異世界戦線異常あり!

藤 明

異世界転移と異文化交流

第1話 気がついたら森の中



 現実世界のとある日本の都市のオフィスで……




「それじゃ、すみませんがお先に失礼します」


「おう、良いって良いって、急いで奥さん所行きな、後が大変だぞ!」


「あはっ、ありがとうございます!」


 すでに子持ちの同僚が快く俺を送り出してくれる。妻の出産予定日が3日後のはずだったが、たった今産気づいたらしく妻の母から急ぎの連絡があった。すぐに出産することになったそうだ……



 俺は急いで帰り支度をして会社を出ると駅に向かって急いで歩いていく。交差点の横断歩道に向かっていると、遠くの方で男女の言い合いの声が聞こえる。痴話喧嘩みたいだな……


 俺は痴話喧嘩を完全に無視して自分のこれからの事を考えていた。父親としてやっていけるのだろうか……将来を想像し、考え出すとかなり不安と期待が入り交ざった状態になり赤信号でソワソワしながら待っていると、先程から遠くで言い合いをしていた高校生くらいの年齢の男女が言い合いをしながらこちらに走ってくる。


「ちょっと待ちなさいよ! まだ話は終わってないわ!」


「うぜぇ! だから、もう終わった話だろうが! もう関係ないんだからついてくんなよ!」


 会話が若いなぁ……しかし、ちょっと酷い口調の喧嘩だなぁ……と思いつつも巻き込まれないように目をそらしていると、男子高校生が横断歩道手前で急に立ち止まり、勢いよく彼を追いかけて走ってきた女子高生がタイミングを間違えたのか、盛大につんのめって車道までオーバーランして転倒してしまう。


 危ない! 助けなければ! と思ったが、突然のこと過ぎて頭で思うだけで体が動かない。


 転んだ女子高生を助けようとした男子高校生が車道に立ち入って……


 そこにかなりの速度で走り込んできたトラックが近づいてきて、強烈なブーレーキ音をさせながら彼らに近づき……衝突しそうになり……







……突然辺りが真っ白に輝いた。







「えっと……これは一体どういう状況?」


 白い輝きが終わリ周囲が見えるようになると、俺の目の前には唐突に大自然が広がっていた。草木が生い茂った……公園か? それにしても木も多いし道もないから山の中かなこれは?

 本当についさっきまで日本の都市部の交差点にいたはずだ。確かに俺は……赤信号を待って信号前で立ち止まっていたはずだ。ほんの一瞬、ほんの一瞬周囲が白く輝くとここにいた……もしかしてこれは白昼夢ってやつか?



「えっ? なにこれ、どうなってんの?」


「あれ……僕たち死ぬところだったんじゃ……」


 目の前には先程の制服姿の高校生カップルと思われる二人が座りながら抱き合っている。高校生カップルにもこの状況がよくわからないみたいでキョロキョロと周りを見渡している。

 あれ? なんか違和感があるけど……なんだろう?



「あの~すみませんが、ここは一体どこでしょうか?」


 俺はとりあえず目の前の高校生に尋ねてみたが、高校生カップルもなんだか混乱しているように見え、こちらに質問したい感じに見える。


「あの……僕に言われても……何がどうなってるんだか、ほんと何がなんだかわからないですよ」


「あたし達……あれ?  交差点でトラック?  ……あの白いの……夢じゃないの?」

「だよね……白く輝いてた……あ、僕たちトラックに轢かれそうになってたよね? ってかあのタイミングだと大怪我……死んでるくらいだったような……」


「……ああ! そう言えば美樹のことどうすんのよ! ほんとに傷ついてたんだからね! 大変だったんだから!」

「……ええ……この状況でその話?」


 予想の範囲内の返答と予想外の痴話喧嘩の再開だったが、来る前にかなり激しい喧嘩をしていた高校生カップルも突然ここに来てしまったようだった。

 瞬間移動、テレポーテーションと言うやつだろうか? それとも薬物で意識を奪われている内にここに連れてこられた? でも俺が今立っているのは何故だ? 分からなすぎる……




