第15章 陽炎の命は短くて

 その頃、由香達は街中を探索していた。

 色んなところに出歩くが、全く魔獣は見当たらない。

 車に揺られながら、結衣は窓の外を眺めながら呟いた。


「由香さん、ほんとにこれで大丈夫なんですか?」

「まぁ良いんじゃない? 仕事が無いって事はその分平和なんだし」

「そうですけど……」


 すると、運転していた八咫烏が急ブレーキをかけて止まった。


「由香先輩、目の前で魔獣が喧嘩してます!」


 そこには鬼丸と怪人が戦闘を繰り広げていた。

 鬼丸は剣を持っており、それで怪人の攻撃を防いでいた。


「八咫烏君、とりあえず本部に頼んだ」

「わかりました!」

「結衣ちゃん、仕事だよ!」

「は、はい」


 由香と結衣は車から降りて、魔獣に変身した。

 由香は髪の毛が蛇に変わり、鱗のような皮膚になり、その姿はまるでメドゥーサの様だった。


「由香さん、蛇なんですね」

「なんか悪い?」

「い、いえ……綺麗だな」

「なんか言った?」

「いえっ、何も!」


 2人は戦闘の元に行くと、鬼丸は剣で怪人の攻撃を防いぎながら2人に話しかけた。


「あっ、誰かさぁん! ちょっと助け、うぉ

 っ!」

「あれって……」


 結衣はあの剣に見覚えがあった。

 そう、焔が魔獣から助けてくれた時に使っていた剣と同じだった。


「なんで魔獣が持ってるの……」


 鬼丸は転びながら2人の元に近づいて来た。


「ちょっ、誰かは知らんけど! こいつ本能で動いてるタイプだから!」


 その隙にも、怪人は鬼丸に襲いかかり、鬼丸は剣で爪を防ぐ。


「あら、あなたも持ってるのね」

「「……へ?」」


 由香は指を鳴らしてこう言った。


「コルトス」


 すると、マンホールの蓋を取ってメイドが現れた。

 水色の髪に白いブリムをつけ、ミニスカートのメイド服で黒いタイツを履き、黒いローファーを履いている。


「由香様、呼びましたか?」

「うん、じゃお願いね」

「かしこまりました」


 コルトスはそう言うと、青く光り、銃に変身した。

 水色がかったシルバーで、オートマチック式の銃であり、 銃身が少し長めになっている。


「コッ、コルちゃん!?」


 フレアは驚いた。


「何? 知ってんの?」


 怪人は3人に襲いかかるが、由香は冷静に銃を右手で持ち、銃弾を3発放つ。

 怪人の胴に3発命中し、さらに由香は淡々と怪人に向けて銃を連射する。

 怪人は地面に倒れると、由香は上に跨り、怪人の顔面に手を当てる。

 すると、そこから怪人は石化し始め、完全に石像へ変わり果てた。

 そして、由香は銃のマガジンを取り出し、別のを差し込む。


「魔獣に眠りを《チェックメイト》」


 由香が引き金を引くと、大きな衝撃か周りに走り、石像は完全に砕け散っていた。


「終わった……」


 由香は人間の姿になり、コルトスもまた元の姿に戻った。

 3人もそれぞれ元の姿に戻り、鬼丸は聞いた。


「なんなんだあんた達?」

「それはこっちのセリフよ。なんでその子と居るのよ」


 結衣は少し強めに聞いた。


「えっ、まぁあのその、成り行きで……」

「もしかしてあんた、焔を……」

「えっ焔知ってるのか?」

「知ってるも何も……焔とは……幼なじみだもん」

「へぇ……」


 その時、鬼丸に流れる、謎の記憶。

 焔と結衣の熱い熱い、デートの記憶。

 そして鬼丸は小指を立てて納得する。


「ああ、そう言う関係か」

「そんな事よりも、なんであなたがフレアといるのよ! あなたも焔と一緒に戦うんじゃなかったの?!」


 結衣は少し感情的に訴えた。


「あ、あの……その……」


 フレアが言葉につまると、鬼丸が弁解してくれた。


「えーっとだな、彼女君? なんか食い違い起きてるな……」

「何よあなた、そもそもなんなのよあなた、魔獣じゃないの」

「それはあんたもだろ。今焔はな、大変なんだよ。だから今は俺が代理って訳」

「……焔が、焔に何があったの?」

「……なんというか、言っていいのかな、フレア」


 フレアは首を縦に振る。


「……魔獣……になった」

「え……」


 結衣はあの時の言葉を思い返した。

 あの時、焔は魔獣では無いといった。

 なら、あの後、誰かが。

 


