PRESENTS~銀の糸を紡ぐとき~

萱野 耀

第1話(世界設定)

 第二次性徴が始まる頃、つまり思春期に入ったらなるべく早くに第二性の検査を受けましょうというのが、今の時代では常識になっている。望まぬ妊娠を防ぐというのが社会的な理由だけど、あくまでそれは建前で、恋愛や結婚にまつわる余計なトラブルに巻き込まれないようにというのが世の本音だ。第二性を知ることが、自分を守ることにも、相手を守ることにも繋がると、この世界に生きる人間であれば子供の頃から度々教わる機会がある。

 多くの生物にある雌雄の別とは他に、人間にだけある第二性。時に、第一性である男女の別以上に重要とされるそれらは四つに分類される。メイカー、テイカー、ギフト、ロバー。そして、それらのどの性であるかによって、人生の、主に結婚や出産の選択肢の幅が決まる。というのも、第一性が外見的な身体的特徴によって区別されるものである一方、第二性は生殖能力の特徴によって判断されるからだ。世間ではこの第二性を、『プレゼンツ』と呼ぶ。


 プレゼンツで大多数を占めるのがメイカーである。メイカーは第一性とマッチした生殖能力をもつ。つまり、女性であれば子宮と卵子があり、男性であれば精巣と精子がある。パートナーの在り方が第一性に縛られなくなって久しく、養子制度も整いつつあるけど、それでもメイカーであれば子どものために男女でパートナーになることがやはり多い。メイカー同士の子どもはどの第二性にもなる可能性がある。でも、メイカーに比べテイカー、ギフト、ロバーの数は極端に少なく、プレセンツ判定はメイカーであることを確かめるために行うというのが、多くの子どもの感覚であり、メイカーであることが普通と考える者もいる。

 一方、他の3つの性はメイカーに比べ生殖能力及び生殖活動がかなり複雑だ。

 テイカーは第一性に関わらず、あらゆる分野で優れた能力や成績を示しており、常に社会のヒエラルキーの上位に君臨している。向上心や攻撃性、支配欲、性欲が強い傾向にあり、所謂優秀な遺伝子を備えていて、第一性に関わらず精巣と精子がある。女性のテイカーの場合、子宮はあるものの排卵はなく、体内にある精巣から精子を採取し意図的に受精させることで子を作る。そのため、医療技術が進む前は女性のテイカーが子をなすことは難しかった。

 ただし、テイカーは生殖能力が低く、ギフト以外とは子をなすことができない。そのため、テイカーの多くはギフトとパートナーになることを望む。テイカーとギフトの間の子は九〇パーセント以上の確率でテイカーになるからだ。テイカーは代々テイカーの家系であったり、社会的地位の高い者が多いため、家柄や後継者の問題からギフトをパートナーに望むのは当然と考えられている。また、パートナーとなったギフトの存在が、テイカーの精神的かつ本能的な安定に繋がるというのも、ギフトをパートナーに望む理由の一つで、テイカーは自身が求めるギフトとパートナーになると、過度な攻撃性や支配欲がおさまると言われている。

 一方、ギフトは第一性に関わらず、子宮と卵子がある。男性の場合、精巣があり射精もできるが、精子はなく、子を生ませることはできない。そして、唯一テイカーの子を生むことができるのがギフトである。また、相手がメイカーの男性であってもギフトは男女に関係なく妊娠が可能であり、着床率も高い。

 ギフトは容姿端麗であることが多く、かつては生むための性と言われていたこともあり、テイカーがギフトを誘拐してパートナーにすることもあったと言われている。そして、今でもギフトには優れたテイカーを生むことが暗黙的に求められている。そのため、あまりギフト然としていない容姿の場合、本来の第二性を隠し、世の大多数であるメイカーを装って生きる方法を選ぶ者もいる。ギフトが第二性を隠しメイカーだと装ったままメイカーと結婚することは珍しくない。一般的に同性婚も認められているため、女性のギフトに制約は少ないものの、男性のギフトは女性のメイカーとパートナーになることが殆どで、男性のメイカーとパートナーになることは少ない。万が一妊娠した場合、自分がギフトであることが一発でばれてしまうからだ。

 テイカーは本能的に『自分のものだ』と感じたギフトを見定めると、手段を選ばずそのギフトを得ようとする。ただ、テイカーが無条件にギフトを認識する能力はないため、テイカーがギフトと出会っていても、相手がギフトだと気づかないまま過ぎることも多い。一方で、ギフト特有の容姿だったり雰囲気から、テイカーの脳が相手をギフトだと認識すれば、ギフトが第二性を公にしなくても、テイカーは本能的な支配衝動を生じさせる。テイカーの本能はギフト以外には絶対に反応しないため、本能が反応したからには相手はギフトだということになる。

 世間的にもギフトはテイカーとパートナーになるべきという風潮は未だに根強く、法に触れることでなければ、テイカーの行動は容認されることが多い。テイカーがメイカーからギフトを奪ったという話は未だに世間を賑わせている。だた一つ、他のテイカーのパートナーであるギフトを略奪することは禁忌とされているものの、これも『正式なパートナー』であるギフトに限られる。

 ギフトは精神的に相性のいいテイカーとパートナーになれれば、他では感じることができない幸福感を得られると言われているけど、それを得られるかはギフトがテイカーに向ける思いに大きく左右される。いくらテイカーとパートナーになっても、ギフトが相手のテイカーに拒否的であったり、愛がなければ、安心感を得るどころか、逆に精神的に不安定になることすらある。

 そして、第二性の中でも最も数が少ないのがロバーである。ロバーは第一性とマッチした生殖能力を持ち、テイカー同様に優秀で、社会的に成功している者も多い。ただ、ギフトと子をなすことはできず、むしろ主に挿入を伴う性交によってギフトの生殖能力を奪ってしまう。

 ロバーの生殖器からは、ギフトの卵子を破壊する成分を含む分泌液が出ており、それがギフトの子宮に到達することで、ギフトの生殖能力は完全に失われてしまう。これをブレイクと呼ぶ。女性のロバーの場合、ギフトに生殖器を挿入することが物理的にできないため、ブレイクが生じる確率は低いものの、決して0%ではない。

 ロバーの多くはブレイクを嫌っており、ロバー同士やメイカーとパートナーとなることが多いものの、メイカーを装うギフトとの間でブレイクが起きたり、テイカーからギフトを奪う目的でわざとブレイクを起こすロバーもいる。また、望まぬテイカーから逃れるため、自分からブレイクを誘うギフトもおり、それがテイカーを刺激して大きな事件になってしまうこともあった。

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