……ゼロから火を起こしたり、石を組んでカマドを組んだり……サバイバルの知識を試すのがおもしろいのか、いつも楽しそうな妻の笑顔を思い出す……あのときは楽しかったな……妻の行動にあまりについて行けないので、あの後筋トレなどをするようになったんだっけか……
「……ああ、夢じゃなかったか……おはよぅ……体中痛いね……」
「おはようございます。あたしは寝不足です……ふわぁ……やっぱり夢じゃなかったんだぁ……」
「流石にいつもどおりには寝られなかったね……」
朝起きると、体中が痒い上に痛かった。だが思ったよりはしっかりと眠っていた様だ……それと目覚めると同時に、チサトさん同様、昨日のは夢じゃなかったんだ……と軽く絶望もした。
「ふたりともおはよう。特に何もなかったよ。大体地球と同じサイクルで時間過ぎてるっぽいね、はい、時計お返しします」
「おはよー」
「おはよう、ありがとう」
俺は腕時計を腕に巻き付けて準備を……しなくてもこのままか。雑魚寝なんて学生以来だったな。それにしてもシュウトくんはなんで楽しそうなんだろうか?
「何事もなく一夜を過ごせて良かったか……」
「ですね、野盗みたいのも出なかったし、熊も出なかったし」
「それじゃあ、今日は食料確保、水源の下の調査、人里の位置と方向の確認……色々あるな」
「どうします? 別行動で?」
「自衛手段が充実してればいいけど……槍と、短刀と錆びて折れた刀だけじゃなぁ……3人でまとまって動くか」
「あたしも行くの?」
「そんなの当たり前だろ?」
「え、何よその言い方?」
チサトさんのあたりがシュウトくんにきついな……なんでだろうか? 付き合ってるわけじゃなさそうだな……
「チサトさん、人手が欲しいから。すまないが来てくれるかい?」
「はいっ!」
「……なんだかなぁ……」
それから俺たちは山小屋を降りて3人で小高い丘の上まで警戒しながら歩いて移動する。昨日は気が付かなかった道中に果物もどきを発見し収穫して食べながら歩く。なんか遠足気分になってきたな……
「あ、見えてきたな、あそこだ」
開けたっぽい場所に来て二人がはしゃいだ感じで走って行って見晴らしの良いポイントまで移動する。
「おお! すげぇ!」
「すごい……完全に別世界」
「だろ?」
実は俺一人で昨日来たときは帰れない絶望感しか感じなかったんだけどね。改めて見ると、空気も綺麗だし、山とか森、川……すべてが美しい場所だな。あれ? 空になんか星が壊れた様なのも浮いているな……なんかなんでもありだな。
「素敵……あ、あれが町ね」
「あ、ほんとだ、結構遠いか?」
「そうだね……20km以上はありそうだね」
「20km……たしか……日本で山登りするくらい?」
「残念ながら山登りのときは整備された山道があるから、単純には計算できないかな……もっと掛かると思ったほうが良いかも。道を発見できれば1日もあればいけるね」
俺はショルダーバッグからメモ帳と筆記用具を出してなんとなく位置と方向、目立った山や川の形などを記述していく。持っててよかった……
「今となってはそのボールペンも貴重品ですね……」
「確かに……こっちの世界で売って資金に……」
「うーん、しばらくは役立ってもらうよ、町についたら売るのは有りだね。紙の文化がないと売れなさそうだけどね。こっちのメモ帳の方が高く売れたりして」
「漫画とかだと、今僕たちが着ている服を売って資金を調達したりしてましたね」
「買ってくれる様な高度な文明だと良いんだけどなぁ……」
「警戒しながら町に近づいてみようか、危なさそうだったらそのままスルーして次の町……かなぁ……ここから見る限り町の間は2~3日は離れている感じだねぇ」
俺たちはそれから湧き水が流れる水に沿って歩き、大きめの川を探してみる。道中で手頃な木の棒を探し、二人に持って貰う。杖代わりと言うよりも自衛用に持ってもらう感じだ。野犬に素手で立ち向かったら怪我を確実にするからな……
「じゃあ、この棒で叩くとか振り回すんじゃなくて、つっかい棒みたいにするのね?」
「そう、その間に俺がなるべく槍で仕留めるって感じかな? でかすぎる相手の時は迷わず逃げてね……この槍一本じゃどうしようもないから」
「わかりました。小さい相手専用なんですね」
「雑菌だらけの牙と爪だから、血が出るくらい傷をおっちゃうと大変だから気をつける感じかな」
「……現実ってエグいですね……異世界なのに現実的って……」
「……魔法があると良いね……でもこうやって俺たちがこっちの世界に来たんだから何かしらの超越した力があるかもしれないな」
シュウトくんが複雑な顔をして頷く。
俺たちは水の流れをたどって川を探してみたが行き着いた先は本当に小さな小川だった。これをさらにたどって行くには町の距離といろいろ加味するとちょっと時間が足りない気がした。朝一で日の出前に出発して下っていく感じがいいかな? 俺はそのことを二人に説明し、今日は食料を確保して一旦山小屋に戻ることにした。
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