「誰がやったの……」

「え? いやそれは……」

「焔は……人間だったの……」

「えっそうだとしたら……最近?」

「そう……なる」


 結衣は1人だけ焔を殺したと思う人を見つけた。


「ねぇ、犬飼って人。しってる?」

「あ、まぁ……」

「どこにいるか……わかる?」

「まぁ、知ってるけど」

「教えて」

「えっ」

「今すぐ!」


 鬼気迫る声に鬼丸も流石に驚いた。


「め、メモリアって言う喫茶店に居ると思うんだけど……」


 結衣はそれを聞くと、返事もせずに走り出した。

 しかし、その目の前にフレアが立ち止まる。


「何よ! どきなさいよ!」

「違う、犬飼君は殺してなんか無い」

「そんな訳無いでしょ! あいつは……私に……焔を殺させようとした男よ! 信用出来ない」

「それは、焔を楽にしたかったんだと思う」

「楽に……?」


 フレアはあの時の事を話した。

 焔が、烏丸だった、あの時の事を。


「……そうか」

「……わかった?」

「でも、どうするの? 焔は行方不明だし、青空の人達もいつ襲ってくるかも分からないし」

「だから、今探してるのよ……焔を」


 それを聞いて、結衣は由香に頼み込んだ。


「由香さん、少し別行動とっていいですか?」


 話が終わったので煙草で一服していた由香は口に加えていた煙草を外して答えた。


「ん? 良いけど」

「フレア……ちゃんでいいかな。私も手伝うよ」

「え……ありがとう」

「それじゃあ、結衣ちゃん。私達はパトロールしてるから、なんかあったら連絡しなさい」

「はい」


 由香は、車に乗り、そのまま走り出して行った。


 鬼丸はその車が消えるまでずっと見ていた。


「あんた、なんでそんなに車見てるのよ」


 結衣が聞く。


「いや、あの人……綺麗だな……って」

「あぁ……」

「由香さんかぁ……」

「ところであなた名前は? 私は霧峰結衣」

「覇道鬼丸。ただメモリアで働いてる魔獣だよ」


 結衣はよく魔獣なんて働かせてるなと思ったが、店長である雄一の顔を思い浮かべてみて、少し納得はした。


「誰でも雇いそうだな……」


 すると、真由美が現れ結衣に挨拶をした。


「魔獣の平坂真由美です。よろしくお願いします」

「ゆ……幽霊? どうも、霧峰結衣です」


 結衣は少し驚きつつも、挨拶を返した。


「焔君はこっちですね」


 4人は商店街に戻り、反対の方の交差点に出て、焔の元へ向かった。



 その頃、焔は。

 大山組の庭で魔獣の姿になり、陽炎と交戦していた。

 陽炎は死神が持つような大鎌を持ち、それで焔の鋭い爪の斬撃を弾いていた。

 その鎌はジェニーが変化したものであり、陽炎は扱うのに手馴れているようだ。


「俺の妹に、手を出したなら。やるしかない」


 焔は雄叫びをあげ、周りに火球を放つ。

 小町は部屋で怯えていた。

 陽炎は鎌を振り上げ、焔の腕を切り落とす。

 しかし、焔の腕はすぐに再生し、陽炎の腹に鋭い拳を放ち、陽炎は吐血する。

 倒れた陽炎に、焔は追い打ちをかけるように肘打ちを放つ。

 陽炎は背骨にヒビが入るのを感じた。


「どうした? 死ぬの?」


 ジェニーが冗談まじりに言う。


「死ぬか……小町は……俺が守ると決めたんだ……たとえ、であろうと……俺は!」


 陽炎が立ち上がろうとしたその時、口から血が多く出てきた。

 さっきの攻撃出でるような量の血では無く、目の前に血の水溜まりが出来ていた。


「もうそろそろ、死ぬよー?」

「三幸……お前を止めるまで……死ぬ訳には」


 鎌を持つ手は震え、腕の力も入る気がしない。

 焔は暴走する意識の中、そんな陽炎の姿を見て、言った。


「逃げ……ろ」


 焔はひざまづき、苦しみ始めた。

 本能が理性を蹂躙する。

 本当はこんな事などしたくない。

 戦いたくない。

 それなのに、本能は命を奪う事しか考えていない。


「三幸……お前は、なんなんだ。魔獣でありながら……人を殺したくないのか……」

「……に、逃げ……ろ」


 陽炎は血だらけの手で、鎌を持つ。


「人を殺したくないのなら……逃れる方法はただ一つだけだ、焔三幸……


 陽炎は鎌を振り上げた。

 その時、陽炎の心臓は。




 小町は庭で戦っている音が聞こえなくなったので、庭に出てみた。

 庭に生えていた松や灯篭は壊され、火が少しついていた。

 そして真ん中には、胸に風穴が空いた陽炎と、右手を真っ赤な血で染めた、焔がいた。

 小町はその衝撃的な光景を見て、気を失った。

 意識が消えゆく中、小町は他の大山組の人達の声が聞こえた。



 2日後。

 結局、霧峰結衣達4人はあの日、焔三幸を見つけられなかった。

 結衣を除く3人は、メモリアに戻り、焔の行方を調べたが、それらしい物は無かった。

