第13話

「魔石、なかったなあ」


大広場の西側。

軽食を出す露店の簡易テーブルに頬杖をついて、ザックが残念そうな声を出した。


ヒロに教わった場所に出ていた露店は水飴屋だった。

周辺にもそれらしい店はなく、結局二人は午前中かけて広場にある全ての露店を見てまわる羽目になった。


正確には、全ての露店を見てまわるザックにバートは付き合っただけなのだが。


「これだけ探して見つからないなら、諦めるしかないかなあ」


諦めるしかないと口では言いつつ、まだまだ諦めきれていない様子でザックが独りごちた。


「どうやってあれほどの魔術を込めたのか知りたかったなあ」


「本当に願いが叶うのかなあ。どういう魔術理論なんだろう」


「相当の魔力を感じたけど、あれほどの魔石を一般人が買える価格で売って利益が出るのかなあ」


テーブルを挟んで向かい合わせに座っていたバートは、ジンジャーエールの入ったグラスを揺らしながらザックの独り言を黙って聞いていた。


ザックは、魔石が欲しいというよりも魔石に込められた魔術のほうに興味があり、魔石をつくった者と話してみたかったようだ。


根っからの研究者なのだな、とバートは思った。


「仕方ない。もう一度ヒロに魔石を見せてもらおう」


ザックがため息まじりに言った。

ため息の大きさがザックの落胆ぶりを表していた。


「わかっているとは思うが」


ずっと黙っていたバートがようやく口を開いた。


「お前にとっては好奇心の対象だったとしても、彼女にとっては恋人からもらった大切なものだ」


「あまりしつこく付き纏うなよ」


ザックは自分の好奇心を満たすためなら手段を選ばないところがある。

バートはこれまでザックのやることに極力口出しすることを避けてきたが、今回に限ってはなぜか不安を感じた。


ヒロの恥ずかしそうに、だがとても幸せそうに微笑む顔を思い出すと、思わず苦言が漏れた。

しかしザックは気に留める様子はなかった。


「ただ見せてもらうだけだよ。別に魔石を割って調べようってわけじゃないさ」


当たり前だ、とバートは言いかけたが、口をつぐんだ。

今釘を刺したところで、ザックは聞いていない。


いざとなれば、自分が止めに入ればいいのだ。

いくらザックが自由奔放でも、妙齢の女性に強引なことはしないだろう。



いや、流石にしないでほしい。そこまで非常識ではないと思いたい。



運ばれてきたピザに歓喜するザックを、バートは縋るような気持ちで見ていた。

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