魔王の娘と工房

「ふーん。ラバン君、いや零はそんな理由で復讐してるんだ……」

「まあな。梨花こそなんで魔族なのに聖騎士団なんかに居たんだ?」

「んー、私元々この世界の住人じゃないのよ。死んだと思って気がついたら魔王の娘になってた。そしてご存知の通り、魔王グラン、父さんは勇者エルガーに殺された。梨花っていう名前は私がこの世界に来る前の名前なの」

「そんなことがあるのか……。待て、ということは梨花は魔王の娘ってことか!?」

「そうなるね。こんな見た目でも年齢は100超えてんだぞ? 敬え?」


 俺は驚きのあまり声を失う。

 魔王なんて生き物は俺達の年代からしたら伝説上の存在でしかない。

 本人ではないとはいえ、本人の身内と直接話せる機会があるなんて。


「零君、どうしたの? 言葉失ってるみたいだけど」

「逆に聞くがその話を聞いて驚かない奴がいるのか?」

「まあいないね。例外なく逃げられるか零君みたいにポカーンとするかの2択だよ」

「それで梨花は何をしたくて俺についてくるんだ? まさか今更人間に復讐か?」

「まさか。今更人間にどうのって言うつもりはないよ。実際、魔王は人間に殺されても文句は言えないことをやってたわけだしね。私は私がこの世界に飛ばされた意味を知りたいんだ」

「意味?」

「そう、何か意味や役割があって私はこの世界に呼ばれたと思うんだよね。だからそれを見つける。それが私の目標。ついでに零君の復習も手伝ってあげるよ。これでも強いからね」

「その代わり協力しろってことか?」

「せいかーい。お互い損はないと思うけど?」

「わかった。いいだろう。ただし正体がバレるようなことはするなよ」


 こうして改めて俺は梨花と旅に出ることを決めた。


◆◆◆


「愚図、あれはそろそろ完成しましたか?」


 今日は聖女マリー様が来訪される日だ。

 この日の為に黒焦げの死体をなんとか才能ギフテッドで命を戻し、別の体へと移し替えた。

 丁度、数ヶ月前に人造勇者を製造する施設が壊されそこの生き残りを私が引き取っていたものだ。


「こちらに。ただやはりと言うべきですか、ホムンクルスの状態が芳しくなく全盛期の力は出しきれないかと……」

「それでいいのです。魂さえ移し替えれれば元より能力など気にはしません」

「ではこれでお納めください。代金は」

「いつものようにギルドへ預けておきます。それでこれの名前は?」

「魂を移し替えた時はアレンと名乗っておりました。最も今はタイプX5-5エリシアの姉妹として製造されたX5-6セシアとなってますが」

「アレン……。何処かで聞き覚えがあるような気がしますが……」


 そんなやり取りをした後聖女様はホムンクルスを持って帰られた。

 私は仕事がひと段落したことにホッと息を吐く。

 もし失敗していたら私だけではなく家族の命まで取られていただろうから。

 コツコツと誰かが階段を降りてくる音が聞こえる。

 聖女様が何か伝えそびれたのかと思い、ノックされた扉に手をかけたその時、私の手は無くなっていた。


◆◆◆


「とりあえず今日は人造勇者のホムンクルスを保管している地下工房を叩く」

「確かエリシアって子の頼みなんだよね。いいよ。作戦は?」

「簡単だ。中に入って全部壊せばいい。閉じこもられたら土魔法で入り口を蓋して仕舞えば出てこれないだろうしな」

「えぐいこと思いつくね……。その発想を私に試される前に団長と敵対して正解だったかも……」


 何故か梨花が震えているが気にせずに話を進める。

 そしてホムンクルスの破壊を梨花が、工房にいるであろう持ち主を俺が担当することになった。


◆◆◆


 地下へと降りた俺達はノックして所在を確かめる。


「はい。——様ですか?」


 声は少女のものだ。

 恐らく成人はしていない。

 俺は扉が少し開いた瞬間を見逃さず、腕を切り落とし梨花と共に工房へと押し入る。


「ぐっ……。賊ですか」

「さあね。俺はお前が人造勇者のホムンクルスを所有していると聞いたんだが」

「さぁどうでしょうね」

「その腕、話せば治してやるぞ?」

「嫌です。元よりもうこの工房にはホムンクルスはないですから」

「何? 誰に渡した?」

「それはいえないです」

「そうか。じゃあこの工房と共に死んでもらおう」


 俺は梨花に退避を指示して魔法を詠唱する。


『焔と土の神よ 我が願いを聞き届け どうかこのモノを罰する力を』

炎と土の演舞ファイアーサンドダンス


 みるみるうちに工房が崩れ落ちてゆく。

 初めは聞こえていた少女の悲鳴も徐々に遠くなっていく。

 大人しく話してくれればこんなことはせずに済んだのにと俺は心の中で思う。

 助けはできないが、殺す順序を下げることは少なくともできた。

 俺は複雑な気持ちで現場を後にした。


——

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