聖騎士団へ

 金魚の糞であるエルを殺した後、俺は王城から目と鼻の先にある聖騎士達の寝床へと足を踏み入れていた。

 敵情視察をするだけなら別にここまで来る必要はなかったのだが、俺自身は聖騎士とは戦ったことがない。

 だからこそ直接この目で聖騎士の長である聖騎士長マルコスの実力を見たくなった。


◆◆◆


 変装魔法と変声魔法を使い、騎士団の試験に合格した俺は聖騎士団への転属を申し出た。


「君が今日から体験で騎士団の方に配属されたか」

「は、はい!」


 目の前に立つだけで圧倒的なプレッシャー感じる。

 もしかしたら俺の浅はかな計画なんて全てバレてるんじゃないか。

 思わずそう考えてしまうほどの圧だ。


「それで騎士団に配属された君が聖騎士団への転属を希望したのは何故かな? 僕達聖騎士団は近々大きな作戦がある。新人を教育している余裕はないんだけど」

「その大きな作戦に参加させていただきたいから——というのは建前で本当は今代の勇者と戦ってみたいんですよ。こう見えても俺強いので」

「ほう。じゃあここで試してみるかい?」


 刹那、聖騎士団長の雰囲気がさらに険しいものに変わる。

 俺は気絶しそうになっている意識をなんとか戻し、マルコスを睨み返す。

 そのまま数分、お互い動かずに視線で牽制し合う。

 どちらかが間合いに入れば容赦なくお互い剣を抜き、一閃するだろう。


「合格だ。ラバン君、今日から聖騎士団の演習に参加する様に」

「ありがとうございます」


 どうやら無事に聖騎士団に入ることを認められたらしい。

 あのまま睨み合いに続ければ痺れを切らしていたのは多分俺だ。

 

◆◆◆


「君がラバン君?」


 演習場へ移動した俺は突然後ろからかけられた声に警戒する。

 思わず腰にさしてある剣に手をかけるほどに。


「あはは。そんな警戒しないでよ。私達今日から仲間っしょ?」


 そこに立っていたのは茶髪で小柄な女性だった。

 腰にさしている獲物はダガーだ。


「すいません。元々魔族に襲われた村出身なもので……」

「あーなるほど。私は梨花よろしく」


 彼女から差し出された手を取り、握手をする。

 手からは強者であるという雰囲気は伝わってこない。

 剣をそれほど降っていないのか、それとも戦い方が特殊なのか。

 いや才能ギフテッドが特殊という線もある。

 


「怖い顔しちゃってどうしたの? 私の顔何かついてる?」

「いえ、あまりに綺麗な髪だったんで見惚れちゃいました」

「ふーん、まあいいか。演習場の側に男性用の更衣室あるから着替えてきて。一本私とやろうよ」


 願ってもない申し出だ。

 正直彼女はこの後、聖騎士団とやりあう時に障壁になる気がしてならない。

 出会った時から嫌な予感がずっとしている。


◆◆◆


「おっきたねー。それで実践形式と模擬戦どっちがいい?               

勿論、どっちでも死なないようにはするから安心して」

「実践形式でお願いします。魔法はありですか?」

「ラバン君、魔法使えるの?」


 梨花が驚くのも無理はない。

 魔法は才能ギフテッドによるモノであり、魔法が使えるということは剣の才能ギフテッドがないということになる。

 だから通常騎士団や聖騎士団を受ける人は魔法を使えない。


「てことは複数の才能ギフテッド持ちか。燃えるねー!」

「そこまで期待はしないでくださいね。魔法剣士なんて器用貧乏なだけですから」


◆◆◆


 開始の合図と同時に梨花がダガーを抜き、こちらへと投げつけてくる。

 軌道はそのまま真っ直ぐと単純だ。

 これは簡単に避けられる。

 それに得物を投げたということは梨花はもう武器を持ってない。

 俺はダガーを避け、梨花の方へ走って近づき剣を振ろうと構える。

 瞬間、梨花の口から言葉が発せられた。


『曲がれ』


 その一言でダガーは俺の方向へと追尾するような軌道を描き

 咄嗟の判断で体を捻り、ダガーの追撃から逃れる。


「驚いた。今の初見で避けれたの団長ぐらいだよ? 君何者?」

「昔から不意打ちされることが多かったモノで!」


 俺は捻った体をそのままダガーの方向へと向け、魔法を詠唱する。


『土の魔力よ 重力を使い 我にあだなす脅威を落とせ!』


磁力の壁マグネットウォール!》


 ダガーは鉄でできていた。

 だからそれを磁力で引き寄せて仕舞えばダガーの動きは止められる。

 

「読みは良かったね。だけどごめん。君じゃまだ届かないよ」


 不意に後ろから聞こえた声に俺は振り向く。

 そこにはいつの間にか俺に接近し、大剣を振り翳している梨花が居た。

 警戒はしていたはずだ。

 俺はなんとか大剣を一撃受け止める。

 だが、梨花の猛攻は止まらない。

 ゴンと鈍い音を立てながら俺を徐々に演習場の端へと追い詰めていく。


「中々やりますね!」

「君こそ私の不意打ち全部すかしといてよく言うよ」


 俺は梨花が油断した瞬間にカウンターを決めるべく、地面に土属性魔法の《トラップ》を張り巡らせていた。

 梨花が《トラップ》に半歩踏み込む。

 踏み込んだ場所だけが一瞬にして沼へと変わる。

 そして身長に比例しない大剣を持っていた梨花は体のバランスを崩した。

 

「はぁぁぁぁ!」


 俺はその瞬間を見逃さずに剣を叩き込む。

 死なない程度にだ。

 ここで梨花を殺したら人の目が多すぎる。

 俺の入団後はじめての模擬戦はなんとか勝利で終わった。

 勿論、勇者の力は封印したままでだが。


——

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