「お取り込み中すまないが俺には、君たちの状況がさっぱりわからないが……これが夢でないとしたらとんでもないことに巻き込まれたと思うのだけど……」


「……あ、失礼しました。確かにそうですね。修斗! この話は後でしっかりするからね?」


 怒気を孕んだ目で女子高校生が男子高校生をジトッとみる。


「僕は怒られるようなことをしてないと思うんだけど……」

「あん?」

「……ごめん、あとでしっかり話をしよう……」


 交差点で痴話喧嘩をしていた先程のカップル? だよな? もっと酷い喧嘩だったような気もするが……あれ? 先程から何かしらの違和感を感じたが、そんな事を考えている暇はないな、これからどうすればいいんだろうか?



 二人の痴話喧嘩を尻目に、俺は落ち着いて辺りを見回すと本当にまわりは木だらけだな……ふと遠くで茶色の塊の様なものが動いている。あれ? あれはイノシシ? おや? 随分大きいイノシシだな? イノシシと言うより牛か? やたら大きいし角の数も心なしが多い様な? そんな感じでイノシシの様なものを見ながら考えていると女子高生が俺に話しかけてくる。


「あの、お兄さんは、その……ここの人じゃないんですか? って、え? あれ?」


 やたら美人なハーフっぽい女子高生が立ち上がりスカートのホコリを払いながら質問をしてくるが、どうやら俺の顔を見てかなり驚いた感じだった。


「僕、えーと、僕たちは駅の近くの交差点にいたはずなんですが?」


 男子高校生もつられて立ち上がりながら話に入ってくる。女子高生の見た目と比べると彼の見た目は割と普通の高校生に見えるな。俺より少し背が高く運動系の部活をやっているのか、しっかりとした筋肉がついているように見える。




「俺も交差点で赤信号を待っていたらここにいる感じだ……俺も状況がよく分からない」


 比較的遠くにいた巨大イノシシが俺たちの声でこちらに気がついた様でゆっくりとこちらを振り向く。ちょっとヤバイ雰囲気だな。あ、身体をふりふりしている。なんか唸り声も上げているし……肉食獣が獲物に襲いかかる動作かな? って、え? 肉食獣なのアレ?


「え? えええ! なにあれ? 大き過ぎじゃない?」

「な、なんか思いっきり敵意があるような?!」


 俺の視線の先の巨大イノシシに気がついた高校生カップルが騒ぎ出す。今騒ぐと刺激しそうな……案の定、巨大イノシシがこちらに向かってすごい勢いで突進、いや、襲いかかって来る。あのサイズはヤバいだろ! これじゃスペインの闘牛じゃないか!


「木の影に隠れて! 木を盾に!」

「は、はいっ!」

「えっ、ひっ!」


 男子高校生は俺の発言の意図に気がついてすぐに木の影に身を隠すが、女子高生の方は呆然として固まってしまい動けなかった。男子高校生も振り返ってこちらを確認した時に「しまった!」といった表情をして女子高校生を見る。

 彼からは間に合わないな……そう考えていると何故か世界がスローモーションのように見えゆっくりと時間が流れるように感じる……


「ああっ! もう!」


 俺は女子高生の手を引っ張って慌てて巨大イノシシに対して横方向に走り出す。真後ろに逃げたらアウトだなこりゃ! 女子高生の腕を引っ張って強引に俺の体に引き付ける。寸前の所で巨大イノシシの突進をかわす。


「おわぁっ!」

「きゃっ!」


ドコッ!!!


 巨大イノシシは木の幹を角で削った後に無理矢理に急ブレーキをかけてまたこちらの方に突進の準備をするようにゆっくりと方向転換している。突進の速度の割には鈍重だな……前にだけ早い生物なのか? 突進がさえかわせばなんとかなりそうか?


