19 フェンの昔話

「平和ですねー」


 悪魔と人間、エルフの子供達が種族の分け隔てなく遊んでいる光景を眺めているだけで、一日を過ごせそうです。


 あ、バレンタインがイタズラを計画していますね。アーさんを落とし穴に落とす作戦ですか……子供と言っても、エルフや悪魔の子供は魔法を使えますから割と本気の落とし穴です。アーさん、気付けますか?


 簡単に見破りましたね。ですが罠と知って尚引っかかってあげるアーさん、優しいです。


「やはり、平和ですね」


 ちなみに、ルールーがつれてきた人材は多種多様な能力を持った人が多く、生活の質というか、文化の質が上がりました。

 楽器演奏も行われてますし、建築の質、服装の質、料理の質も上がってます。なにより、紙の作り方を知ってる人と、書式の設定などに経験のある人が来てくれたのがとても有難いです。

 文官になりつつあるエルフが紙のありがたさに感動してました。


「この前名簿を見せてもらいましたが、500人以上がこの地に住んでますから驚きです」


 悪魔もどんどん増えてますし……あ、ちなみにマーガレット城とかいうふざけた名前の城には私ではなくアーさんが住んでます。

 私が住むように言われましたが、絶対に嫌だと拒否しました。アーさんも最初は嫌がりましたが、玉座に一度座った後は満更でも無い様子でした。

 多分、ああいうのが好きなんでしょうね、アーさん。


「よし、今日は何をしてのんびりしましょうか」


 私がしなければならない仕事はないので、今日も今日とてのんびり過ごします。久しぶりにアーさんと何かしましょうか?

 いや……ここはフェンと何かしましょう。あまり、二人きりで何かすることは最近なかったですから。


「フェン、久しぶりに何かしませんか」

「主か。どうしたのだ、暇なのか? いや、主はいつでも暇か」


 いつでも暇です。それをめざしていましたから。にしても、フェンが暇そうにしてるのは珍しいですね。


「人が増えて、わざわざ我が狩りをしなくてもよくなったから、暇なことが増えたのだ」

「なるほど。じゃあ尚更なにかしましょう。なにします?」

「む……いざ聞かれると思いつかないものだな」


 フェンも特にしたいことがないようです。私も考えますが、とりあえずはフェンのもふもふに身体を埋めましょう。もふもふー。


「そういえば、フェンは魔狼という種族なんですよね?」

「そうだが……」

「魔狼って魔界には沢山いるんですか?」


 あんまり、聞いたことないんですよね。聖女なので魔界の知識というのは得る機会が多いのですが、魔狼はほとんど聞きません。

 特にすることもないですし、今日はフェンの事を知る日にしましょう。


「……そうだな、魔狼という種族は魔界の中でも少ない。それは、群れを作らず孤高を選ぶ魔狼の性格に起因している」


 フェンは今大きな群れに属していますが、そこはいいんでしょうか?


「我は少し変わっていたからな。魔狼は群れを作らない、生まれた子供も直ぐに放り投げて強さを求める旅に戻る。それが当たり前なのだ」

「寂しいですね」

「ふっ、我もそう思う。強さを求める魔狼は、旅を重ね戦いの経験を積む事に強くなっていく。そして強くなればなるほど、魔狼という種族は進化していく」


 進化、魔界の生き物はごく短期間の間で進化を行うことが出来るそうです。私が魔力をあげたときに悪魔たちが進化したのも同じです。


「我は、そんな中で戦いを望むことはあまりなかった。それよりも群れというものへの興味すらあった。他種族の群れに混ざったこともある。まぁ、上手くは行かなったがな」


 フェンは少し悲しそうな声でそう言います。撫でてあげましょう。もふもふー。


「……群れには馴染めず、なんだかんだで他の魔狼と同じように旅をしていた時、一匹の魔狼に出会った。魔狼として最高峰の進化を遂げた個体のひとつ、神狼と呼ばれる個体だ」


 神狼、なんかそれは聞き覚えがあるような?


「我は神狼と話をした。それはもう色々とな。神狼は、我にどう生きろとは言わなかったが、魔狼として生きているのならば好きに生きるのが定めだと言われた。そして、神狼と別れてすぐ、巨大な群れを作る人間という種族を見にこの世界にやってきたのだ」

「そこで私と出会ったと」

「そうだ。まさか簡単に契約魔法を結ばされるとは思わなかったがな」


 くくくとフェンは楽しそうに笑います。あの時は、もふもふに目がくらみました。ですが今こうしてフェンと仲良く過ごせているので、結果オーライというやつですね。


「我の出自はそんなものだ、どうだ? 暇はつぶせたか主よ」

「とても面白かったですよ。ちなみに、今は他種族の入り乱れる群れに属しているわけですが……どうですか?」

「聞くまでもない。我はとても楽しい」

「そうですか、私と一緒ですね。これからもよろしくお願いします、フェン」

「こちらこそよろしく頼むぞ、主よ」

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