鬼ノ物語
@sakurahiro0226
復讐螺旋(前)
差し伸べられた手
───路地裏に置かれているゴミ袋から残飯を漁る。
家族に棄てられたオレは、こうするしかなかった。
……家族、と言っても血は繋がっていない。
義父が、オレの母親と幼なじみだったらしく、その縁でオレを拾ったのだという。
時が経つにつれ、その人にオレは憎しみの目を向けられるようになり、虐待同然のことをされ、そして外へと追い出された。
この現代社会において、齢にして16の子供が一人で暮らせれるハズなどなく。
こうして、オレは残飯を漁るのだった。
「ねぇ、ねぇ、おにーちゃん!!」
ふと、背後から声を掛けられる。
今は構ってるの余裕なんて無かった。
なにせもう三日、まともな食事にありつけることはなく、道端に生えていた雑草と公園の水道水で飢えを満たしていたからだった。
そろそろ、しっかりと栄養のついたモノを食べないと栄養不足で死ぬ。
しかし、少女はお構い無しでさらに話しかけてきた。
「おーい、おにーちゃんってば!!」
「……なに? あんまり、オレに話しかけない方がいいよ」
何しろ、俺の身なりは今は非常に汚らしい。
少女もドブのような臭いを我慢して話しかけてくれているだろう、そこはありがたい。
しかし、だからこそそんな優しい少女に、悪印象を抱かさせてしまいそうで、怖かった。
───正直、誰かと話したいという欲求はあった。
何日も話してなかったから。してたとしてもコンビニの店員との事務的な、機械的な確認だったからだ。
「ん、見た目とか、においとかの話なら別に気にならないよ?
むしろ、こんな状態のおにーちゃんのこと放っておく方が間違ってるとわたし、思うんだ!!
ねぇねぇ、お腹、減ってるの? さっき、この近くのコンビニでご飯買ってきたけどいる?」
その言葉に、オレは思わず振り向く。
そこには───中学になりたてだろうか。
それくらいの、少し大人へと近付いている、黒の長髪の少女がいた。
手には確かに、少女では食べきれなさそうな量の食事があった。
……もしかして、オレがここにいる数日の間、ずっと見ていたのだろうか?
『視線』を感じることはあった。哀れみを込めた視線だったり、汚物を見るような視線だったりと、様々と。
しかし、そんな視線に紛れて、たまにやけに優しさがこもっている視線を向けられることがあった。
その視線の主がきっと、この少女だったのだろう。
「……でも、オレは君に何も恩返し出来ない。
いずれ、飢えて死ぬ身だろうし」
「諦めちゃダメだよ!!
だっておにーちゃんまだハタチにもなってないでしょ?
見た感じ、分かるもん!!」
言いながら、少女に腕を引っ張られる。
温かな、柔らかい掌を感じてオレは、この少女は根っからの優しい子なんだなと感じ入った。
……いや待て、どこへ連れていく気だ?
「待って、どこに───」
「わたしの家!! お父さんとお母さんに言うの!! うちのお父さん警察官だから、こんなになるまでほっぽったおにーちゃんの両親を怒ってもらわなきゃ!!」
……参ったな。“絶対に折れないぞ”と彼女の瞳がメラメラと語っており、オレはこの少女に諦めさせることは無理なんだろうなと悟った。
この少女に根負けする代わりに、オレは少女に訊ねた。
いつか、必ず恩返しをする。そう、胸に誓って。
「……君、名前は?
あ、オレは……
「未音……いい名前!!
私ね───
よろしくね、未音おにーちゃん!!」
───建物の影で少し薄暗かった彼女が姿が、明るく照らされる。
屈託のない、太陽のように明るくて、綺麗な笑顔で彼女は言うのだった。
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