 結衣はまた小津署に戻り、また捜査に戻るらしい。

 真由美は古いラジオに取り憑いて、とりあえずラジオに流れる歌を歌っていた。

 客にコーヒーを入れながら、フレアは憂鬱を感じていた。


「……焔」


 あの日からだった。

 ちょっと鼻に引っかかるような奴ではあるが、人想いの良い奴だった。

 焔の事は相棒と思っていたが、それがいつからか、こんなに彼の事しか考えられなくなっていたのだろう。


「ああちょっとフレア! コーヒー! コーヒー!」


 気がつくと、コーヒーが溢れていたのに気づき、慌てて入れるのをやめた。


「どうした? 大丈夫」

「え、ええ。なんでもない」

「何?、焔の事?」


 鬼丸が聞くと、フレアは首を横に振った。

 しかし、顔は少し赤らめている。

 このよく分からない感情に、フレアは困惑していた。

 ちなみに、2階では犬飼とルナとくいなが3人でゲームをしていた。

 聞こえる声からして犬飼はゲームが苦手らしい。

 くいなの心の傷が少しでも癒えればそれで良いと雄一は思う。


 そんな時、1人の男がメモリアに駆け込んで来た。


「あの! ここに犬飼裕二って男居ますか?」


 その男は汗だくで焦っているのがひと目でわかる。

 息も荒く、かなり走っていたようだ。


「あ、まぁ、居ますけど」

「その人にこれを!」


 それはDVDだった。


「え、まぁわかりました」

「早く!」


 男は焦りながら腕につけていたブレスレットを見ていた。

 そのブレスレットにはタイマーがついており、刻々と時間が減っており、残り30秒だった。

 男はスマホを持って、ある人に電話をかけていた。


「これでいいんだろ?! なぁ!」


 しかし、全く返事は来なかった。


「あの……大丈夫ですか?」


 男は鬼丸の言葉を無視して電話をする。

 その時、ブレスレットのタイマーがゼロになり、音が鳴り響いた。

 その瞬間、男の体は突如発火し、全身火だるまとかした。

 男はそのまま灰となり、燃え尽きた。


「なんだ……これ」


 その場に居た客は少ないものの、その奇妙に光景に恐れ、早急に勘定を済ませて出ていってしまった。



「……ありがとうございました」


 鬼丸はとりあえず挨拶をして、片付けをして、上から犬飼を呼んだ。

 フレアは驚いて、何も動けなかった。


「犬飼ー! なんか来てる」

「……DVD?」


 犬飼は早速DVDをプレイヤーに入れた。

 するとそこにはどこかの採石場だった。

 そして真ん中には十字架に貼り付けられたカリスがいた。

 顔には血がついており、服装もボロボロだったので、何かされたというのがひと目でわかる。


「カリス!」


 すると、白いスーツに白いソフト帽を被った男が、映像に現れた。


「犬飼裕二、君の彼女は貰った。返したければ、この映像が送られた3日後に、この小津採石場おづさいせきじょうに来い、来なかったら……この子の命は無い」


 映像はそこで終わった。


 犬飼は机を叩き、しばらく沈黙した。


「野郎……」


 鬼丸は聞いた。


「誰か知ってるのか?」

「アポロ……前にカリスを狙ってた奴だ……」

「……強いの?」

「そりゃ、通り名が『太陽の殺し屋』だからな……」

「殺し屋……ってまじ?」

「ああ、平気で人を殺す魔獣だよ」

「どうすんだよ。行くのか? そんなやつを倒しに」

「俺の過去にケリつけなきゃな。むしろ好都合かもしれねぇ……」


 すると、ルナが犬飼の肩を叩いた。


「行っていいよ、私もあの時はあんまり力になれなかったし」

「……そっか、あの日が初めてか。ルナと一緒に戦ったのは」

「そうよ」


 犬飼は立つと、両手の骨を鳴らし気合いを入れた。


「俺はもう昔の俺じゃねぇ……」






 その頃、焔は。

 三河由香に銃口を向けられていた。

 どうやら大山組の件で通報されたらしく、そこで由香に会ったらしい。

 パトカーの傍には、八咫烏と結衣が


「あなた、どういうつもり」


 焔の周りには負傷して、倒れた警官隊が散らかっていた。


「返答次第なら、私はこの引き金を引く」

「……目の前から……いなくなって……くれ」


 その声に結衣は聞き覚えがあった。

 幼い時、両親を亡くして、泣いていた時、話しかけてくれた。

 あの。


「焔! 焔なの!」

「えっ、知ってるの?」


 八咫烏が聞くと、結衣はすぐに頷いた。


「私だよ、結衣だよ!」

「……結衣……逃げろ」

「何言ってるの! そんなのやだよ! 焔は! 私にとって!」


 その言葉を遮るように、焔は雄叫びを上げ、火球を出した。

 それと同時に銃声がその場に鳴り響いた。

 To Be Continued



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