悪徳聖女の故郷

 聖女マリーの故郷は意外にも普通の村であった。

 平凡な両親から生まれたとは思えない才覚に恵まれたマリーは成人を機に、メキメキと頭角を表していく。

 いつの間にかマリーは聖女としての地位を小さな村で築いていた。

 そうしていつしか噂になり聖都へと招かれたマリーは聖女の儀式をした後、正式に聖女として王都で認められる。


「そうして今に至ると——つまらない話だな。世界を良い方向へと導くはずの聖女が聖女としての頭角を表した結果が、あれなのだからお笑いものだ」

「そう言われても……。叡智のアカシックレコードに書かれていたことをそのまま覚えて言ってるだけだし」


 ピシャリと言われてしまっては返す言葉もない。 

 実際問題エリシアは何も悪いことはしていないのだから。

 俺は少し気恥ずかしい気持ちを抑えながら聖女の村へと向かった。


 ◆◆◆


「あれが聖女の村ですか。なんというか書いていたよりも普通ですね」


 俺とエリシアは聖女の村を見渡すことができる高台まで来ていた。

 上から見る限り聖女の村は本当に不自然なほど何もないただの農村に見える。

 こういう農村なら畑に火をつけ、そちらに気を取られている間に家を燃やし最後に村人を全て殺すのが効率がいい。

 だがここは曲がりなりにも聖女が暮らしていた村だ。

 クソ教師やいじめっ子なんかとは格が違う。

 必ず何処かに何かの仕掛けがある。

 とてもじゃないがそう考えざるを得ない。

 あの女は人をか弱い見た目で油断させて全力で殴りかかってくるそんな奴なのだから。


 ◆◆◆


 村へ入ることはそこまで難しいことではなかった。

 聖女マリー様のファンで聖地巡礼にきたとか適当なことをでっち上げれば入ることはできる。

 問題はここからどうやって聖女の仕掛けを見破りながら村人全員を殺すかだ。

 エリシアの叡智のアカシックレコードは残念ながら個人の仕掛けを見破ることはできない。

 そうなってしまえば現地偵察をするしかないわけで。

 俺とエリシアは後で落ち合う場所を決め、また二手に別れた。


「ひとまず俺は村長宅へ向かうよ」

「わかりました。私はとりあえず歩いて色々な人に話を聞いてみます」

「くれぐれも目立たないようにな」

「わかってますよぉ!」


 こうして俺は村長宅へと向かうことにした。


 ◆◆◆


 「ここが村長宅か」


 この村で1番大きい建物かとも思ったがあれは聖女の実家らしい。

 尋ねた村長宅から出てきたのはなんの変哲もない老人だ。

 今まで滅ぼしてきた町や村で見てきた中でもかなり平凡な顔立ちと体つきをしている。

 だが、雰囲気が並の人間とは違う。

 聖女ともまた違う何か別の、ヨルに近いようなものの雰囲気を感じる。

 ヨルに近い……。

 なんとなく村の正体がわかった気がする。

 俺は村長に挨拶だけをし、その場を後にした。


 村長宅から少し離れた俺は聖属性魔法の《聖なる槍の裁きホーリーランス》を村長宅へ向け放つ。

 すると不思議なことに聖属性魔法は村長宅へと吸収されていった。


「やはりそうだ。この村は昔から降神の儀式をしていた。その成功例があの聖女というわけか。しかしあんな化け物呼び出すのに何人の人間を犠牲にしたのやら」

「なーにたったの5000人ぐらいですじゃ」


 不意に背後から声が聞こえた。

 俺は背後の警戒もしていた。

 となると聖女のような成功例がこの村にはもう1人居たということになる。


「やはりお前か。村長」

「おやバレていましたか。これは今後の反省に生かさねばなりませんねぇ。ちなみにこれをあげますのでどうか何故、気がついたのか教えてもらえませんか」


 そういった村長の手から首のようなものが俺に向かって投げ渡される。

 それの正体は人の生首だ。

 だがよくよく見ると血が出ていない。

 見覚えのある髪色に整った顔立ち。

 これはエリシアだったものだ。


「こんな手土産で俺がお前にわざわざ何かを教えると思うか?」

「少しは動揺してくれるかと思いましたが感情の起伏すら起きないとは貴方も相当壊れているらしい」


 そうだ。

 俺はもうとっくの昔に壊れている。

 これが勇者教育の賜物だ。

 仲間が仮に殺されても平然を装う。

 だけど短い期間ではあったが、エリシアとは本当の意味でいい仲間になれるかもしれない。

 そう本気で思っていた。

 だからこそ俺はエリシアの為にこの村の人間全てと聖女は必ず殺さなければいけない。


「急に黙り込んでしまってどうしました? あっ、もしかして意外と精神的ダメージを受けたとか」

「……ろす」

「何か言いましたか? 大きな声でないといくら神を降ろしたとはいえ、私も聞き取れないのですが」

「お前を殺すと言ったんだ。大人しく死ね」


 いつもより少し大振りに剣を振り下ろす。

 これは絶対に当たるはずがない攻撃だ。

 こちら側もこの攻撃を当てる気は一切ない。

 本命は次だ。

 俺はエリシアの叡智のアカシックレコードから学んだ闇魔法を使う。


『全てを滅ぼす神滅の闇よ。我が剣に宿り悪しき神を討ち滅ぼさんとする力を与えよ』

「馬鹿な! その詠唱は我々神と接続した者しか使えない……」

「神かなんだか知らんがあまり俺を舐めるなよ?」


神滅の暗剣ブラックフォールソード


 俺の魔法を乗せた一振りはモノの見事に村長の頭を貫く。

 村長がだったものが光を帯びながら消えていった。

 俺は改めてエリシアの首を見る。

 恐らくこの切り口ではいくら再生が可能なホムンクルスとはいえ厳しいだろう。

 いつかどこかでこいつだけは埋葬してやる。

 俺は残りの村人を殺し建物を燃やし、畑も燃やし何も痕跡が残らないようにし村を後にした。


 いつか聖女だけは絶対にこの手で殺す。

 だからマリー、お前は絶対他の人間の手で死んでくれるなよ。


——

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