手始めにいじめを扇動していた教師の故郷を

「ここがあのクソ教師の故郷か」


 幸いなことに俺に対してのいじめを勧めていた教師の故郷は修道院からさほど離れていない場所にあった。

 クラスメイト全員の故郷を滅ぼした暁には本人にその光景を見せ殺し、その後には必ず聖女と国王を殺し、王都を滅ぼす。

 この村にはその計画の足掛かりになってもらう。


 ◆◆◆


「お兄さんが今日泊まっていく旅の人?」

「いろいろなところのお話を聞けるってほんとー!?」


 村に無事に潜入した俺は村長から村長宅で子供達に旅の話を聞かせてやってくれないかという提案をされた。

 無秩序に動き回る子供達を一掃できるのであればこれ幸いだと思い、俺は提案を受け入れた。

 子供達を俺が殺したと知れば親は頭に血が上り正気ではいられなくなるだろう。

 そして必ず俺に襲い掛かる。

 そこからは1人1人殺していけばいい。

 そうすれば村は全滅だ。

 全員殺してしまえば目撃者は出ない。


「そうだな。色々なことを話してやるぞ! あれは俺が数年前に訪れたところの話だけどな」


 俺は子供達へ行ったこともない場所の話を想像や本で見た勇者の物語を交えて話す。

 緑が美しかったが途中でエルフに襲われただとか、この花は綺麗だがまれに人を襲うこともあるとか、ほとんどは勇者の物語から得た知識だ。

 ただ辺境の村の子供達にとってはそんな話でも新鮮だったのか、目をキラキラさせながら話を聞いてくれている。

 そんな子供達の姿を見て俺は昔の自分を少し思い出し懐かしい気分に浸った。

 さてそろそろ仕事の時間だ。


「ところでこの村の子供はこれで全員なのかい?」

「うん! ここはお金もないし人も少ないから。村を出ていって勇者の先生になったダカールおじさんの仕送りが、村人全員を支えてるって村の英雄だって母ちゃんが言ってたんだ!」


 あのクソ教師は人の子供はボロ雑巾のようにいじめの対象として使い捨てながら自分の出身地の子供は助けてたんだな。

 だったら尚のことこの村は滅ぼさないといけない。

 ダカールには俺以上の絶望を味わってもらわないとな。


「お兄さんなんで笑ってるの? 僕何か面白い話したかな?」

「いやいやダカールさんとは昔の知り合いでね。彼がそんなことをしていたとは思わない風貌だったから思わず嬉しくてね」

「お兄さんダカールさんとも知り合いなんだ!」

「まあね。少し話疲れたから俺はトイレにでも行ってくるよ。すぐ戻るから皆にここから動かないように言ってくれるか?」

「任せて!」


 そういうと男の子は他の子供達がいるところへ駆け出した。これからの自分達の運命も知らずに。


 ◆◆◆


「さて、とりあえず村長宅ごと燃やすか」


 外へ出た俺は周りに人がいないことを確認し、村長宅へ炎魔法を放つ。


「えーと確か憎しみを糧に全てを燃やし尽くす焔となれ」

怨嗟のエクサ•フレア


 詠唱と共に放たれたは瞬く間に村長宅を燃やしていく。

 光すら通さないその炎は生きているかの如く、建物から逃げ出そうとしている子供達へ纏わりつくのが見える。

 絶望に満ちた表情がいいとはとても思えはしない。

 俺はあいつらみたいな快楽殺人者とは違う。

 人の心は持ち合わせているつもりだ。

 そして火事に気がついた村人達が村長宅周辺へと集まってくる。

 当然村長宅前でその光景を見ていた俺に容疑がかかるわけで。

 計画通りと言える。


「旅人、お前何か知らないか?」

「さぁ? どうでしょうね」

「ふざけるな! 子供達はどうした!」

「どうしたもこうしたもそこの家の中で黒焦げになって転がってるんじゃないですか?」

「お前まさか……」

「ははは! ここまで滑稽な作戦が綺麗にハマるとは思わなかったよ。お前らもダカールと似て間抜けってことだな!」

「何故ここであいつの名前が出るんだ!」

「さあね。足りない頭で精々考えたらどうだ?」


 俺の小馬鹿にした態度に苛つきを隠せない村人は全員武器を持ち出した。どうやら誰かが号令をかけたらしい。


「話にならないな。お前を犯人として全員で殺させてもらう。この人数には敵わないと……」


 長々と話していた青年の首を俺は刎ねた。

 プシャと鮮血が舞い散る。

 御託が長すぎだ。ここはもう戦場だぞ。

 俺に投降を勧めるなんてバカなことはするべきではない。


「よくもカニースのことを!」


 他の村人が激昂して襲いかかってくるが全員取るに足らない。本当に味気ない。

 気がつけば殆どの首を落としていた。

 辺りは血の匂いで満ちている。

 後は鉈をもって怯えている村長の娘だけだ。


「君はやらないの? やるの?」

「やぁぁぁぁ!」


 俺の言葉に即発されたのか村長の娘は鉈を上段に構え突進してくる。単調な攻撃だ。

 俺はまず脅威となり得る腕を切り落とす。

 激しい血飛沫が上がり悲鳴と共に鉈を地面へと落とした。

 勿論、腕とセットでだが。

 村長の娘は必死に俺に問いかけてくる。


「何で……どうしてこんなことを! 私達が貴方に何かしたの!?」

「なんで? 簡単なことだよ。君達の大好きなダカール君が俺の事を間接的に殺したからだ。ならば相応の罪をダカールから支援を受けている君達も受けるべきだろう?」

「ダカールが!? そんな、彼はそんなことをする人じゃない!」

「そんなことをする人じゃないもクソもないんだよ。俺は一度ダカールのせいで死にかけてんだ。わかるか?」

「そんな……ダカールはそんな人じゃ」

「言い訳はあっちで聞くよ。というわけでさようならだ」


 俺は村長の娘の首を切り落とした。

 もはや悲鳴すら聞こえない。

 これであいつが故郷に帰った時には絶望が待っている。

 それだけで今から心が躍るというものだ。

 そんなことを思いながら俺は村の跡地を後にした。


 ◆◆◆


 暗い密室の中、男女の声が響き渡る。


「何!? 勇者候補者を逃しただと?」

「ええ。どうしても私では止めることができずに。ただしご安心ください。あの呪いを渡しておきましたので」

「あれを渡したのか。ならば恐らくはもう……」

「死んでいるかと。もし生きていた場合でも聖騎兵を出して追わせれば問題はないでしょう」


 そんな話をしていた時、突然扉が開かれる。


「今は会談中だ。緊急時以外の立ち入りは禁止だぞ!」

「そ、それが緊急事態です。聖女様の修道院近くにあった村が1つ、理由もわからぬまま全滅したそうです!」

「なんだと?」

「私の方を見られても心当たりはありません。強いて言うならば」

「勇者候補か。ならば聖騎兵を出すしかあるまい」

「聖騎兵を出す前に一度私に任せてくれませんこと?」

「愛娘のマリーがそういうのであれば一度任せてみるか。いいだろう。なんとか犯人を捕らえてみせよ」

「お任せください。国王……いえ、お父様」


——

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