46 堕天使

「堕天使ソロネだ」

「眠りの堕天使、スヤリスよ。よろしくね!」

「鳥の堕天使……アラエル」


 堕天使の3人が、村のみんなの前で挨拶をします。


 ソロネはバレンタインに泣かされた結果、なぜこんな思いをしてまで人の願いを叶えないといけないのか疑問に思ったそうです。


 スヤリスはヤニムに興味津々で人の願いを叶えるよりもそっちが優先なようです。


 アラエルは……多分願いよりもアーさんとの戦いに固執してる様ですね。


 なんでこの3人が自己紹介をしているのかと言うと、新たにこの村に住むことが決まったからです。

 みんなを攻撃したので、私としては反対したのですが、なぜか村人たちはみんな許すというので住んでもらうことにしました。


 ここを追い出されると、天界にも戻れない彼らは行き場を失いますから。そこを気にした村人が多かったみたいです。みんないい子ですね。


 とくに、アダムは積極的に賛成していました。


 いい子ですね。ちゃんとよしよししてあげました。 


「「「よろしくお願いします」」」


 はい。皆さんよろしくお願いします。そろそろ雪も解けて春になりますし、色々な仕事が出てきます。自分に合った仕事を見つけて、早く村になじめるといいですね。


 私ですか? 私はだいぶ働いたのでしばらくお休みです。ちゃんとやらなければならない仕事はやりますけどね。


 とりあえず、残り少ない時間しか味わえないコタツに入りに行きましょう。


「アダム、家に帰りましょう。今日は私がご飯を作ります! アーさんも来ませんか?」

「なら、一度マーガレット城に戻って酒を取ってくるとしよう」

「さすがアーさん。わかってますね」


 お酒と言っても、だんだん備蓄が減ってます。もともとブッチャー団の持っていたものや、ラムさんと取引して手に入れるというのがお酒の入手方法ですが、お祭りなどで振る舞うことが多いので減ってきてます。


 それを知ってか、悪魔たちは最近お酒作りにも挑戦してるみたいです。結果がとても楽しみですが、かなり苦戦してるみたいですね。


「フェンも来ませんか?」

「シラユキと子供たちを連れてってもいいか?」

「もちろんですよ。大歓迎です」


 もふもふパラダイスです。ニヤついてしまいますね。


 いやいや、アダムを蔑ろになんてしてませんよ。よしよし。ん? ヨシヨシだけじゃ足りないですか。


 可愛い子ですね。抱きしめてあげます。むぎゅー。


「えへへ」

「可愛い子ですね。アダム、改めてですが、村を守ってくれてありがとうございます」

「お母さんがいない間は、僕がみんなを代わりに守らないとって思ったんだ」


 ……本当にいい子です。まだ、親子の関係になってからの時間は短いですが、この子は私の子供だと思えます。


 けど、私がやるべき役目をこの子に任せてしまったことは私の反省しなければならない所であるのは間違いありません。


「よし、家まで抱っこしてあげましょう」

「やったー! ……あ、けど、自分で歩いてもいい?」


 アダムが少し恥ずかしそうに降ります。どうしたんでしょう? あ、わかりました。みんなが見てるからですね。うぅ……とても可愛いです。


「それじゃあ、家に行きましょうか」


 家に着いて、まず行うことはこたつの電源を入れることです。あと、みかんを出しておきましょう。

 フェンやアーさんはあとから来るので、それまでにある程度食事の準備をしたいですね。


「お母さん、料理するの珍しいね」

「あまり得意では無いですからね。ただ、今日は自信があります」

「メニューは?」

「ずばり、カレーです!」


 少し前にラムさんから聞いた料理です。本格的に作るとなるとかなり大変だそうですが、魔界では工程を簡略化してくれるものがあるみたいです。 


 こっそり貰ったのが家に保存されてます。


「この固形にもとまったものを使うんですよ。アダムにも少し手伝ってもらいましょうか」

「うん! 何をすればいい?」

「じゃあこの野菜を少し大きめに切り分けてください」


 アダムはすぐさま野菜を浮かべて、魔法で切り刻んでいきます。簡単にやっていますが、細かい魔力操作を会得していないと出来ないことですね。


「あ、皮は落としましょう」

「わかったー」


 はい。ありがとうございます。いい感じですね。


 それじゃあ軽く出汁をとった鍋に野菜をいれて、ラムさんからもらった固形のルーというやつをいれて、混ぜます。


「……なんか、すごいいい匂いがする!」

「ほんとですね。すごく美味しそうです」


 鼻腔をくすぐる……いや、食欲を直接刺激されてるような感覚ですね。これは味が楽しみです。


「少しの間煮込みましょう。そのあと味を微調整して完成です」


 そうしていると、どうやらアーさん達が来たみたいです。アダムに出迎えをお願いして家に招き入れます。


 フェンとシラユキは小さくなってますよ。それでも、ファオランやシランを背中に乗せれる大きさはありますが。


 二匹の子犬はまだ喋れませんが、無闇矢鱈に声に魔力を載せることはなくなったようです。家が破壊されることはありませんね。


 元気が有り余っているのか、すぐさまアダムに飛びついて遊び始めました。


「お疲れ様です、フェン、シラユキ」

「ありがとう、主よ」

「いえ……あの、子供が生まれてまもないのに、危険な目に遭わせてしまったことを謝りたいんです」


 村のみんなに謝って回りたい事です。村を守るというのが私の役目なのに、結局はみんなに村を守らせてしまいました。


「謝る必要は無い、主よ。村は襲われたが、結局はこうして平和な日々を取り戻せている。魔界ではこうは行かなかっただろう」


 フェンは本当に気にしていないという様子で私の膝に頭を乗せてきます。はい、もちろん撫でますよ。フェンは撫でてもあまり反応しませんが、気持ちいいところは知っています。


「……それにな、主よ。我は主に仕える身だ。主が謝るというのならば、我も一緒にあやまろう」

「フェン……」

「だから、主が今回のことで責任を感じているのならば、我も一緒に次にどうすれば良いのか考えてみる」


 いい子ですね。フェンも。思わずぎゅっとしてしまいます。


 フェンを抱きしめてもふもふしていると、膝になんだか鋭い感触を覚えます。


 シラユキの前足です。え、痛いです。爪くい込んでません?!


 びっくりしてフェンを離すと、シラユキはフェンの首を甘噛みしてひきずっていきます。すごい迫力です。


「ち、違うのだシラユキよ! 話せばわかる!」


 焦るフェンはそのまま庭の方へと連れていかれました。


「……シラユキを怒らせてしまいました」


 そうですよね。旦那さんが、他種族とはいえほかの女の人に抱かれているのは許容できないですよね。


「そんな深刻なものでは無いと思うぞ? 子供が生まれ、夫婦だけの時間が少なかったから、少し甘えたいのだろう」

「なんか、経験豊富な感じの物言いですねアーさん」

「我にも色々あったのだ」


 なんか、少しアーさんがカッコつけてます。悪魔たちの恋愛事情……ちょっと気になりますね。


「にしても、いい匂いだな。これはカレーか?」

「知っているんですか?」

「魔界で見かけたことがある。食べるのは初めてだ」


 じゃあみんな初めてですね。そろそろ煮込みも終わりましたし、味見してみましょう。


 んー! 美味しいです。新鮮な刺激ですね。だけど少々甘みが足りないような? カブさんの蜜を入れれば……うわ、ばっちりです。


「みんな、出来ましたよ!」


 さぁ、食べましょう!

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