高校一年二学期

二学期

 高校生になって初めての夏休みは俺に色々な刺激を与えた。中学の頃は友達と家でゲームしたりとかはあっても夏休みらしい夏休みを過ごしていなかったからな。基本家から出なかったし。

 そんなことを思っていると、そもそも夏休みらしい夏休みとはなんなのだろうと自分で言ってて分からなくなった。果たしてそれは青春を謳歌することなのだろうか? 恋人とデートしたり友達とはっちゃけたり……。それとも勉学に励むこと? 部活動に精を出す、というのもあるかも。ああ、そうだ。当たり前だが夏休みの過ごし方なんて正解はなくて、人によって違うのだ。そう思い至ったら夏休みの過ごし方に正解を求めてる自分が恥ずかしく思えた。青春のカタチも人によって大きく違うのである。

 俺達の長いようで短い夏休みは終わった。部活動を本格的に始めて、みんなで遊園地に行った。白井と葉月とで夏祭りにも行った。それらは俺が中学の頃、経験しなかったことだ。しかし俺は青春を謳歌しているわけではない。俺には、そんなことできない。


 校門に怠そうにしている生徒達が続々と向かっている。二学期の始まりなんてほとんどの人が憂鬱になるだろう。俺も例外ではない。まあ、部活動が強制になってからは長期休みという概念が薄れている気もするが。休みという部分ではゴールデンウィークのほうがよっぽど充実してた気がするな。

 何はともあれ、始業式の日であっても、いつもの日常となんら変わりはない。高校生になってから今まで、あっという間に月日が過ぎていった。

 俺には同じクラスでも話したことのない人はたくさんいるし、まだ名前も覚えてない人だっている。俺の一学期は本当になんだったんだろうか。体育祭もぱっとしなかったし、印象に残ってるので言えば、何人かの女子に告白されたこととか演劇部に入部したことくらいか。もちろん演劇部に入ることで俺は大きく変わった。この俺が自主練を始めたくらいには影響があった。しかしそれは夏休み中のことで、学校生活の中でも部活という限られた領域での話だ。

 まあ何が言いたいかというと、俺は同じクラスの友達が少ないのである。浮いている、とまではいかないが誰とでも別け隔てなく接するとかできないからな、俺は。

 一言で言えばコミュ障だ。外見を磨いてもコミュ力を上げなければ結局は何も変わらない。別にモテたいというわけでも友達百人欲しいというわけでもないのだが、俺はとにかく中学の頃のような惨めな俺から変わりたい。そして変わった暁には、雨宮さんに会って話をしたい。俺の中で今でも燻っている後悔に終止符を打つのだ。

 だが、今はまず文化祭の劇を成功させるために上手くならなければ。それとジュリエットの役を決めるのは恐らく今日だろう。もしかしたらまだ決めないのかもしれないが今週中には決めることになる気がする。水野さんが想いを伝えられたらいいのだが……。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 夏休み明けの教室には笑い声で溢れていた。大方、夏休み中に仲良くなった人達なのだろう。一学期では見なかった組み合わせがぼちぼちある。

 しかし俺はみんなが和気あいあいとしている中、一人で机に突っ伏していた。

 話す相手が葉月と白井しかいないからだ。それ以外の人とも話したりはするが自分から話しかけたりはしない。葉月や白井とも気が向いたときにしか話さないし。……こういうところが俺をコミュ障たらしめるんだろう。

 机に伏したまま葉月を横目でちらりと見る。

 俺と同じで相変わらず一人でいた。手には参考書を持ってそれをぼんやりと眺めている。

 葉月も俺と同様、小学校の頃は友達が多かったのだ。それが今やこのざまである。人生のなんと難しいことか。


「なに?」

「いや、なんでも」

「そっ」


 葉月は視線を参考書に戻した。

 結局あれ以来、核心に迫った話は一度もしていない。なんとなく葉月がそれを望んでいない気がするからだ。お互い心の内を隠して接している。生きていくうえでそれは重要なことなのだろうが、歪な関係だな、と俺は自嘲した。


 朝のホームルームの時間を告げるチャイムが鳴って生徒が各々と席に座る。チャイムが鳴り終わる頃に後藤が無精に教室に入ってきた。それからすぐに号令をかけさせる。


「あー久しぶりのやつは久しぶり。二学期は神校祭やら合宿やら色々あるが、進路についても考えていかないとだからな。文理選択、十二月にはもう決定するからそのつもりでいろよ」


 神波高校では一年のうちに文理選択をしてクラスが分けられる。文系の中でも日本史と世界史、理系だと生物と物理でコース分けになるのだ。俺は数学が苦手だから文系にしようと思っているのだがどうやら進学するには理系のほうがいいらしい。真偽は定かではないが俺自身、まだ何がしたいのか全然決まってないからな。今からでも理系科目を必死に勉強するべきだろうか。


「あー、それと始業式が終わったらする休み明けテスト、頑張れよ。よし、ホームルーム終わり」


 後藤はそんな感じで雑に締め、教室から立ち去った。

 休み明けテスト、今回はやばい。





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