「早く木の上に登るんだ! 登れっ!」

「はいっ!」

「えっ! あたしこんな大きな木なんて登ったことないわ!」


 男子校生は手近な木に上手に登り始め、女子高生の方はパニックになっていた。俺は登れそうな木の前に立ち女子高生に話しかける。慌てながらも木の枝に登りきった男子高校生が振り返り、またもや「やってしまった」といった顔をしてこちらを見ている……彼もいっぱいいっぱいのようだ。


「君! 俺の手を踏み台にして上の枝に!」

「……わ、わかった!」


 女子高生は俺の意図通りに俺の組んだ手を踏み台にして俺が腕を持ち上げると同時に上の張り出した太めの枝にまでジャンプしてよじ登る。彼女の体重が軽くて良かった……


「ほら! 頑張って登って!」

「は、はいっ!」


 女子高生が頑張って枝に食らいつく様ににじりと登る。すると男子校生が慌てた感じで叫ぶ。


「お、お兄さん!! 来てるよ!!」


 分かってはいたけど大きな足音のする方向に振り返ると、巨大イノシシがかなりの距離まで接近していた。


「くっ!」


 またもや世界がゆっくりと進むように見え始める。俺は重たい体を全力で動かし、巨大イノシシの突進を寸前の所で横っ飛びで木の影に隠れてかわす。



ドコォン!



 突進と牙の威力のせいか木の幹がいい感じでえぐれている、信じられない、かなりの威力だ……あれを喰らったら大怪我か即死をしそうだな……命をかけた危機のせいか割と頭が冴えて来て冷静になって来た。先程から世界がゆっくり見えるのは火事場のなんとやらだろうか? 俺は女子高生の登った枝にジャンプして腕をまわし脚をかけてよじ登る。普段から運動しておいて良かった……


 巨大イノシシは俺達を見て唸り声をあげているが、木の上で手が出せないのを理解しているようで無駄な突進はしてこなかった。あの突進力でジャンプすれば届きそうだが……なんでだろうか?



「ね、ねぇ? 修斗……イノシシって人襲うモノなの!?」

「あ、あいつの縄張りに入っちゃったんじやないかな! 子供でも近くにいるんじゃないの?」

「見たことが無いくらい大きいね! あたしこんなの知らないよ!」


 隣の木越しの会話だけど高校生カップルがハイテンションで大声の会話になっている。そりゃそうか……突然この場所に来て襲われてもいれば、もう何が何だか分からないよな……俺もわけが分かっていないわけだし……



「あ、二人とも刺激をしないで! 静かな声で!」

「あっ……」

「そうか……」


 俺は木の下で唸っている巨大イノシシを注意深く見てみる。八本の棘状の角で、頭の前面が象の皮膚みたいになっている。そして、どう見ても口から見えているのは牙……犬歯だよね? あれは草食獣じゃなくて肉食獣なのか? あんなの図鑑ですら見たことが無いな? 新種か? 小さめの馬くらいのサイズだな。イノシシにあんな大きいのいたっけか?

 



 しばらく静かにしていると俺たちを襲うのを諦めたのか巨大イノシシが何度も振り返りながら木の下から去って行った。俺達の間にやっと安堵の空気が流れた。男子高生が周りに注意しながら隣の木から降りてこちらの木に向かってくる。同じ枝に登っていた女子高生が俺に話しかけて来る。


「あの、ありがとうございます。本当に助かりました」

「気にしない気にしない、助かって何よりだ」

「本当にありがとう……」


 女子高生が若干涙目になる。知らないところに来ていきなりこれでは不安になってしまうよな……




「すいません、僕が助ける場面だったのに、パニックになってしまって……」


 男子高生がこちらの木に登りながらすまなさそうに謝ってくる。彼はかなり余裕でこちらの枝に登ってくる。身体能力が結構高いな……


「……全くよく分からない状況なんだ、助かっただけで儲けものだよ」


 男子校生がはにかんだ感じでニコッとしてくれる。それを見た女子高生もつられてちょっとだけ笑顔になる。とりあえず皆が無事で良かった……




 俺は突然すぎる今の状況が、とても不思議で全くと言っていいほど現実味を感じさせられなかった。これから俺はどうなるんだろうか? 


 ちゃんと家に帰れるのだろうか? 妻はどうなったのだろうか? 考え出すと不安しか俺の頭の中には生まれなかった。



§  §  §  §  §  §  §  §  § §  §  §


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