治癒と治癒用ホムンクルス


 梨花の手と足はまるで何かに奪われたかのように綺麗に無くなっていた。

 恐らくは四肢を神に捧げることで自身の限界を超えた才能ギフテッドの力を行使したのだろう。

 慣れていない才能ギフテッドの行使を行う時にはよくあることだ。

 例えば才能ギフテッドに目覚めたばかりの子供には多い。

 だからこそ治療法がないわけではない。

 魔法都市クストリエなら可能だろう。

 ただしこの状態の梨花を担ぎ、山を2つと砂漠を超えるという無理難題をクリアすればだが。

 ヨルの姿が消え、セシアも行方を眩ました今俺1人でどうにかしなければならない。


「……次元の狭間ディメンションウォールを使えないか?」


 俺はふと思いつく。

 次元の狭間ディメンションウォールを使えればこの状態の梨花を背負ってでも移動は可能だ。

 問題は座標の指定が難しいことと神の襲撃を俺1人で退けることができるかわからない点にある。

 

「ダメだ。考えれば考えるほど次元の狭間ディメンションウォールを通るのは現実的じゃないな」

「お困りのようですね」


 ふと背後から聞き覚えのある声が聞こえる。

 だが、そんなことはあり得ないはずだ。

 だってこの声の持ち主は……。


「エリシア!」

「残念ながらフィオはエリシア姉さんではありません。フィオはタイプX5-10フィオです」

「……ってことはまあ俺達の前に立ちはだかる敵ってことか?」


 俺は子供のように身長が低い銀の髪をしたホムンクルスに向け、殺意を剥き出しにして威嚇のように使う。

 今襲われたら才能ギフテッドも使えず、梨花を担いで逃げなければならない。

 しかもエリシアやセシアと同じ系統ということは人造勇者。

 叡智の書アカシックレコードを持っているであろうホムンクルスから逃げ切るのは不可能だ。

 俺はフィオからの返答を待つ。

 返答次第では全力で逃げることも考慮して。


「いえ、フィオはセシア姉さんの回収とエリシア姉さんを埋葬してくれた勇者に感謝を伝えにきたのです」

「セシアを回収……?」

「えぇ。セシア姉さんは人造勇者として聖女マリーに造られた存在ですが、体を弄られすぎました。あれでは通常のホムンクルスの半分以下の寿命しかないでしょう。だから治癒が必要なんです」

「治療? ホムンクルスがホムンクルスを治すのか」

「機密事項ですが、エリシア姉さんを弔ってくれた貴方にならいいでしょう。人造勇者は本来は軍隊のようにセットで動くものです。つまり負傷した際、それを治癒する衛生兵も必要になりますよね?」

「それはそうだな」


 本来の運用が軍隊のように動くのであれば軍医となる役割、戦闘をこなす役割など別れていないとおかしい。

 ならフィオというホムンクルスはそういう役割なのかと俺は心の中で納得する。


「それで医療用のホムンクルスがなんでわざわざ俺に声をかけた? セシアを探し出して終わりじゃダメだったのか?」

「さきほども言いましたが、エリシア姉さんを弔っていただいたことにフィオは感謝しているんです。姉妹の中で一番仲が良かったんですから」

「そうか……。俺の方こそ守ってやれなくてすまなかった」


 俺は頭を下げる。

 人間に下げる頭なんてもう持ち合わせていないが、ホムンクルスになら下げられる。

 それにエリシアを殺してしまったのは俺のミスだ。

 あの時、1人にしなければ。

 未だにそんな後悔に苛まれる。


「頭をあげてください。貴方には協力して欲しいこともありますし」

「なんだ? 俺は今こいつを治療の為に魔法都市クストリエに連れて行かないといけないんだが」

「それも合わせてです。セシア姉さんの行方を探っていたのですが、偶然魔法都市クストリエを目指しているようなんです」

「つまりフィオと一緒にセシアを探しながら魔法都市クストリエを目指すということか?」

「理解が早くて助かります。そこの娘は私が背負いましょう。貴方、名前は?」

「零とでも呼んでくれ」

「わかりました。フィオは先頭では全く役に立ちませんが、それ以外では全てをこなせます。なので存分に頼っていただければと」

「待て! まだ一緒に行くなんて言ってないだろ」

「いえ、零さんにはそれしか選択肢がないはずですよ?」


 コテンと首を傾げるフィオ。

 不思議と身体の大きさにそぐわない威圧感がある。

 恐らくフィオの言う通り俺に残された選択肢はフィオと一緒に魔法都市クストリエを目指すことなのだろう。

 だが、いくら戦闘用のホムンクルスでないにしてもいつ寝首をかかれるかわからない。

 

「……わかった。ただし寝床は分けることが条件だ」

「えーと零さん。フィオも女の子なんですから初めから寝床は分けるつもりでしたよ? まさか零さんこんな幼いフィオの体に発情するなんて『ろりこん』ってやつなんですか?」

「違う。初めからその気ならそれでいい。とりあえず早くここを離れるぞ」


 俺は渋々承諾する。

 どうやら俺はホムンクルスに好かれる体質らしい。

 何やらいらぬ勘違いをフィオはしているようだが、後々誤解は解けばいいだろう。

 俺とフィオ、そして梨花は魔法都市クストリエを目指すことになった。

 王都を滅ぼすのは梨花が完治してからだ。

 


——

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