新入部員

 家族にこっぴどく怒られました。

 まあ連絡して無かったし仕方ないな。俺が悪い。驚いたのは妹が泣いていた事だ。まさかそこまで心配かけてるとは思わなかった。まあ中学の頃の事もあるし当然と言えば当然か。反省してます。

 それよりも、これから毎日部活に出るから帰るのが遅くなると家族に言ってしまった。俺が部活に入ったのは演劇がしたかったからではなく、勉強がしたくなかったからなのだが。

 まあ言ってしまったことだし、取り敢えず今日も部活出るか。

 午後のホームルームを終えて、席を立つと白井が近づいてきた。


「よお。今日も部活出るんか?」

「まあ、そのつもり」

「そっかあ、これから暇になるな」

「白井も部活行けよ」

「先輩が怖い」


 ……漫画研究会の先輩が怖いってどんな何だ?

 ヲタクしかいないイメージがあるんだけど。意外とガチでやってるもんなんかな。


「まあ、あれだ。予想だけど部活サボってる奴そろそろ先生に目付けられるぞ」

「は? なんで?」

「そりゃ部活やってない奴は勉強ってことになったし。部活サボってる人に対しても学校側がなんかするだろ。多分。知らんけど」


 実際、部活やってない奴よりサボってる奴の方がたち悪いし。昨日は何も考えずに部活入ってやろうと思ったけど絶対に学校側が幽霊部員に対しての処置をするだろ。多分。知らんけど。


「そうやって保険かけるのやめろよ……」

「これ、ほんとに使い勝手良いよね」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 


 部室のドアを開く。

 案の定、水野さんが先に来てた。

 水野さんは自主的に発声練習を行っていた。俺が来てからすぐに辞めたけど。嫌われてるからではなく恥ずかしくてやめたのだろう。きっとそうだ。……そうですよね?


「……こんにちは」

「こんにちは」


 取り敢えず椅子に座るか。ここには机はないが丸椅子が何個か積み重ねられており、自分の好きな所に適当に座るとのこと。水野さんが窓際に座っていたので俺は廊下側に座ることにしよう。

 窓台に荷物を置いて椅子を持っていく。暇だし本でも読んで待つか。


「……なんで演劇部に入ったんですか?」

「え? ああ……。まあ昨日先生が言った通り放課後残って勉強するのが嫌だったから」

「そうですか」


 居心地悪いな。まあ入部する理由としたら不純だよね。頑張っている人から見たら特に、何だこいつってなるだろうし。

 そういえば水野さんはどうして演劇部に入ったんだろう?


「えっと、水野さんは?」

「姉に憧れて」

「へー! お姉さんいるですね! 演劇やってたんだ」

「はい! 全国大会にも出てたくらいで、本当にかっこいいんです。あ、急にテンション高くなっちゃってごめんなさい……」

「別に謝らなくていいのに。というか演劇部って全国大会とかあるんですね」

「……そうですよ。本当に演劇について何も知らないんですね」

「あ、ごめん」


 全国大会、あるんだ。運動部だけだと思ってた。それにしてもお姉さんに憧れてかあ。そういうの、なんかいいな。お姉さんの話になると明るくなるのが少し可愛く思えた。


「というか、何で敬語使ったりそうじゃなかったりするんですか。統一してください」

「ああ、初対面の人には基本敬語で話してるんだけど、いつからタメ口で話したらいいのか分からないんだよなあ」

「じゃあ、タメ口でいいです」

「あ、うん」


 距離が縮まった、と喜ぶべきなのか。だけどなんか距離を感じるんだよな。水野さんが敬語だからかな。


「水野さんもタメ口でいいよ」

「私は誰にでも敬語なので」

「あ、そう……」


 まあそれなら仕方ないか。

 水野さんと他愛もない話をしていると、時間が過ぎたようで、先輩たちが来て活動が始まった。


 発声練習のときに先輩たちに部活について教えてもらった。まあ昨日、ある程度は教えてもらってたんだけど。

 まず、先生は基本的に発声練習や筋トレのときには来ないとのこと。そして、肝心の劇だが、文化祭のときと、新入生たちへの部活紹介のときに行われるらしい。俺は部活紹介の日は風邪を引いて休んでいたから知らなかった。先輩二人でしたらしい。

 そして幽霊部員だが、全員二年生とのこと。一年生の時から来なくなったようだ。

 そんなことを話しながら、発声練習は終わった。


 筋トレをしているときに先生が一人の男子生徒を連れて部室に来た。

 男子生徒は俺の方を見ると、うげっ、と声に出して驚いた様な、嫌そうな表情を作った。

 ……いやうげっ、て。人の顔見てそれは流石に失礼でしょ。というか現実でそんなこと言う奴始めてみたわ。

 俺はこの男を誰だか知っている。なぜならばクラスメートだからだ。


「紹介する。こいつも西園寺と同じで、勉強が嫌で部活に入りたいと言ってきた俺の受け持つ生徒、盛岡慎也もりおかしんやだ」

「いらっしゃい演劇部ヘ。いやあ、部員がどんどん増えて嬉しいよ」


 先輩がそう、歓迎した。





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